第5話 ヒホンにて
ヒホンの街についた3人は傷ついた少年と出会う
無事に便意地獄を脱した女神マリアと、召喚された勇者シンと、召喚された勇者によって召喚されたレオルドの一行はヒホンに入り、街をめざしていた。
カンカンと照りつける灼熱の太陽、滴り落ちる汗、またそれを一瞬で水蒸気に変えるほどの熱を蓄えた岩が見渡す限り続く、草も生えぬ地獄のような場所、ヒホン。そんな過酷な環境を徒歩で行く3人組がいた
「あぢぃーーー」
マリアは全身から大粒の汗を流し、両手に1本の杖を掴み、それを支えにとぼとぼと老婆のように歩いていた。暑い。なんであの2人はあんなに涼しい顔して歩けるのよ。岩もゴロゴロして歩きにくいし、疲れたからと言って座ればアッツアツの岩におしりを焼かれるし、先は見えないし。なんなのよもう!
「ねぇ、なんであんた達はそんなに涼しい顔して歩けるの?」
暑さと歩きにくさに奪われきった残り少ない体力を振り絞り声を出す。
「魔界にはこのくらいの環境は当たり前にあるからな。魔族の幹部クラスになれば自分の苦手な環境に行かなければならない時もある。その時は全身を覆うように薄い魔法障壁を張って外の環境から身を守っているのだ」
シンはスタスタと歩きながら答える
「あんたはわかったけど、魔法が使えないレオルドはなんでそんなに涼しい顔して歩けてんのよ。」
見たところレオルドもこの地獄のような環境を全く意に返していない。
「俺がかけてやっているからな」
いつもならここは「この状況見てなんで私にもかけてあげようとか思わないわけ?!」とキレるところであるがマリアにはもう怒るほどの体力も気力も残っていない。
「お願い、私にもお恵みを、、、、」
とうとう少しばかり進んでいた歩も止まってしまった
「お前女神だろ、お前が恵んでもらってどうする」
口ではそう言いながらもシンはマリアに魔法障壁をかける。そして、マリアの元まで戻ってきた。
「急いでいる。担ぐぞ」
と言ってマリアを肩にかつぎあげる。いつもなら喜びまくるマリアも今はそんな体力を持ち合わせていないらしい。なにせ、暑さはカットされたが減った体力は戻らないからな。
「ありがどう。」
マリアは萎えた野菜のようにしなしなになっていた
「気にするな」
シンは一言言うと、全身に魔力を放出させ急に走り出した。信じられないほどのスピードで進んでゆく。また、それに生身で着いてくるレオルド。途中、俺の魔力に集まってきたこういう気候特有のサボテン型やサソリ型の魔物が出たが、かなう訳もなく、レオルドが1人で切り刻んだ。そして、熱気によってメラメラと揺れている地平線の向こうに街が見えてきた。
かなり遠かったな。マリアのスピードに合わせていては半月はかかったぞ。やはり担いできて正解だった。マラガ出発から半日後、ようやくヒホンの街に着いた。
ここでもまた無理やり通ろうとして門番と揉めたが、その話は割愛しておこう。
無事? ヒホンの街に着いた3人は宿を見つけそこで休んでいた。
「ぶはーー! 生き返る〜」
さっきまで死んだ魚の目をしていたマリアに、道中切り刻んだサボテン型の魔物からから搾り取った水を飲ませた。魔物は亜人種以外はかなり美味い。そして全身余すことなく使えるため冒険者は魔物を討伐して生計を立てている。
例えば道中切り刻んだサボテン型の魔物。針は貫通力に優れた軽くて頑丈なレイピアになる。皮は固く、防御力に優れているので鎧などに使われる。果肉は肉厚で味もいいため素焼きにしてよく食べられる。
サソリ型もそうだ。外殻は丸ごと鎧にできる。残った身も上手いらしい。食べたことないが。
イノシシ型の魔物についてもそうだ。毛皮は頑丈で分厚いので防寒着にも、防具にもなる。肉は当然食べられる。牙は研いで剣に使われる。他の小さめの歯は矢じりになる。骨も蹄も棍棒に変えられたり、砕けば薬にもなるらしい。
と言った感じで魔物は金になる。
「どうする? 今日はここで休むか、このまま魔王の元へと歩き続けるか」
椅子に座ってサボテン型の魔物の水を全て飲みし、次は果肉を頬張っているマリアに聞いてみる
「休みたいわ」
口いっぱいに詰め込みながら答えるマリア。まるでリスだな
「そうかわかった」
シンが今日とまる部屋に行こうと席を立ち上がろうとしたその時、
ドンドンドン! 宿の入口が叩かれた。なにかと思い振り返ると、10歳くらいの傷だらけの少年が立っていた。
「あ、あんた達!さっき門番達ぶっ飛ばしてた人だろ? お願いだ、かーちゃんを助けてくれ!」
と、泣きながら助けを求める少年。話が掴めん。少年に詳しい話を聞いてみる
「何がどうしたのか言えそれじゃわからん」
少年は泣きながら詳しい状況を説明する
「なるほど、門からここまで着いてきたわけか。で、母親が魔物に襲われていると」
話は理解したが、出るはずのない場所に変な魔物か、これも魔王出現の影響だろうな。しかもイノシシ型の時よりも2段階ほど階級が上がっているようだ。確実に魔王に近づいている。少年の話を聞いてマリアが話しかけてくる
「シン、この子の母親を助けてあげて。お願い」
はぁ、言われずともそのつもりだ。無視して母親に死なれても後味が悪いからな。
「ではいってくる」
外へ出ようとする俺に後ろから声がかかった
「おいらもいく!」
と、言うが、連れて行っても正直いって足でまといだ。場所もわかっているし、連れていくメリットはない。傷もひどい
「いらん。貴様は俺が帰るまでそこの女と遊んでろ」
と、一言言い残し宿から出る。さっき来た西側の門の近くに反応があるな。多分これだろう。俺はとんでそこへと向かう。
なぜここに来るまでの間飛べるのに飛んで行かなかったのかだと? それは「とぶ」違いだ。
俺は「跳んでいる」のであって「飛んでいる」のでは無い。飛ぶこともできるが魔力を発散させてその推進力で飛ぶため魔力を察知した魔物どもが集まってくるのであまりやらない。
1分ほど進んだところに母親らしき人物とそれを追っている黒い魔物の姿が見えた。あれか? そうっぽいな。魔物と母親らしき人物の間に降り、背後にいる母親らしき人物に声をかける
「おい、助けに来てやったぞ」
「あ、ありがとうございます」
と、答える母親、どうやら生きてはいるようだな。まぁ死んでいてもマリアに蘇生させればいいだけの話だが子供には見せられんだろう。
黒い魔物は急に現れたシンを見て戸惑っているようだ。一応知性も、欠片程度は持っているようだな。持っていなければ問答無用で人型のものを襲うはずだ。黒い魔物はどうやらカンガルー型の魔物の異常種のようだ。まぁたしかにこういう環境に強い方ではあるが、珍しいな。体格もかなり大きい、身長だけでもざっと俺の4倍はあるか?カンガルーらしからぬ牙まで生えている。こりゃ魔王になる3歩手前の亜種の段階だな。と、戸惑っていたその魔物が腕をおおきく振りあげ威嚇をしてきた。
「ほう、俺に喧嘩を売るつもりか」
その瞬間、シンの身体から大量の黒い粒が溢れ出した。力の差を見せつけるためだ。シンから溢れ出す底知れぬ程の膨大な魔力に、力の差を知ったカンガルー型の魔物は腕を下ろし、威嚇を辞めた。
「力の差を理解できるほどの知能はあるのだな? だが、俺に喧嘩を売った代償はでかいぞ。その身をもって償え」
シンの身体周りに発生していた黒い魔力の粒が渦をまく。右手を手をカンガルー型の魔物へと向ける。すると黒い粒が右手へと渦を巻きながら集合していき、禍々しい色をした球体が形作られていく。カンガルー型の魔物はシンの魔力にさらされ、動けないでいる。
「火炎」
次の瞬間、カンガルー型の魔物の足首より上が消し飛んでいた。
御覧くださりありがとうございました。