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岩男の夢

 岩男が夢に出ました。

 全身がボツボツの岩に覆われていて、その間間から無数の目がこちらを覗いているのを、気味悪く感じたのだと思います。

「赤は好きか」

 と岩男が聞くので、「私はお前が嫌いだ」、と私は言いました。

 私はじきに死にます。

 この岩男が夢に出たということがその将来的な死の予知となっていたので、腹いせ式に嫌悪をぶつけたのでした。

 遠くの方で黒竜が吼えます。

 先日、世界の果ての西側で大きな火災が起き、そこで死んでいった無数のウーパールーパーを嘆き悲しんでいるようでした。

 ウーパールーパーは黒竜の同胞であり、同時に婚約者でもあったからです。

 今日の朝食は煮物でした。

 白い帽子を被った変質者がちゃんとした服を着て外を歩いています。

 原因はベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤の副作用でした。

 友人は私の網膜に精子が泳いでいるのをとても嬉しそうに見て、手に持っていたコーヒーカップを逆さまにしました。中から大トカゲのピンク色みたような動物がヌルリと落ちてきたことを覚えています。

 蜘蛛の巣がベッドでした。

 部屋の床の一部が抜けていて不快です。

 テンポ感が重要であることは間違いなくそうなのでしょうけれど、遥か向こう側からゼイゼイと息を切らしつつやってくる初老の怪物がどうしても手に負えないのでいけません。

 発泡酒の空き缶が飼い犬を始終苦しめ続けます。

 怒った拍子に顎が外れてしまったのでしょう。

 鼠が自分の尻尾を食べて、愚かだと思う自分はきっと明日のディナーをひっくり返すことになるとも知らずにいます。

 嵐の前の静けさで自分が強くなったと勘違いをした例のカタツムリ氏のような勇ましさがヒシヒシと伝わって来ます。

 別段不調ではありませんが先週から妻が家に居ません。

 暗室でヒグマの凄惨な片腕がもぎ取られて泣いているのを隣人から聞きました。

 レスキュー隊員が屋上に潜んでいるので何の問題もありません。

 絶対的なあの河川が今日も私の夜を掻き乱して仕方が無いのです。

 太陽は虫です。

 セコンドを任されたので柴又にやって来ると、見事な白い歯をギラつかせた悪魔がウジャウジャとはびこっているではありませんか。

 私はガールフレンドに首輪をし、そのままにしてしまいました。

 遠くの方で花火が爆発するのを黙って見届けることしか出来なかった矮小たる私をどうか許していただきたいです。

 岩男は言いました。

「岩男は言いました」

 と。

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