あな
一瞬意識が飛んだーーーー。
ーーーー次の瞬間。あたり一面雲だらけなのに、一箇所だけ風呂敷が敷かれてある此処に俺はいた。
完全に重力を無視している。
「あれ、こんなとこにいたっけ?」
ーーそう呟いた瞬間。天高く、空からジイさんがマッハで落ちてきた。
長髪で白髪で、白髭のジイさんが。
(…成程。俺はコミケのアルバス・ダンブルドアのコスプレイヤーのとこに来てたのか。)
「おぉ、スマンのう。気がつきおったかい?」
「あ、はい。それより、お体大丈夫ですか?高いとこから来たみたいでしたけど…」
「ほっほっほ。心配いらんよ。にしても、君は立派だね。
いきなり訳の分からん場所に来たのに自分の心配もせずに、こんな老いぼれの心配をするとは。
どうやら、ワシの目に狂いは無かったようじゃの。」
? 見た感じ悪い人じゃなさそうだし、思ったより体も大丈夫そうだけど…。ていうか似すぎじゃない?
この校長先生。
「おうおう君、えっと… 沢木諒くんだったかな?」
ジイさんが頭を指びさし、必死に思い出す。それに、名前も合っている。
流石はホグワーツの校長。人一人覚えるくらい容易いのか。
「はい。」
「ワシは校長先生じゃないぞ?」
「!」
「ワシはここで450年間神様をやっとる。名前はもう忘れてしまったわい」
え…。俺声に出したっけ? ていうか今、神様って…?
「いやいや、出してないぞ。」
「! なんで思ってることが分かったのですか!?」
「いやいや簡単なことだぞ。なんせワシは心の声が聞こえるからのう」
?? 俺寝ぼけてんのか? 心の声が聞こえるジイさんなんて…。
そうか、これは夢なんだな! 最近見てなかったし。今まで溜まってたのが一気に出てきたんだ。
成程成程。だからこんなに立体的な夢を見てるのか。
「まぁ、君が夢だとか思うのは好きにしたまえ。いや、案外その方が良いのかもしれんの。
…さて、今からワシは重大な事を話すぞ。しっかり聞く覚悟はあるか?」
ジイさんの優しい目つきに、真剣な眼差しが灯る。
随分とストーリー性のある夢だな。まぁ、流れ的にここは聞くところか。
「はい。どうぞ続けてください。」
「うむ。では続けるぞ。まず初めに、今から言う事をしっかりと覚えておいて欲しい。
一度しか言う時間がないのでな。」
ジイさんはコホン、と小さく咳払いする。
「単刀直入に言おう。君は雷に打たれて死んだ。覚えとらんか?
さっきまで普通の並木通りを歩いてたのを」
(確かに、俺はさっきまでそこを歩いてた気がする。で、そこで急に意識が…)
「…少しは思い出したようじゃの。それで、今ここにいる君は魂だけなんじゃ。
体はさっき燃やされて無くなったようじゃがの。」
ジイさんは皮肉そうに笑う。
もう葬式が開かれたのか。みんな来てくれたかな。…夢だけど。
「それで、問題はその次じゃ。これを説明するにはまず、ワシが神様であることを信じてもらわねば困 る。よいか?」
「はい」
「うむ。平に感謝しよう。それでな、君に神様になってもらいたい。どうだ、やってみる気はないか?」
「是非、お願いします。」
俺は即答した。ジイさんはそれを聞き、目を大きく開く。
「ほほう。君は本当に肝が座っているな。ワシでさえ驚愕したものじゃったのに…。
これを受け止めれば、もう2度と戻れなくなる。男に二言はないのが、神様ルールじゃからな。
…よいか?」
「はい。大丈夫です」
ジイさんは高らかに声を張り、笑う。歳の割になんて良い笑顔。
「よし、正式に任命する。沢木諒、いまからお主は新しい神様じゃ。
まず神様として、初めの仕事をこなしてもらう。これを見てくれ」
ジイさんが人差し指で空気に触れると、目の前にモニターが現れた。
「お主にはまず、もう一度『人間』として人生をやり直してもらう。
その際に、選べる世界が3つある。それを今から選択してもらおうという算段じゃ」
「分かりました」
「では、まず第一の世界についてじゃ。この世界は崩壊しきっている。そこにお主が
勇者として生まれ、世直しをしてもらうことになる。
次に、第2の世界じゃ。これは今と変わりないおよそ似た世界になっておる。
ただ、そこでお主には生き様を残す名誉を創ってもらうことになる。
次に、第3の世界。これは魔法に溢れるファンタジーな世界じゃ。
そこで、お主にはやがて来る災厄を除いてもらう。
…わかったかの?」
「はい」
「じゃあ、決まったら教えてくれ」
ジイさんは疲れた顔をし、深呼吸する。それに対し、俺は小さく溜め息をつく。
どうしたものか。流石に夢でも疲れるんだぞ。長いと。
でも、まだ続くかもしれないしな…。ちゃんと選んでおこう。
「あの、ひとつ聞いていいですか?」
「うむ、なんじゃ?」
「えーと… あなたも神様だったのですよね?あなたはどの世界を選んだのでしょうか?」
試しに聞いてみた。前任の方の意見を聞くのも有効だし。
「ワシか? ワシは3つ目じゃぞ。面白そうだったしの。実際面白かったがな。
そうじゃ!ワシはあの世界で名を残しとるから、その子孫として生まれさせることもできるぞ?
それに、ちょっとぐらい能力をつけちゃっても構わんぞ?」
なんという儲け話。ついている気がする。ここ最近ツキが回ってこなかったからな。
「じゃあ、是非その世界でお願いします」
「わかった。じゃあ、何の能力をつけようか?」
「あなた様が困ったことは何かありませんでしたか? あの世界で」
「う~む…」
目を上に向け、頬づきする。そんな様子を見て、俺は一切黙り込む。
「なんじゃったかの… MPとかいうのが中々辛くてな?あと、敵もおったしの…
どうじゃ、この際無限にしてみるとかいうのは?」
「その話に乗ります。あと、敵とか怖いので、防御力を強くしてくれませんか?」
「まぁ、よかろう。それでいいならばな」
「ありがとうございます。」
「よし、決まりじゃな。あぁそうそう。目的を果たせずに死んでしまったら、
何回でも一からやり直しじゃから、気をつけなさい」
何で大事なことを先に言わないのか。まぁ、結果的にいつ知っても同じか。
「それじゃあ、名前を決めてくれ。カタカナじゃ。」
うーん…。俺「沢木諒」だし、なんかいい名前…。
よし、リヨクにしよう。
「決まったか?」
「はい、リヨクでお願いします」
「ほほう、いい名じゃな。性別はどうする?男でいいか?」
「はい」
「種族は?ヒューマン、エルフ、ドワーフ…。 どうする?」
種族て!そんなものあるのか!まぁでも何かあったら嫌だし、ここは…
「ヒューマンでお願いします」
「わかった。決めてもらうのはこれだけじゃ。君の準備が出来次第、すぐに出発できるぞ」
「あ、いいですよ。もう」
ジイさんは唖然とする。だが、そんな顔も束の間。すぐさま笑う。
「こんなに早く進むとは思わんかったよ。君を選んで本当に良かった。
実のところ、死んだ人は他にも居ったんじゃがな?」
「はは… 期待に応えられるように頑張ります…」
「うむ、是非とも答えてくれ。じゃあ、いくぞ?」
ジイさんの笑顔が目に映る。
そして、俺はまた意識が飛んだーーーーーー。