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シロイハコニワ

プロローグ



ふとした瞬間に懐かしく感じることがあるだろうか。



草原の中に立つ一本の木を見た時。


路地裏にいる猫と目が合った瞬間。


季節の変わり目に感じる風の感触。



なんだか知っているようなそんな感覚に・・・

デジャブとは少し違う、言い表せない様な胸のざわめきに、戸惑い、心が弾む。



 

そんな、不思議な感覚に。



第一章



朝、目が覚めると泣いていることがある。


夢でも見ていたのか、心にモヤがかかった様なそんな気持ち。


大事なことだったのになぜか起きると忘れてしまっていて切なくなる。


「はぁ…今日から新学期なのにな…」

この春から東京の大学に通うため、一人暮らしを始めた。


入学式は、数日前に終わっていたので今日から授業が始まる。


「なんで一限取っちゃったんだろう…」

自分で選んだ履修に文句を言いながら学校へと向かう。


「細馬さん。おはよう」

校門を通り過ぎると声をかけられた。


「あれ?なんか寝不足?」


「阿久津さん。おはよう…夢見が悪くて少しね。」


彼女は、阿久津マリ。

私と同じ社会情報学部に通う新入生だ。


入学式の日は、名前の順で座ると思っていたので私、細馬羽衣は前方の席になる。


会場に着くと自由席と表示があり、後方の端に座ると彼女がやってきた。


お互い地方組だったためか意気投合し、なんとなく一緒にいる。


「私も朝活でカフェに行ってきたから、ちょっとだけ眠いわ。」


「そう言えば、細馬さんこれから講義?」


「そう。一限からあるの…」


私は、友達を作るのが苦手なのでこうして話しかけてくれる人がいるのは、凄く嬉しい。


「私は、ないからサークルの見学に行くんだ!」


私達が通う大学では、一年生のサークル活動は、必須になっている。サークルといっても校内だけでなく、他の大学とのインカレサークルでも可能なのだ。


「私も探さないとな…オススメとかあったら教えて欲しいです。」


やっぱり知っている人がいると安心するし。


「ここの大学、写真サークルが有名らしいよ?」


入るかどうかはわかんないけど。と阿久津さんは言った。


「ちょっとだけ見にいこうかな?」


「じゃ、私も一緒に行くよ。時間が空いてる時に連絡するね。」

そう言って去っていく。


まぁ、でもサークルって将来のこと見据えて考えると就職に役立つところとか好きなことを極めたとかじゃないと不利になりそうだな。




その後、阿久津さんとは、予定が合わなくて写真サークルを見に行けたのは、二日後だった。」


「写真サークルって地味なイメージあるけど、今はSNSがあるから意識する人が多いのかも?」と阿久津さんは言う。


体験入部をすることになったのだが、思いのほか見にきている人が多かった。


「なんか女子が多い気が…」


「あぁ…うちのサークルに郁斗がいるからかも」


郁斗?とは、誰なんだろうか。


部長らしき人が声をかけてくれた。


「えっ。もしかして弦弓郁斗さんですか?凄いですね!」と興奮気味に阿久津さんが言った。


うちの大学では、ミスター&ミスコンがある。


そこで二年連続一位を取ってしまったので殿堂入りを果たした人らしい。


「それほどにイケメンなんですね…」


「イケメンもそうなんだけど、文武両道で確か医学部でしたよね?」


うわぁ・・・。

神は、天に二物を与えたのか。


いや、きっと性格に難があるのでは?


そうでも思わないとなんだか生きるのが少し辛くなってきてしまう。


「噂をすればなんとやら、郁斗!こっちこっち」


部長さんが呼びかけるとこっちに向かってくる影。


「えっ、待って。足長くない?」


阿久津さんの声に混じり、観覧していた女子達の声が遠くに聞こえる。


私は、なんだか冷や汗をかくような。


でも、なんだか懐かしく感じるような。


私だけ一人取り残されたような静けさを感じた。



そして・・・



弦弓さんと目が合った瞬間。


私は、一雫の涙を流していた。






弦弓さんと登場により本入部する人達だけが残ることになった。


私はというと、端の方で阿久津さんと椅子に座っていた。


「郁斗さんと会ったことあるの?もしかして初恋の人とか?」


阿久津さんに色々と聞かれているけど、どんな人かも知らないし、会ったこともないはずだとしか言えないでいる。

全身で悲しいや嬉しい気持ちを表現しているようなそんな感覚だ。



最悪なのは、初対面の人に対して目が合った瞬間涙が出てきてしまったことだ。


思い出さなきゃいけないのに、思い出せない。


モヤモヤした感情が渦巻く。


「羽衣ちゃんだっけ?」


「はい、先程は、すみませんでした。」


本当に申し訳ない気持ちになる。


「今日のところは、もう帰った方がいい。それと、、、」


迷惑をかけてしまったこともそうだが、弦弓さんから発せられた最後の一言でなお心配になった。


「それじゃ、私はここで。気をつけて帰ってね!」


阿久津さんと別れ、旅路につく。




『それと、、、。俺達、会ったことあるから。ずっと昔のことだけど』


会ったことがあるのに私は、覚えていない?


弦弓さんは、ハーフっぽい顔立ちをしていて、身長も高いので簡単に忘れられるような人ではない。


小さい頃に会っているのなら忘れている可能性もあるけど、田舎に住んでいたので数える程しか知り合いはいない。


家についてもずっとそのことだけが頭の中をぐるぐると回っている。


どうやってご飯を食べてお風呂に入ったかも覚えていない間に眠ってしまっていた。







ここはどこだろう。


私は、白いワンピースを着て裸足で歩いている。


足元には、若草の柔らかい感触、生暖かい風に混じって潮の香りがする。


しばらく歩くと、少し古びた白い建物が見えた。


誰も住んでいなかったのかヒビが入り、ツタが生え始めていた。


中に入ると物はなく、地下室に続く階段だけがあった。


あぁ。私、幼い頃に一人でここに来てよく遊んでたな、、、。




____昔の記憶が流れ込んでくる。

栗色の髪の少年と私がここら一帯にある集落で二人で遊んでいたこと。




ふと、気配を感じ窓の外に目を向けるとそこには、栗色の髪の青年が立っていた。


「やっぱりここに来ていたんだね。」


彼は、愛おしそうに悲しい瞳で呟いた。


「本当にごめん・・・。愛しているよ・・・」

「さようなら・・・」


青年は、そう言い放ち手に持っていたピストルを私に向けて撃った。



私は、薄れていく意識の中で考えていた。


彼の手に握られていたのは、金色の刺繍で模様が施されている白革でできた私のピストルだ。


なぜ、栗色の髪の少年は、大人になっていて私を探しにこの建物に来ていたんだろう。


それに、私のピストルを持っているのは、どういうことだろうか?


そして、白い建物の地下室から漂う不穏な空気。


まるで入ってはいけないと言われているようだった。


栗色の髪の青年は、悲しい瞳をしていたが瞳の奥から愛しさを感じた。






「弦弓さん、、、?」

目が覚めると、頬に涙が伝っていた。



今日見た夢は、なぜか全て覚えていた。


小さい頃から繰り返し見ている夢だ。


いつも思い出せなくて、悲しい気持ちになっていた。


「会ったことがあるって、夢の中、、、?」


弦弓さんが言っていたことがわかった気がした。


でも、こんなに気持ちが晴れないのはなんでだろう。


シェイクスピアのロミオとジュリエットを読んだ時のような。


それに、私は、あの場所に行ったことがない。


もしかして前世で会ったとでも言うのだろうか。


こんな非現実的なことなんて起きるのだろうか。



まぁ、考えてもキリがない。


本人に聞いてしまおうか?


何よりも無性に弦弓さんに会いたい。


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