ジュンのくせになまいきだ
「ジュン。なにしてるの?」
ジュンが外を歩いていると、買い物中であろう買い出しのバッグを下げたカオリが声をかけてきた。
ジュンは、母さんに頼まれて買い物に行く途中だったことを伝えた。
「そうなんだ。私は、もう買い物終わっちゃって、帰るところだよ」
そんなこんなで、ジュンとカオリが仲睦まじく話し込んでいると。
やいやい、と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やいやい、誰かと思えば、この前のやつらでやんすか」
ジュンとカオリが振り向くと、そこには以前のギンギン団とかいう団体の一人、ヒョロガリの丸眼鏡だった。
「ヒョロガリの丸眼鏡とは、失礼でやんすねえ……。おいらは、親につけてもらった、素敵な名前があるでやんすよ。よく覚えておけでやんす」
「名前?」
ジュンが聞いた。
「おいらの名前は……」
丸眼鏡の男が言おうとして、
「やばい、ヤスオ様が待ってるのを忘れてたでやんす。早く行かなくちゃでやんす」
「おいおい。誰かと思えば!」
遠くから、声が聞こえてきた。
「ヤスオ様! ごめんでやんす。つい遅れちまったでやんす」
「遅いんだよ!」
「あ痛て」
眼鏡男は走ってきたヤスオに殴られた。
後から遅れてどすこいよろしく関取型の男が苦しそうに走ってくる。
「お前、いいバッジ持ってんじゃん。名前は?」
ジュンに向かってヤスオが聞いてきた。
「僕?」
「そうだよ。お前以外に誰がいるっていうんだよ」
「ジュン」
「ジュンか。俺はヤスオだ。この前は、悪かったな」
「……」
案外すんなりと謝られ、ジュンは戸惑った。
だが、ヤスオは腕を組んでおり、偉そうだ。
「お前にいいことを教えてやる。俺の父ちゃんはな、闘技場のオーナーなんだ。だから、俺もブリーダーになる。そして、もうすぐモンスターをもらうことになっている。だからな……」
ヤスオはそういうと、ビシッとジュンに向かって指を指して。
「俺と勝負をしろ! 俺が勝ったら、その可愛い子は俺がもらうことにする! わかったか?」
「!?」
謝ってきたかと思ったら、ヤスオはとんでもないことを言い放ってきた。
「……ちょっと待ってよ!」
カオリが口を挟むが、ヤスオは聞く耳を持っていない様子だ。
「これは真剣勝負だ! 日時は、俺が父ちゃんからモンスターをもらう、一週間後の今日! OKだな?」
「……」
「おい! 聞いてるのか!」
「……僕が勝ったら?」
ジュンは聞いた。
「そうだな……その時は、今度こそ引き下がってやる。それでいいか?」
「勝手に決めないで!」
カオリが怒る。
「うるさい! これは男と男の勝負だ! ジュン、いいな?」
「……」
ジュンはしばし考える。
もしも断っても、ヤスオはまた来るだろう。カオリも毎回付きまとわれて迷惑だろう。……この際、勝負をつけるべきだと思った。
しかし、もしも自分が負けたら。
ジュンはしばし考え、コクリ、と頷いた。
「ジュン……」
カオリの不安そうな瞳がジュンを見つめる。
「大丈夫」
カオリの不安を消すように、ジュンは言った。
「よし、決まりだな。じゃあ、来週の正午、闘技場近くの練習場まで来い! お前の持ってるモンスターもつれて来いよ!」
「ああ」
ジュンは言って、ギンギン団は帰っていった。
「ジュン、本当に大丈夫なの? 心配だよ」
「心配しないで。必ず勝つよ。カオリのために」
「ジュン……」
それを聞いて、カオリは少し安心したようだった。
ジュンは、生まれて初めて、勝負に燃えていたのだった。