第19話 勇者、死す
イリア領に移動した魔王を討伐するため、シンとレオルドとマリアの3人はイリア領に降りてきた。
「シン! 本当に大丈夫なんでしょうね?」
「………」
無言だ。レオルドも相変わらず無言だし、本当に大丈夫なのよね。マリアの脳裏に『勇者の死』と言う言葉が浮かぶ。なっ、何考えてるの私は! シンの強さは私だって知ってるじゃない! 大丈夫…なの…かな…?
黙ってついて行っていると、立ち止まり、急にシンが声を上げた。
「おい」
「な、なに?」
「貴様か、わざわざ世界を渡ったというアホは」
えっ? もしかして私じゃない? 前を向くと、そこには禍々しい魔力を纏った2mほどの男がたっていた。次の瞬間、シンの姿が消え、数刻後にドゴーンというけたたましい音が背後で響く。
「…見つけた。」
ーーーガキン。
目の前でけたたましい金属音が鳴り響いた。そこには、間一髪で突っ込んできた「そいつ」を剣で受け止めているレオルドの姿があった。そいつを受け止めた反動でレオルドが踏ん張っている地面にヒビが入る。
「…マリア。シンを…」
…はっ、そうだ。シン! 何が起こったか全くわからなかった。本当に次元が違うじゃない! イリアの言うことを聞いてちゃんと準備してくればよかった。シンが一撃で吹っ飛ばされるとかやばすぎるでしょ。
マリアはドゴーンという音のなった方へと向かった。走っている間も、背後からレオルドと「そいつ」が闘っている事を知らせるように、金属と硬い何かがぶつかるようなけたたましい音が鳴り響く。ドゴンと音のなった辺りは、サンゴ礁のようなものがバラバラに砕けており、その威力を物語っていた。
「シン!! シン! 」
マリアは必死で瓦礫をかき分ける。すると、中からボロボロのシンが出てきた。
「え…シン…シン!! シン! しっかりして!!」
マリアはボロボロのシンを見て気が動転する。あれだけ強いと思っていた『最強』の存在がいとも簡単にこのような姿にさせられたのだから仕方がない。気が動転したマリアは、何度も何度もシンに蘇生をかけた。
しかし…反応がない。それでもマリアは諦めずに蘇生をシンにかけ続ける。
「シン!! 嘘でしょ…目を覚ましてよ!!」
レオルドの闘っている場所からものすごい数の石が飛んでくる。それだけ凄まじい闘いを繰り広げているのだろう。それがマリアに当たるが、マリアは気づかない。
「……シン。おねがい…」
マリアの魔力が尽きかけた時、シンの目がうっすらと開いた。
「はっ……シン! しっかりして!!」
「…マリア。すまなかったな…こんなところに連れてきてしまって」
「何言ってんのよ!? あんたらしくないじゃない! 前みたいにあいつで遊ぶんでしょ?! まだ前振りなの?! ねぇ…」
シンはマリアの頭を撫でる。
「そう…だな」
そういうとゆっくりと立ち上がった。ボロボロだ。その姿に言葉が出なかった。
「では行ってくる」
それを言い残し、シンは目にも止まらぬ早さで交戦中のレオルドと「そいつ」の元へ向かった。
「は……女神としてちゃんと見とかないと」
マリアは立ち上がり、シンの後を追った。
シンが交戦中の2人に無造作に近づき、右手で魔王の拳を、左手でレオルドの剣を受け止める。その瞬間けたたましい音とともに、シンの足元の大地に亀裂が走った。
「貴様、魔族のくせに挨拶もなしに一撃を入れてくるとは、プライドがないのか」
左手をレオルドの剣から離し、「そいつ」と相対する。
「俺は勇者モーリス・シンだ。魔族であらば、闘う前に名乗るのが筋というものだろう」
シンの身体から漆黒の魔力が溢れ出す。
大丈夫なのかしら…あれだけボロボロになってたのにあんな無茶なことして…シンにとってあれがどの程度のものかは分からないけど。
「我は魔王ディアボロスだ! 貴様を殺し、母の仇を取る」
その言葉を言うと同時に、ディアボロスの身体から一気に禍々しい魔力が噴き出した。シンの足元の亀裂が更に酷くなる。しかし、シンはびくともしない。
はったりをかましているのかもしれないけど、完全に魔王の力に対抗できている…気がする。
「母の仇だと? 笑わせるな。勘違いも甚だしい」
より一層シンの身体からは魔力が溢れ出し、シンは左脚で魔王ディアボロスを蹴り飛ばす。衝撃波と共にディアボロスは吹き飛んだ。
良かった。シンはまだ戦える。
「勘違いだと…? 貴様、覚えてないとでも言うのか。あの日貴様が殺して食べた、『イノシシ型』の魔物の事を!!!」
あの巨体が吹き飛ぶ程の威力の蹴りを食らったにも関わらず、ディアボロスは意に介さない。それどころか、更に力を増している。
「あぁ思い出した。あれのことか」
ちょっと!? 何煽ってんのよ!? 母親をあれとか言われたら普通に怒るわよ!!
「『あれ』だと…。かけがえのない大切な者を奪っておきながら『あれ』呼ばわりだと……。ふざ…けるな」
マリアの予想は的中。ディアボロスの魔力が溢れ出し、大地がひび割れ大気が震える。
ディアボロスのたっていたところにクレーターができたかと思えば、ディアボロスは消えていた。
ーーーバキンっ。
何かが割れる音と共に今度はシンがその場から消え、次の瞬間には後ろにあった大きなサンゴ礁が崩れる。そしてシンはその瓦礫に埋もれていた。
今の音…もしかして、魔法障壁が破られたんじゃ…。
「シン!!!」
「だい…じょうぶ…だ。来るな」
瓦礫をかき分け、フラフラになりながらも立っている。そこにディアボロスが追撃を加えた。ビシッビシッと音をたてながらシンは何度も吹き飛ばされる。
これにはさすがのマリアも本気で心配になる。
「シン! もういいから! あんたが死んだら何もかも終わるのよ?! 転移で神界に戻りましょうよ!」
殴られ続けるシンにその声は届いたのかは分からない。ディアボロスはなぜ魔法を使わないのか。使えない? いや違う。あえて使っていないだけだ。
「貴様は大切な者を奪われたことはあるか。目の前で殺されたことはあるか。無惨な姿にされ、食われるところを見たところはあるかー!!」
この憎悪を直接叩き込むために。
ディアボロスはシンを蹴りあげ、自分も空へと飛び上がり、シンを地面に叩きつけようと拳を振り下ろした。
ーーードンっ。
一瞬時が止まったかに錯覚した。しかし、それは違った。
なんと、さっきまで一撃一撃で大きく吹き飛ばされていたシンが片手でディアボロスの渾身の一撃を受け止めていたのである。その顔には微かに笑みが宿っていた。
「おい…。何が仇だ。貴様の母を守れなかったのは誰だ? その時に、少しでも自分の母親を助けようとしたか? ただ黙って隠れていたんじゃないのか? 自分の弱さを他人に押し付けるな」
「違う…貴様らさえ来なければ、母が死ぬことは無かった!」
更に魔力が増大するディアボロス。シンを下に叩きつけようとする力が増す。しかしーーー
「違わない。貴様が守れなかったのだ」
シンはびくともしない。
「確かに貴様の母を殺した事はすまないと思っている。だが仕方の無いことだ」
「仕方の…無い……ことだ…? ふざけるな!! それで片付けられると思っているのか! 自分の家族が誰かに殺された時、貴様は『仕方がなかった』で片付けられるのか!!」
ディアボロスの身体からは更に禍々しい魔力が溢れ出す。大気がさらに震えを増す。
「あぁ、仕方の無いことだ。この世は所詮弱肉強食。弱ければ死ぬ、ただそれだけだ。だが、俺は世界を滅ぼしてでもそいつを探し出し復讐するだろう。殺される事と、それに対する行動。それとこれとは話が別だ」
「何が言いたい…」
「お前の母親が死んだことは仕方のなかったことだ。だがな、それに対してお前が復讐をするという選択は間違っていない。
『死んだ母親は望んでない』だの、『そんなことをしても変わらない』だの言う連中がいるが、所詮ただの綺麗事だ。他人事だから言えるのだ。
復讐しても消えたものが帰ってこないことはわかっている。消えたものがそれを望んでいないかもしれない事もわかっている。
それでも、行き場のない怒りと悲しみを人のこの小さな心の器に収めることは出来ない。その抑えきれない、溢れ出した、行き場のない怒りや悲しみはどうすればいい? そうだ。『復讐』だ。
その溢れ出したやり場のない感情はそうやって相手にぶつけて発散させなければどうにもならない。何も間違ったことではないだろう。復讐するなというのは、所詮他人事だから言えるものであり、無責任かつ無価値な言葉だ。そして、残された人間を最も追い込む罪深い言葉でもある。」
「知ったような口をききやがって…」
ディアボロスの魔力ががさらに増す。大気が震え、大地が悲鳴をあげはじめた。
「好きなだけ俺にそのやり場のない感情をぶつけるが良い」
ーーー漆黒炎舞
ディアボロスのからだから吹き出した黒い炎がシンを襲う。その熱量は凄まじく、大地を溶かし始めていた。
「…死んでも後悔するなよ」
掴まれている右腕の力を緩め、ディアボロスは左腕をシンの腹部へと突き出した。
「ーーー地獄極殺雷」
おびただしいほどの稲妻が走る。
その後も何度も何度もディアボロスが魔法をシンへと放つが、シンは黙ってただ何も抵抗せずに受け続ける。
「シン… レオルド! シンは大丈夫なの?!」
「……」
先程は口を聞いてくれたレオルドだか、今度は答えなかった。
タイトル詐欺すいませんでした…
『スライム。実は魔王倒せます〜冒険者に舐められるスライムは超晩成型です〜』
の方が総合評価100pt超えました! そちらもぜひ!
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