勝負
「おかえり。どうした、ジュン」
慌てて帰ってきたジュンに向かって、父さんは聞いた。
ジュンはことの顛末を話した。
ギンギン団のヤスオが、勝負を申し込んできたこと。ジュンは、それを受けたこと。もしも負けたら、カオリちゃんはヤスオのものになってしまうこと。
だが、もしも断れば、カオリは今後も付きまとわれるかもしれないこと。
だから、あの場では、ジュンは勝負を受けてしまった。
しかし父さんの曇った表情を見て、勝負を受けたのは失敗だったのではないかと、ジュンは不安になった。
「……ほう。そんなことがあったのか。それで、そんな勝負を受けてしまったわけか」
父さんの問いかけに、ジュンはうまく答えることができなかった。
父さんは少し考え込むしぐさを見せてから、落ち着いた声で言った。
「確かに、ジュンの言い分はわかる。
ヤスオとかいう子供は、少し傲慢な態度でジュンとカオリちゃんに突っかかってきた。でも、カオリちゃんは、そんな勝負は望んでいなかったんじゃないかな? もしもジュンが負けたら、カオリちゃんはどうなるんだ?」
「それは……」
ジュンは口ごもる。
ジュンには、勝算があった。だから、勝負を受けた。
しかし、絶対に勝てるという保証はなかった。
黙るジュンに、父さんはひょうひょうと言った。
「来週の今日の正午、だったな、勝負は。その日、ヤスオはモンスターを新しくもらう。しかし、ヤスオは、まだモンスターとの信頼関係も築いてなく、しかも初対面で、初勝負。モンスターの世話の仕方すらわかっていないだろうから、たぶんジュンは勝てるだろうな」
ジュンが危惧していたことを、父さんは簡単に言った。
「……勝てるかな?」
ジュンはおそるおそる聞いた。
「勝つしかないだろう」
父さんは言った。
「ジュンがブリーダーになって、一番最初の大仕事だな。心配するな、父さんもできることは教えるつもりだ。ハハハ」
ジュンは、父さんの力強い言葉に、少し冷静を取り戻した。
「そうとわかればこうしちゃいられないな。そろそろブルモンにも外の世界を見せてやらないといけないしな。それにモンスターの餌もなくなってきただろう。エサ代もバカにならない。自分で取ってきてもらおう。さあ、さっそく準備して、街の外に出かけよう。街の外では、野生のモンスターがいるからな。実践を通じて、できる限り経験を積ませよう」
「……ありがとう。父さん」
「ふむ」
ジュンと父さんは、さっそく街の外へ出る準備を始めた。