30話
しばらくマリアの世界と行ったり来たりしながら1週間がたった。シンは元に戻り、シンの膨大な魔力量で転移は一回で無事成功し、魔物や植物以外の生物は全てマリアの世界へと転移された。シンの世界の人間達はこの世界の住人と比べればかなり頑丈なので、とりあえず灼熱の地域ヒホンの、それも人もすまぬような場所に留まっている。しかし、さすがに人間はヒホンの暑さには耐えられるわけもないのでシンが全員に魔法障壁を張っていた。
そして、無事にことが片付いた末に、人界と魔界、共に幹部達が集まっていた。当然マリアもいる。数百年以上も睨み合ってきただけあり、やはり穏やかなムードというわけでは無かった。
ゲッ…あのクソ男。なんでここにいるのよ!!!
マリアがこそっとシンに耳打ちする。
人間側の王だ。居るのが当たり前に決まっているだろう。
マリアに返事をしたところで早速集まったものたちに話を始めた。
「ご苦労だった。反発した何人かは消えたが、それでもよくまとめあげたと思う」
「何人か消えたって…消したの間違いでしょ……」
「こちらの世界に来たは良いものの、問題が山積みだ。知っての通り、魔族と人間は今回の件で既に同盟を結んでいる。もし争うものがいればその瞬間に消滅させると魔族側には伝えてあるが、人間の方はどうだ? アーサー」
「もちろん伝えてあるよ。もし破ろうものなら魔王様から痛いお仕置きがあるよとね」
アーサーがシンを茶化すように言い放つ。
「それは賢い判断だな。わかったか? そこの阿呆ども」
人間側の幹部らがピクッと反応する。基本的に人間よりは魔族の方が強い。そのため魔族側の魔卿は人間の視線を意にも介さぬ様子でいた。小さく、戦闘には向かないようなシヴァでさえ、人類最強のアーサーと殴り合っても即死しないほどに頑丈であるから当然といえば当然だ。
「マリア、お前の世界の領土を三分の一ほど俺たち異世界人が入るわけだが、反発はでなかったのか?」
「え…わかんない」
「だろうな、と言うわけで勝手に占領するわけにもいかん。今から各地の王に交渉へ行く。俺とレオルド、そしてアーサー。お前もこい」
ーーだろうな!?
マリアがシンの言葉に過剰に反応した。
「本当に君たちの魔皇様は優しいよねぇ? 別にわざわざそんな面倒なことしなくても、力があるんだから捻り潰してしまえばいいのにさ? シン以外の魔族と人間全員が力を合わせて戦ったところでそれを力で押さえつけるくらいは出来るでしょうに」
「俺は力に頼るやり方は好かぬ。お前とてわかっているはずだ」
「ほんの冗談だよ。そうも出来るのにねって話」
2人の会話にマリアが割って入る
「ちょっとまってぇぇええ!! 今私の名前呼んでないわよね?! 何?! 私を置いていくっての!? 一応この世界の女神なんですけど!? ちょっと! なんとかいいなさい……にょ!」
シンのが叫び散らかすマリアの口を掴んだ。
「少し静かにしていろ。はっきり言ってお前を連れていくメリットはない」
「ぬぬ…ぬぁんでふと!? わたふぃだっふぇやくにたふこともあふわよ!」
「この女の子ほんとに女神だったんだ」
アーサーがシンとの会話を聞いて茶化すように言う。
「この通り女神らしくはないがな」
「ふぁぁああ!? ひゃんとめがみふぁってるっつーの!!」
「はっきり喋れ」
散々騒ぎ散らかした挙句、シンが諦め、マリアもシン達と一緒に行くと言うことになった。そして、この世界では転移を禁じられていると言うのでファルア王国へと転移を使わずに行き始めた。
「さっきメリットがないって言ってたけど、この世界の女神なら多少は連れていくメリットはあるんじゃないの? 無くても人質にすればそれなりにさ?」
「何物騒なこと言ってんのよあんた!! ぶち殺されたいの!? まじで調子乗ってるとね、シンからほんとに殺されるから!!」
シンを挟んでマリアがアーサーに怒鳴りつけるが、アーサーは澄ました顔でそれをスルー。
「落ち着け。こいつはこの世界の住人に女神として認知されていない。仮に認知されていようが俺は人質を使うような卑怯な真似はせぬ」
「認知されてないって…だったら使えないね。」
「使えないとか言ってんじゃねぇぇええ!!」
シンを盾にしながらガミガミ怒鳴る。
「ていうか、女神って何をするの? 小さい頃に聞いた話だと、なんか人を救うとか聞いたけど、認知されてないって事はそれしてないってことだよね? 僕達の女神様は人間に対して何もしてくれなかったから信仰されるとか全くなかったなぁ」
「うっさいわね!! 女神だって忙しいんだっつーの! だいたいね、女神が人を助けるのも女神の勝手だから! 救われるのが当たり前だと思ってんじゃねぇんだっつーの!」
マリアの勢いにさすがのアーサーも苦笑いを浮かべた。
「わかったか? 聞いての通りただの職務放棄だ」
「うっさいわよ!!」
「魔法障壁を解くか? ここはヒホンのど真ん中だが?」
「なっ…ダメに決まってるだろ!!!」
「ならば静かに女神らしくしてろ」
なによ女神らしくって。ただの偏見じゃない。私は自由の女神よ。そうよ! 自由にすればいいのよ! マリアがそんなことを考えていると、アーサーがしんみりとした声で話し出した。
「不思議なものだ。人間の王と魔族の王がこうやって肩を並べて歩く日が来るなんてね」
「確かにな。これから魔族と人間が互いに手を取り合って行ける世の中になればいいのだが」
「それは無理だよ」
アーサーが語を強め、そう、断言した。
「なぜそう言いきれる?」
「魔族のシン、ましてや最強である君に人間の事などわかるはずもないか。人は魔族に比べれば弱い生き物だ。人間は異物をあまり受け入れることが出来ない。人が人である以上、魔族との完全なる調和は絶対に不可能なんだよ。弱いからね。」
対するシンは、そうか…と静かに答えた。




