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素敵な塔の使い方

 ヒコザとマヤが次に向かったのは白石砦だった。

 本当はデイスカーの首都に顔を出さなくてはならないのだが、チトセの計算によるとその猶予は無かった。


 到着してすぐに、以前世話になった工場へ顔を出し、急に飛び出した詫びを入れた。次に砦の司令官に挨拶し、オスカル空尉に状況報告し消耗品を渡すと、じいやんちに一泊。翌朝砦の脇を流れるインガス川で屋島姫から機材を受け取ると、砦を抜け砂の塔に向かった。


 二メートル越えの毛むくじゃらなデミヒューマンを出会う度に素手で叩きのめしながら、亜人の村に辿り着く。頑丈な彼らに手加減は無用だ。亜人の長はヒコザを覚えていて、土産を渡すとまぁまぁ話は通じた。彼らはマヤを見ると、しきりに新しいジョークを披露したがった。妙に感じ、詳しく聞くと彼らは女性に面白い話をして笑わせるのがステータスなのだそうだ。前線であるこの村には女性がおらず、代わりに捕虜を捕らえてネタを披露するのだが、独特の歯擦音と現場の雰囲気で笑って貰えないと嘆いていた。三日後に死刑とか言われたらそりゃダメだろうと伝えるが、彼らは昔の名残でそう宣言するが、実際にそんな事はしないと語った。長に塔に上がると告げる。


 塔の(ふもと)でヒコザはヴァジュラを展開し、サーフボードサイズに固定する。さすが神剣だけあり、後で作った鞘まで一緒に伸長する。神剣に乗り、マヤを抱えると真っすぐ上昇。砂の塔の頂上目指し高度を上げていく。軌道エレベータかと思う程高い搭だが、雲の上にはちゃんと屋上が有った。搭の直径に対し屋上は広がっており、ヘリポートくらいの広さ。その端にチトセに作って貰った双曲線電波航法の発信器を据え付ける。二万キロ圏内ならば自位置が測定できる設計だ。この世界には地平線が存在しないので高所に取り付ける必要は無かったのだが、これは様式美という奴だ。凡そ三年でバッテリーが尽きるので、その後はこの一切電波の無い清浄な世界を生真面目なシグナルが乱す事は無くなるだろう。


 二人は宇宙服に着替えると時計を確認して更に上空へ飛び立つ。

 それなりの長旅になるので本当はチトセを使いたかったのだが、アポなしの戦闘艦で近付くと印象がよろしくないのと、万一撃墜された際貴重な電子機器の塊を失う危険は冒せなかった。ヴァジュラと呼ばれる反重力剣での飛行だが真上は効率が悪いので急角度で上昇する。航空機では無いので機体は水平を保ったままだ。立っても座っても操縦に問題は無いが、立って乗ったほうが機動性が高く、そうでなければ座っていた方が乗りやすいようだ。


 向かった先は遥か高空に浮かぶ銀の島と呼ばれる人工島である。世界を管理するフォースキューブエクステンデッドが住まうとされているが、そのキューブが近年下界に現れていないので、二人は今回、こちらから様子を見に行く事にしたのだ。

 チトセの観測によると銀の島はこの時間にこの地点を通るので、予想された高度で島の軌道と同じ進行方向へ向かい加速する。後ろ向きに座っているマヤが時計を見ながらカウントダウン、後方から追いついてくる巨大な岩塊を発見する。ヒコザはミサイルを警戒しヴァジュラでバレルロールを描きつつ島に近づき、速度を合わせると航空甲板と思しき舗装された地面に着陸。辺りを見回すとヴァジュラを格納し、腰に戻す。


 光学兵器による攻撃は質量魔法では防げないので、ヒコザはエレメンタルデバイスを操作し自らを水魔法使いに設定すると、スターシアに教わったプリズム生成を行う。耐久性は犠牲になるが一つずつの大きさを小さくし、二センチ程の大きさの物を無数に生成。自分たちの姿が充分隠れるよう周囲に張り巡らせる。これで少しなら水平方向の攻撃に耐えるだろう。一応旧城攻略時に使ったプラ盾を構え、後ろに庇ったマヤに白いハンカチを括りつけた棒を持たせて甲板突き当りの建造物へゆっくり近付く。


 航空甲板の突き当りは巨大な岩山となっていて、そこから掘り出されたかのように白銀のドームが覗いている。恐らくは逆で、偽装の為にドームに岩山を貼り付けているのだろう。

 ヒコザの見立てでは、このドームは張りぼてだ。確かこれは外宇宙からやってきた物体だった筈だ。それがこんなに柔な造りとは思えない。なんなら炸薬で穴を開けて侵入できそうだ。マヤに斬鉄剣で壁をくり抜いて貰おうかと相談している所に声が掛かった。


「こらこら無茶をするんじゃない。一体どこから来たんだい」


 振り向くとローブ姿の子供が二人、こちらを見ている。かわいらしい男の子と女の子だ。藁で編んだ籠から大ぶりの木の実が顔をのぞかせている。今はアケビが採れるようだ。男の子が声を掛けてきたようだが、喋り方が年相応とは言い難いので、見た目通りの相手では無かろう。


「ああ、こんばんは。地上から来ました。僕はヒコザ、そしてマヤ。こちらはキューブのお住まいで?」

「そうだ。私はライト、こっちはレフトだ。自力で来たのかい?それにしても乗り物が見当たらないが」

「ええ、畳めるので。宜しければお話を伺いたいのですが」

「嘆願に来た訳では無さそうだな。ああその宇宙服は脱いでも大丈夫だぞ。まあ入れ」


 近付くとドームに被せてある岩の一部がガラス状に溶解した跡が見て取れた。入口の扉も簡易的な造りに見える。階段を降りるとある地点を境に完全に別の建物に切り替わった。この先が本来のドームなのだろう。恐らく破壊される前の。


「聞きたい事は分かるが、まずは訪ねて来た理由を聞こう」


 水盤や給湯器らしきものが据えられた部屋に入ると園児にしか見えないライトが席を勧め、自らもテーブルに椅子を引いて掛ける。テーブルは十人以上座れそうな大きなもので、椅子も簡易だ。恐らくここは食堂だろう。レフトは奥で誰かに手にしていた籠を渡し、無言で戻ってライトの隣に掛けた。少し考えてヒコザは最も望むべき事を訴えた。


「陽が戻るのはいつですか」

キューブは六面体のそれぞれを名称に使っています。

本名は別に有ります。

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