【お嬢様 悪治物語】 お嬢様、この世界を治めるなら『悪』として治めていただきます(v016)
皆様の”想像の邪魔”をしないように、出来るだけ余計な説明をしないというコンセプトの作品です。
『』:照子(てらすこ)
「」:十夜雨(とよう)
内容はシリアスですが、ゆったりした気持ちで読んでいただいて、行間や間、余韻を楽しんでもらえれば幸いです。
※この作品の登場人物のように”まだまだ未熟”な文章力&遅筆ですが、皆様と共に成長していければと思います
また、片仮名になっている箇所は複数の意味(例:モノ→者・物)を持つものもありますので、色々とご想像ください。
(00)
「戦争は、戦う必要のない民までもが犠牲になり、その犠牲がまた新たな犠牲を強いる。まるで、終わる事のない敵討ち」
『……』
「戦争とは、治める者の最大の不始末。本来、あってはならない事なのです」
『でも。攻められたら……』
「そう、その為の備えは必要です。
ですが、クニとクニの争いである戦争ではない場合、例えば……武装集団が襲撃してきたと仮定します」
『う、うん』
「その時は警察や軍等の専門チームが対処し、収束すればそれで終わりです。戦争の様に以降も継続し、長期に渡ることはない」
「戦争は一度始めたら、直ぐには終われない。戦争を始めたクニを治めるモノが”や~めた”と言うまでは」
「また、仮に”や~めた”と言っても、戦争を仕掛けられたクニを治めるモノが、報復を望めば戦争は終わらない」
「これは、治めるモノが持つ強制力によるものであり、治めるモノが本来すべき役割から逸脱しているにも関わらず、強制力を持ち続けている事に起因します」
「また、本当は戦争など行いたくないのに、その強制に決して抗えない双方のクニの民は人質のようなものです」
「そう、強悪犯と化した治めるモノが、戦争を続けるため、治めるモノで居続けるため、自らのクニの民を人質にする……」
『はい! 故に”戦争は最大の強いる悪、強悪犯罪にして最悪の人質事件”なのね』
「その通りです。お嬢様」
『でも、飛ばし過ぎよ、十夜雨。途中、私のことを忘れていたでしょ』
「いえ、そんな事は……」
『あと二人の時は、呼捨てで呼んで』
「はい、照子お嬢様」
『もう……』
「お嬢様」
――呼捨てで良いと言ったのに、名前で呼ぶ気はないようね。
「お嬢様!」
『は、はい』
「先程の件、問題点はどこにあるかお分かりでしょうか」
『治めるモノの強制力により、戦争が続いてしまう?』
「はい。それは交戦権といって、今は広く認められています。
戦争にも色々なケースがあり一概には言えないのですが、将来的には無くすべき(→交戦権)と考えます」
「戦争も、昔のように相手が何ものか判らず……」
『魔物や化け物といった得体の知れないものの可能性?』
そっとうなずく十夜雨。
「意思の疎通が出来ず……」
『言葉が通じない――言語の翻訳!』
大きくうなずく十夜雨。
「今、挙げたように交渉のすべがない場合は仕方がないとしても、交渉する余地があるならば戦争をさけるために、最大限の努力をするのが治めるモノの本来の役割です」
『本当にその通りだわ、十夜雨』
「お嬢様、民が治めるモノに望むことは一つです。唯々、良く治めること。唯々、上手く治めること。そして、世界が丸く収まること」
「だだ、それだけでございます」
――その夜、照子は良い夢を見た――
(01)
「お嬢様、悪とは何でしょう?」
戦争……、犯罪……、ありきたりね、ここは――
『善ではないもの』
「では、善とは?」
『……悪ではないもの』
「それでは、善悪を決めるのは?」
『……じ、自分?』
「その通りです。お嬢様」
「治めるモノの強制力によるものが一つ、各々の倫理観により判断されるものが一つ」
「まずは、治めるモノの強制力によるものについて説明しましょう」
「最初に話したように、強いる事は悪になります」
「それは、強いる事によって”無理”が生じてしまうからです」
「無理が通れば道理が引っ込む、無理は”歪み”であり、その歪みがまた新たな歪みを生みます」
「それは、”嘘”を嘘としない為に新たな嘘をつくのと同じです」
「そうして、罪重(つみかさ)なったものが、今のこの世界です」
『……』
「私がお嬢様に”悪として治めよ”と言ったり、”強いるモノは罪を帯びる”と言うのは――」
『それが”原因”という訳ね』
『でも、やはり私は”悪者扱い”されることに納得がいかない』
『そもそも』
「――お嬢様!」
「まずは深呼吸をして、息をお整え下さい。大きい災難がある時には息が乱れます」
『……そ、そうだったわね』
「お嬢様、悪と言っても実際に悪い行いをしたり、悪者を装うということではありません」
「民は常々、治めるモノが善であって欲しいと願っています」
「それは、”自分は最高の環境で、最高の教育を受け、最高の生活を送っている”と信じたい、
――いわゆる”郷土愛”によるものです」
「そんな、民の切なる想いを逆手にとって、治めるモノは自身の正当化を図ります」
「”シャカイは悪くない、お前が悪いのだ”と」
「お嬢様、シャカイにとって最も疎まれるものの一つが何か、お分かりでしょうか?」
『……』
「それは、そのシャカイが決して成しえない”正論”です」
「例え、”悪い”とされた者が本当に正論を述べていたとしても、その意見は否定されます」
「治めるモノは勿論、”シャカイは常に正しい”と信じたい民も同様に否定します」
「そして、その意見が正論であればある程うとまれ、あげくの果てにはシャカイ的に抹殺されたり、本当に亡き者にされたりします」
『……』
「これは、シャカイが”常に正しい”や”完璧である”とする幻想によるもの――
つまり、シャカイが未熟だということを認められない事が原因です」
「ただ、これには隠れた大きな問題があります。それは本当に”シャカイが決して成しえない”ものなのかという疑問です」
「無論、今のシャカイでは逆立ちしても実現できないケースもあるとは思います」
「ですが、”シャカイが決して成しえない”と誰が判断するのか?」
「そもそも、ここで云うシャカイとは何を指すのか……」
「おそらく、シャカイに口が存在すれば、こう言うと思います」
「何もかも”シャカイ”のせいにするが、それは治めるモノの都合だろ!!」
「お嬢様、シャカイが良くなるか否かは、クニを治めるモノの手腕による処が大きいのです」
「それは、最大の強制力を持つモノが下した決定は、シャカイに多大な影響を与えるからです」
「例え、それが人々の為を想ったものでも、何らかの悪意があるものでも、民にはそれが判りません」
「民にとっては、下された決定により、もたらされる”結果”が全てです」
「例えば、下された決定がある法律の制定だったとします。もし、その法律が悪いものならば大変です」
「何故なら、その法自体が”悪”になってしまうからです」
「”悪として治めよ”とは、その決定が多大な影響を及ぼすからです。
その決定が、戦争を意思するものならば最大の悪となり、その決定を自らで覆す以外に止める方法はありません」
「お判りいただけましたでしょうか……」
『……うん。わがっだ。でも、わたし……自信ない』
「大丈夫です。お嬢様。善を意思していても、結果が悪になれば悪だという事。
自身が未熟だと悟り、その決定を下す前に必ず省みること。
この二つが判られたなら、後はこの十夜雨が目一杯サポート致します」
『でも、こんなに未熟な私が……。人々にも申し訳ない……』
「お嬢様、これはいい機会なのかも知れません!」
「民は治めるモノに完璧であることを求めます。ですが、実際の処、治めるモノは未熟であり本当に完璧だったことはありませんし、おそらくこれからもそうです」
「しかし、治めるモノが実は未熟であるという事は、民には一切知らされません」
「それは、未熟であることを”認める”と、後々おさめる事が難しくなる等、おそらく色々な理由があるのだと思いますが、ここは敢えて――」
「私、十夜雨は ”全ての統治は、未熟である” と宣言します」
『そんな事をしたら、誰の支持も得られなくなってしまう……』
「その通りです、お嬢様。ですが、偽ることは嘘と同じですので歪みが生まれます」
「勿論、何もかも明らかにすれば良いという訳ではありません」
「治めるモノが全て、本来の役割を全うしていれば、民が知らなくても問題はないのです」
「ただ、今のこの世界は”治めるモノが治めやすい”ように歪められています」
「その一つが各々の倫理観です」
「治めるモノは、あらゆる手段を用いて自身が治めやすい様に、個人の倫理観を操作しようとします」
「無論、強いることも可能ですが、それは反発も呼びます」
「それよりは、個人の倫理観を巧みに操作し、進んで協力するように誘導するのです」
『……』
「お嬢様、治めるモノが全てお嬢様のように人々の事を想っているとは限りません」
「残念ながら、今のこの世界において、お嬢様のような存在は稀有なのです」
「ですから、この状況下で私やお嬢様が正論を述べても、その結果は”シャカイは悪くない、お前が悪いのだ”の二の舞です」
「人々の為を想って起こした行為が、人々にも疎まれてしまいます」
「故に、人々の意識改革を喚起するために”統治、総未熟宣言”を行います。
また、これは最終的に治めるモノの統治のハードルを下げることにも繋がります」
「本当は”悪治である”と言いたい処ですが、それでは、より受け入れ難くなってしまうので"未熟"とします」
「また、未熟は見方を変えれば、伸び代があるとも言えます」
「おそらく、今のこの世界で最も伸び代があると思われる分野が統治・支配です。
それは、統治・支配するモノが一方的に”治めやすいように”、”支配しやすいように”しているのが原因です」
「具体的に言えば、”言うことを聞かせるため”、”従わせるため”に人の世の何もかもを歪めている、これこそが”諸悪の根源”です」
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(次回予告)
統治する為の統治。
支配するための支配。
何もかもが、免罪符や正当性の証明のために歪められた五十界で
二人は真理に近づけるのか!?
次回、「諸悪の根源」
”必然たりえない偶然~”ではなく、”偶然たりえない必然はない”が私は好きである。
Not even justice. We want to get truth! 真理をつかめるか?
(正義や正論などでは無く、私達は真理を知りたい)
※高橋良輔監督作品「太陽の牙ダグラム」「装甲騎兵ボトムズ」に感謝をこめて
予告通りにならない事もあります(苦笑)
私は、愚かだから「仕方が無い」や弱いのが「悪い」ではなく、
最愚最弱者(最も愚かで最も弱き者→さいそこびと)達が”さいそこびと”のまま、
健やかにつつがなく暮らしていける世界こそが本当に良い世界だと考えます。
本作が、そんな世界を実現するための一歩になることを願います。
※新シリーズ始めました
「”言うことを聞かせるため”、”従わせるため”に人の世の何もかもを歪めている、これこそが”諸悪の根源”です」の答えも序々に解っていきます。