特別編 最終話 下界旅行最終日〜平野の街テルデ〜
エルチェで朝を迎えた2人。エリーが先に起きた。ちょうどそのタイミングでマリアも起きる。
「マリア様、おはようございます」
「おはよう。エリー」
二人は目を掻きながら布団から出る。2人とも寝起きがいい。
「今日はどこに行きましょうか?」
「んー、そうねー、とりあえず暑いとこは行きたくないわ。」
「なんだかエリーも朝起きたら暑い所は行きたくなくなってました。この世界で、暑くないとこに行くならもう『テルデ』しかありませんし、今日で旅行は終わりにして神界に戻りませんか?」
「そうよね、今日で最後にしましょうか。」
急遽今日帰ることとなった2人。この世界は7つの地域に別れており、自然のマラガ、砂漠のヒホン、極寒のメリージャ、水のエルチェ、灼熱のブルゴス、王国ファルア、平原のテルデ。そのうちヒホンとブルゴスはかなり暑いため、行くのはやめにした。
「マリアさーまー、準備出来ました!」
「あれ?今日は荷物少ないのね?」
「平原ですし、乗馬するんですからあったら邪魔かなーと思いまして」
「それもそうね、汚れることもないだろうし、下界旅行最終日楽しむよ!」
「はい!!」
2人は転移門をくぐり、テルデへと出た。そこは、待ったいなら草原が続く平野で、馬や牛などの動物が多数生息している。
「何も無いって感じですね」
「だね。快晴に、青々とした野原、開放感がすごいわ」
「一旦街に行きませんか?」
2人は1度テルデの街へと向かった。
「んー、乗馬体験させてくれるところはー、ここかな?」
「ここみたいです!」
早速2人はその店に入る。人がいない。
「すいませーん。乗馬したいんですけど」
そう叫ぶと奥から人が出てきた。がっちりとした体型の男だ
「はーい。えっと、大人1人に子供1人かな?」
エリーがぷくっと膨れる。
「子供じゃないもん。」
小声でそう呟いた。マリアはエリーの頭を撫でる。
「はい、そうです」
「ちょうど客がいなかったんだ、今からでも行けるけどどうする?」
「今からお願いします!」
「はいよ!」
2人とその男は、店を出て、牧場へと歩く。しばらく歩くと、馬小屋が見えてきた。かなり規模が大きい。
「テルデは、戦闘用馬を育てて生計を立ててるんだ。戦闘用だから普通の馬よりもふた周りくらい大きい。びっくりするはずだぞ」
そういうと男は馬小屋の中に入り、馬を連れてきた。男の言った通りかなりでかい。
お、大きい。お馬さん。エリーの身長の3倍くらいあるかな。
「すっご! 大きすぎでしょ!?」
馬のサイズに何故かマリアの方が興奮していた。
「だろ? 手塩にかけて育てたんだ。今日はこいつに乗ってもらう」
「すごい! こんな大きいのに乗れるなんて」
興奮気味のマリア、すると、馬がマリアの方を向きフンっと鼻を鳴らした。
「・・・たぶん、あんたの方。舐められてるね」
「え?」
「こいつは人を見る目があるんだ。あんた仕事ちゃんとやってないだろ?」
図星をつかれ、少し焦るマリア。
「そ、そんなんなわけないじゃない! ね! エリー」
エリーにフォローを求める。
「マリア様は仕事しますよ」
何とか話を合わせてくれた。すると男は馬の方を見て言う。
「そうかい? お前も目が衰えたか? 」
そう言ってガハハと笑った。馬は未だにマリアの方を向いて鼻を鳴らしている。ほんとに見る目があるようだ。
「ちょっと! この馬失礼ね! 替えてよ!」
「まぁまぁ、そう怒んなさんな、こいつも悪いやつじゃねえ」
「私をバカにしてんのよ!? 仕事してるっつーのに!」
「わかったわかった。」
そう言って男は連れてきた馬を小屋に戻そうと後ろを向かせた。すると、馬がマリアに後ろ足で土を飛ばした。それが綺麗に顔面にヒットする。
「このクソうまー!!!!」
「マリア様! ダメですよ!」
マリアが馬に飛びかかろうとするのをエリーが止めにかかる。さすがのエリーもこれには笑いをこらえきれなかったようで、マリアをとめながらも隠れてくすくすと笑っていた。
しばらくして落ち着きを取り戻す。
「はぁ、はぁ、あのクソうま。次会ったら絶対食ってやるんだから」
「落ち着いてくださいよマリア様。次はちゃんと、、した馬が来ますって」
エリーは一瞬だけ『ちゃんとした』と言うのを躊躇った。なぜなら、あの馬は正しかったからだ。
「すまんすまん、こいつは大人しいから多分大丈夫だ」
「今度あったら馬刺しにして食ってやるんだから!」
「おいおい、やめてくれよ」
「マリア様、落ち着いてくださいよ。馬に乗りましょう?」
「むー、わかったわよ。」
2人は馬を遊牧するための柵に囲まれた大きな広場に歩いていった。
「そんじゃ、説明するぞ」
「あのクソ馬しばく。」
「マリア様落ち着いてくださいってば。」
マリアはまだ根に持っているようで小言で呟いている。それをエリーはなだめる。いつもは慰められる側のエリーが慰めている。良くも悪くもエリーとマリアは持ちつ持たれつの関係なのだ。
「気を取り直して、説明するぞ」
「さっさとしなさいよ。」
「マリア様。」
毒づくマリア。何も悪いことはしていないのに八つ当たりされる男。
「んじゃ、まぁ乗り方だが、横に回って腹を2回叩けば片足あげてくれるから、それをハシゴにしてよじ登ってくれ」
男がやってみせる。簡単にヒョイッと乗っていた。馬も大人しい。
「じゃあまずは、そっちのねーちゃんから行くか」
「ねーちゃんとか言ってんじゃないわよきしょくわるい。」
「マーリーアさーまー。」
マリアは忘れっぽくてちょろい性格ではあるのだが、たまにこういうしつこいことがある。滅多にないのだがその場合はエリーが根気強くなだめる。
「で、どうすんのよ」
「見てなかったのか?」
「うっさいわね。もう1回しなさいよ」
「マリア様。そろそろ機嫌直さないと、、、」
男はもう一度やり方を見せる。
「ふーん。簡単じゃない」
マリアも真似して腹を叩く。すると、馬は同じように片足を上げ、足をかけやすいようにしてくれた。そこに足をかけよじ登る。一気に顔が晴れた。チョロさ発動だ。
「すごー!! なにこれ! めちゃくちゃすごいじゃないの!?」
「だろう? 手塩にかけて育てたんだからな! あったりまえよ」
男も男だ。
マリアが馬に乗っているのを見て目を輝かせるエリー。しかし、馬はエリーの3倍のサイズである。この後何が起こったか、わかる人にはわかるだろう。
「そんじゃ、次は譲ちゃんが行くか」
「はい!」
エリーは馬の横に立つが、馬が大きすぎてエリーの手が腹に届かない。必死にジャンプするが、指先が掠る程度だ。だが、諦めずに飛び続ける。段々とジャンプが遅くなってきた。そして止まった。
「もー!!!! なんでなの!!!」
ついにエリーが切れた。マリアの次はエリーの番だ。エリーは天使だが、飛ぶのが下手だ。なので、基本的に空を飛ぼうとしない。
「まぁまぁ、エリー、その男に手伝ってもらえばいいでしょ。」
「嫌ですよ! こんなむさ苦しい男!」
そして、またもやその怒りの矛先は男へと向かうのであった。
「おいおい、俺泣くぞ」
「泣けばいいのですよ! 泣けば! でも、泣いて許されるのは赤ちゃんの時だけですからね!」
「なんで俺が嬢ちゃんに説教されてんだ?」
そんなこんなで結局男に抱えてもらい、エリーは馬に乗ることが出来た。
「すっ、すごい!!」
こちらもまたチョロさ発動だ。馬にまたがり目をキラキラと輝かせている。
「んじゃ、ちょっとだけ走ってみるか?」
その言葉に2人の目の輝きは一層増した。
「いいわね!!」
「やりましょう!!」
2人は馬の走らせ方をレクチャーしてもらう。意外にも初心者でできるような簡単な方法だった。足で腹を軽く締めれば走ってくれるらしい。
「あんまり強くしすぎんなよ。馬が怒るから」
「はーい!」
マリアは足にじわりじわりと力を込める。どうやら上手く成功したようで、馬が走り出した。
「どう?! うまいでしょ!! ウマだけに!」
「「・・・・・・」」
「どっちか一言くらい何か言いなさいよ!!!!」
「面白くねーしふるぃーな」
「うるっさいわよ!!!」
なんという理不尽。そう怒鳴っていたマリアだが自在に馬を操ることが分かり、すぐに乗馬を楽しんでいた。が、しかし。問題はエリーの方にあった。またエリーは膨れていた。
「なんで走らないの!!」
エリーは小さすぎて足が馬の腹まで届いてないのである。力はあっても届かなければ意味が無い。
「嬢ちゃん、ムチで叩くやり方もあるが、どうする?」
男もこの2人に振り回されて大変な様子。
「そんなSMプレイみたいな事エリーがするわけないでしょうが!」
「「?!!?!!」」
「ちょっ、エリー?! どこでそんな言葉覚えてきたの!!?」
エリーの口からこぼれた言葉にマリアも驚く。なんとかエリーをムチで納得させ、男はやり方を教える。エリーもすぐにそれを習得し、馬を走らせた。それでエリーの興奮はMAXになり、広場を1時間ほど爆走した。
そして乗馬体験が終わる。
結局1週間下界に降りることは無かった2人…




