第14話 あいつにできて俺に出来ぬ道理はない
「さて、どうしたものか。気になることが一気に増えたな」
シンは自室へ戻り1人頭を抱えていた。父上のこと。神のこと。異世界召喚のこと。そして俺とレオルド。なぜ今までルシファーはそんな大事なことを教えなかったのか。いや、俺が興味のない素振りをしていたせいか。親子の絆というものが本当に存在するのであれば、1度は体験してみたいものだ。父上。
突然部屋がノックされる。
「シン様。」
レオルドの声だ。
「レオルドか。入れ」
扉が開きレオルドが現れる。
「ここには誰もいない」
独り言ではない。レオルドに対して言ったのだ。
「…シン、俺は父上を探したい。そして母上にも会ってみたい。」
なんと、あの無口なレオルドが話し出した。しかも、魔皇を呼び捨てに。実はレオルドは幼い頃は良くシンと話していた。しかし、シンが魔皇として崇められた際に、自ら魔皇の威厳を保つため、あのような態度を取っていたのだ。
「ああ、そのつもりでいる」
「わかった。とりあえず組手でもやらないか」
レオルドが腰にぶら下げている真剣に手をかける。
「お前はいつも唐突だな。珍しく他のことを言ったかと思えばすぐに組手。脳筋にも程があるぞ」
「お互い様でしょ」
そう言って、お互いに笑い合う。
「それとお前はオンオフが激しい。マラガで盗賊を切った時のあの目はなんだ。悲劇のヒロインか」
「ははは、かっこよかったでしょ」
「笑いをこらえるので精一杯だったわ」
レオルドとシンは普段はこういう感じなのである。レオルドの顔にもマラガで見せたような冷たい表情は写っておらず、温かみのある優しい笑顔がそこにはあった。
「レオルド、父上を探すにしろ母上を探すにしろ、どっちみち異世界へ戻らなければならない」
シンはレオルドに本題を切り出す。
「今すぐでも行けるよ」
「では今から行くか」
シンは椅子から立ち上がる。そしてレオルドのいる所へと向かった。行って魔王を討伐し帰ってきたばかりなのに、また行くという、常人では考えられない行動をこの2人は平然と、さも当たり前のように行う。
「てか、異世界へ転移とか出来んの? 無理じゃない? この世界の時間でいえばついさっきまで外の世界があることすら知らなかったんだよ?」
「あの駄女神に出来て俺に出来ぬ道理はない」
「んじゃ、よろしく頼むよ」
レオルドがシンの肩に掴まると、シンの周りに黒い粒子が舞い始める。決してレオルドが何かをした訳では無い。たまたまタイミングが良かっただけだ。
「転移の応用で異世界まで飛ぼうと思う。安全第一で行くが念の為『転生』をかけておく。魂だけでも無事ならいいのだがな」
「了解」
黒い粒子が渦をまく。そして、シンとレオルドを中心に魔法陣が浮かび上がってきた。あとは魔力を込め発動させれば良いだけだ。
魔力を込める。すると、シンの、ヒホンで買った勾玉のイヤリングが淡く光った。部屋の景色が変わる。数時間前に見たことのある景色だ。そう、2人の異世界転移は成功し、マリア神殿へと転移していた。目の前には机に向かっている女神マリアがいた。マリアがこちらに気づき、ありえないものを見たような目付きでジロジロと見つめる。
「え?! なんであんた達がここにいんの!!? ちょうど良かったけど、まだ私召喚してないよね?! エリー」
エリーも同様に、ありえないものを見たかのような目付きでこちらを見る。こちらとしてはマリア、貴様が机に向かっていることの方がありえないのだぞ。
「は、はい。シン様と、レオルド様。どうしてこちらへ?」
「少し用ができてな」
マリアとエリーはぽかんとしている。マリアが既にわかってはいるが一応念の為という装いでシンに問う。
「え? そっちの世界の神に送ってもらったんでしょ?」
「違う。俺がやった。それより神について聞きたいことがあったのだ」
『俺がやった』その言葉にまたぽかんとするマリア。何とか気を取り戻し会話に戻る。
「あんた。異世界への転移とか、神しかやっちゃダメなんだからね。というか普通は神以外絶対にできないものなの。それをなんであんたが『やったらできた』でできちゃってるのよ」
ヴリトラの1件でシンの計り知れない強さを知っているマリアでさえ、驚愕していた。
「知るか。それよりだ、もし仮にその世界の神が消えたらどうなる?」
マリアに問う。仕事をしない女神だが、それくらいは知っているはずだ。今はやっているが。
「『知るか』って。女神に向かってなによその口は! まぁいいわ。 神が消えることなんてないと思うけど、もし仮にいなくなったとしたら、色々な不具合が起きるわ。」
不具合、か。具体的ではないが神以外出来ぬという『異世界転移』ができたのもその影響のひとつか?
「そうか。まぁいい。それでお前の用はなんだ?」
とりあえず話を終わらせ、転移した際にマリアの言っていたことを聞き返す。
「あぁ、また魔王が出てんのよ。メリージャの方で。このままだとこの世界は危ないわ。だから行ってちょちょっと倒してきてちょうだい」
ほんとにこいつは危機を感じているのか? と思ってしまうほど、のほほんとした笑顔でマリアは言ってきた。
それより、帰っていたのは数時間だぞ? 半年も経っていないくらいのはずだが、やはり魔族を残したことが原因か? ヴリトラを討伐したあの場でも多数の魔族の反応があったからな。いったい何を考えているんだ?
「やはり魔族が動いたか。魔王は討伐してやるが、魔族は俺に危害を加えようとせん限り手は出さぬからな。何を考えているのか知らんが、同族と殺すというのは少々気が引ける」
うーん、と難しそうな顔をするマリア。やってくれれば仕事が減るのに、などと考えているのだろう。
「まぁいいわ! じゃあよろしく頼んだわよ。転移門そこに出しておいたから」
机にどっかりと構えたままマリアが言う。動く様子はない。疑問に思い声をかける。
「お前は来ないのか?」
その言葉に目を輝かせパッと立ち上がるマリア。
「来て欲しいのね! わかったわ! エリー! ということだからお仕事任せたわ!」
そこまでは言っていない。
「あー!!! ずるい! 仕事せっかくしだしたと思ったらまたすぐ!! ダメですよ!」
隣で静かにしていたエリーが声を上げる。
「えー、じゃあエリーも来ればいいじゃないの」
「……え。いいんですか? 一応発生してるのは魔王だし、私たちの命も危ないんじゃ、、、」
「大丈夫よ。シンがいれば! 戦場で寝てても生き残れるわ」
戦場では寝るなアホ女神。今回はあの天使も来るような素振りだな。こいつらの様子だと大した仕事はないのだろう。
「シン、良いわよね?」
「あぁ、問題ない」
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