第21話 魔王節
ーーー問題ない。魔族の戦いは盛り上がってこそだろ
ーーーやりすぎじゃ無いか? マリア腰抜かしてるし
ーーーほっとけ
シンの返事は、『問題ない』だった。
全く、これだからシンは。実際魔族同士の戦いでは盛り上げるためにわざと相手の技を食らったり、初めから本気で戦わなかったりといった『文化』が存在する。かつて、強い魔族が手加減をしていたのがこの文化の始まりとされている。
「どうしたのかなー? 黙っちゃって、もしかして死んでるのかな??」
ディアボロスがシンを煽る。魔法障壁はもう破裂寸前のところまで来ていた。
そして、ついにその時がやってくる。バキバキバキっと物凄い音を立て、魔法障壁にヒビが入る。灼熱と化した黒き炎が亀裂から溢れ出す。魔法障壁が裂けたのを合図に中の炎が炸裂した。その炎が大気を焦がし、大地を蒸発させた・・・かに思えたがそうはならなかった。吹き出した炎は何かに弾かれたかの如く、先ほどより一回り程大きい球状に収まった。
これにはディアボロスも何が起こったかわからない表情だ。
「何? どう言うこと?」
さっきまで沈黙していたシンがニヤリと笑い、蔑むような目でディアボロスを見る。
「ぬるいな」
何が起きたかまだ掴めていないディアボロスはシンの言葉でさらに動揺する。
「つよがるなよ。さっきまで死にかけだったくせに。最後のあがきは見苦しいよ」
ディアボロスもシンと同様に笑う。
「ふっ。そうか、お前にはそう見えていたか。なら『演技』は上手くいったようだな」
は? 演技・・・?! いや、違う。死際に強がっているだけだ。しかし、この状況からの打開策があるのか? なければこのハッタリはただ虚しいだけだぞ。
「それもはったりだろ。僕は騙されないよ」
「はったりだ? 笑わせてくれる。貴様の魔法障壁で抑え込めておけなかった漆黒炎舞を押さえ込んでいるのは誰だろうな」
シンは自分の腹部を貫通しているディアボロスの左腕を掴み引き抜く。ディアボロスは抵抗しようと力を込めるがシンは意に介さない。
「ぐ……だからなんだって言うんだい。僕が魔法障壁を得意じゃなかった。ただそれだけじゃないか」
「『ただそれだけ』か。まぁいい、もう演技は充分だろう。それに、貴様の母を殺したのは悪いと思っていたから殺さずに俺の世界へ連れて行ってやろうとしたが、それもやめだ」
「ふっ、ふふ。僕が君の世界を壊しちゃうもんね」
苦し紛れに強がり、笑みを見せる。全力で仕留める気でいたこの技を完全に受け切ったシンに対し、ディアボロスはもう敵わないことを悟ってはいたが、プライドがそれを認めることを許さなかった。
「貴様が? 面白い冗談だな。貴様程度のやつは俺の世界にも沢山いるぞ」
シンがさらにディアボロスのプライドを煽る。
「黙れ!!」
先ほどまで見せていた知的な様子ではない。もう余裕がないことがわかった。
「ふん、頭に血が上って語彙力も落ちたか。お前の復讐劇も終盤に入ったな。先に死ぬのはどちらか?」
「お前に決まっているだろ・・・」
歯軋りをしながら身を睨む。ディアボロスは先ほどの魔法障壁と漆黒炎舞で魔力を使い果たし、浮かぶだけで精一杯であった。
「ふん。残念だったな、死ぬのは貴様だ。魔王に反逆した罪でな」
右手につかんでいたディアボロスの左腕を握り潰す。
「ぎっ!? 貴様・・・」
ディアボロスの顔が苦痛に染まる。
「死ぬ前にいいことを教えてやろう、漆黒炎舞はこうして使うのだ」
シンが左手を前に差し出し、ゆっくりと拳を握ると黒炎球が徐々に縮まり、シンの左手へと凝縮する
「さらばだ」
黒く燃え盛る漆黒の左手でディアボロスの頭部を掴む。その炎は一瞬にしてディアボロスを包み込んだ。
「ぐはああああ!!!!!」
自身の技でディアボロスはあっけなく完全に消滅。シンはレオルドとマリアの元へと降りる。
マリアはペタンと座り込んでいた。
「終わったぞ」
下を向いていたマリアに声をかける。
「シン…お腹…え? 治ってる」
マリアが俺の様子を見て、驚いた表情をする。顔が真っ赤だ、泣いていたのだろう。
ーーーえ? ボロボロになってた服も元に戻ってるし、どゆこと? しかも、普通にピンピンしてるし。
「どうだ? 今回は楽しかったか?」
……は?
マリアは下をむきながらゆっくりと立ち上がる。
「…いつからよ」
「聞こえんもっとはっきり喋れ」
「いつから・・・いつから『演技』だったのか聞いてんだぼけー!!!」
マリアはアスリートさながら踏み込みで、シンの顎に向かい、右アッパーをお見舞する。
ーーーバシッビシっ!
「この世界に降りたあたりからだな」
マリアのアッパーを左手で受け止め、右手で頭を打ちながらシンがサラッと答える。
「ふぐっ・・・! いったー!!!」
打った勢いでマリアは俺の足元で土下座のような体勢になる。
「俺に攻撃しようなど100万年早いぞ」
「うるせー! 私の心配返せこの人でなし!!!」
顔を上げ怒鳴る。
「おいおい、蘇生している時に気づかなかったのか? 石が当たっても痛くなかっただろ」
あ・・・思い返してみれば。痛くなかった
「もしあれが演技じゃなかったとして、お前に魔法障壁など張る余裕があったと思うか?」
確かに。
「・・・ない。」
納得のいかない表情をしている。
「楽しめたならそれでよかったじゃないか」
「よくねーっつーの。心配させんな。」
次章は、魔界で話が進みます。




