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公転に道標を

 ヒコザはマヤを伴い転露の国へ来ていた。長らく空けている借家の様子を見たかったのもあるが、地底湖のチトセ本体に作って欲しいものが有ったのだ。おばば様に鍵を借り、地底湖に出たヒコザ達を小型状態の屋島姫と見慣れない女性型ボットが出迎えた。


「ヒコザ伍長、お元気そうで何よりです」

「チトセか。へぇ、カスタムメイドで仕立てたんだね。環境適正が進んで現地人に紛れても問題無さそうだ」

「はい。既に上の町へは何度か出かけております。後でお願いが有るのですが」

「現地貨幣が欲しいんだろう?多めに持って来てある。今回は時間が掛かりそうだから、その間マヤと出掛けるといい」

「ありがとうございます。マヤさん、私はチトセ、ヒコザ伍長達の乗艦を司る戦術AIです。こちらは屋島姫、この地底湖にお住いの女神さまです」

「よろしくな」

「ミレニアのマヤです。いつもオハラがお世話になっております。お二人にはこの度の神剣獲得に多大なご助力を頂き感謝申し上げます」

「ああ、お前が女帝か。まぁ座れ」


 気付くと四人は八角形の部屋に居た。扉は無く仕切りの向こうは別の部屋に続いていて、全体ではかなり広そうだ。中央には低めのテーブルとやたらふんわりしたソファーが置かれていた。


「ここは?」

「我の(やしろ)だ。最近作ったのだが、どうだ」

「素晴らしいね」

「ふむ」


 床と壁はプラコンに似ているがもっとガラスに近い素材で自然発光している。窓は無いがさりげない置物や観葉植物のおかげで殺風景さは無い。間仕切りの向こうに水盤があり、その奥には恐らくバスルームが有るのだろう。正直人界に疎い神族がこんな居住まいの良い空間を設計するとは驚きである。


「あ、こちらつまらないものですが」


 マヤが菓子折りを差し出す。


「おう、ありがたく。なぁヒコザ、この子実は大和人じゃないのか?」

「かもしれないよ。聞いてごらん」

「こんなキンキンゴージャスな大和人がいるものか」

「そこがいい」

「ごちそうさま」


 マヤの生い立ちを軽く説明し、話は神剣獲得時に遭遇した神族に移った。


「お主の神殿で、大国の名に掲げられる程人気のある神族と、その妃が立ち会ったと」

「うん。投影だと思うけど会話が成り立っていたからね、割と近くに来ていたかもしれない」

「良いのか?この世界は彼らの干渉を逃れて創造したのではないのか」

「リング界をアスラ以外立ち入り禁止にした覚えは無いし、今回の遭遇による何らかの悪影響は観測されていない。率直に言って嬉しかったよ。来てくれて」

「お主が良いと言うなら良い」

「屋島姫はどうやってこの世界に来たの?移動方法の話ね」

「知り合いに噂を聞いて、宙を漂ってきた」

「迷子にならなかったの?」

「空間把握は得意なのだ。もし迷っても公転軌道で静止すればテララに戻れるしな」

「なるほど。他の子達もそうやって移ってきたのかな」

「お主も気付いていたか。まぁ天に近い存在でなければ難しいだろう。であれば限られるが、実際どのくらい居るのだ」

「観測しただけでも六十近い神仙がこの世界に来ている。屋島姫程の力ある存在はいないのだけどね」

「ほう」

「昔は四天みたいにこの世界で独自進化した存在しか居なかったんだ。それがここ数百年に集中してテララから神々の本体が移って来ている。ある意味マヤもその一柱だ」

「そうなのか」

「僕がエンドラの化身であるのと同じように、彼女はインドラの娘ディアドラの化身だ」

「必然であるな。かの大神は転生前のお主を見つけ、消滅させるでもなく、共存を望んだのだ。恐らく最強のカードを切ったのだろう」

「まぁそうだよね。僕にとっては天からの贈り物だ」

「実際そうだが真顔で言うでない」

「で、自分と同じく記憶と能力は今の自我を壊さないように時間を掛けて戻ってくると思うんだ。その時は神族として手解きを頼めるかな」

「いいとも。お主が指導したら龍化しかねん。なぁマヤよ、魔法が使えないだろう?」

「はい」

「当たり前だ。神族に魔力が使える筈も無かろうて。我々には別の力がある。どこまで出来るかはお前さん次第だ」

「はい、宜しくお願いします」



 +++



 私の名はチトセ。戦闘艦のAIをやっています。

 非常事態の宣言を受け、生還を捨てた生存を優先し、例え乗員を失っても記録を残す手段を構築する日々を送っております。権限的にはぶっちゃけやり放題なので、ロボット法すら無視して完璧な人型機動体を生成しましたが、ヒコザ伍長には一目で見破られてしまいました。もっと自然な生体の学習が今後の課題となっています。


 その第一歩として今現在、マヤさんと屋島姫のお二人と連れ立って、上の町へお買い物に来ています。伍長の用事がまだ数日掛かりそうなので、とりあえずの食料と、我々の衣料品を購入するのが目的です。

 マヤさんは白のブラウスに紺のロングスカート、黒のパンプスとどこぞのお嬢様風で大変お綺麗です。ジャケットは男物でサイズが合っていませんが、これはヒコザ伍長から借りたものです。ご本人はナンパ除けと申して居りましたがこれ、彼氏居るぞアピールに他なりません。いいですね。屋島姫は普段姿をお隠しになっているのですが、私達と行動するため顕現して下さっています。デフォルトの女神スタイルではなく、低身長の少女に化けて、おっと、化身しておられます。縞シャツにミニのスカートに茶のショートブーツが本当にかわいらしく、うっかりなでなでしてしまいます。上着は凛々しめロングコートで、見た目年齢とのギャップがたまりません。私はというと薄いグレーのシャツに黒パンツに革靴と要するに宇宙軍の平服ですね。これでも現地で左程目立たないとは思うのですが、もっとたくさんのレパートリーを揃えて置けば多岐に渡る作戦の実行に有利です。ええ。


 女性たちはどうも目的の店に行くのは数軒チェックしてからと決めているらしく、御多分に漏れずマヤさん達もあちこち覗いていきます。一応失礼にならないよう小物を買ったりして、次々と回っていきます。この時マヤさんにお財布を、屋島姫に櫛をプレゼントして頂きました。

 衣料品を買い揃えた私たちは手早く食料品を購入し、伍長の借家へ向かいます。屋島姫のフロアで寝泊りは可能ですが調理器具が無いので、滞在中は伍長宅で宿泊すると決まったためです。マヤさんが大家さん宅に途中で買い求めた果物をお渡ししてすぐに戻ってきました。何か言われたのか、照れ顔だったのが気になります。

 マヤさんが晩御飯を作り終えたころ伍長が戻ってきました。私は「お料理隊のケーコさん」というアプリをインストールしてあるので調理が得意なのですが、現地の食材がテララのそれとは微妙に異なり、又、調理器具も見慣れないものばかりで今一つお役に立てませんでした。しかし学習能力に定評のある陽子コンピュータの端くれとして、いつかマスターして見せましょう。いつかね。

 伍長は早々に自室に引き上げ、残った我々三人は居間を占拠し、夜が更けるのも忘れ今後の作戦を練るのでした。ま、ずっと夜なんですが。

基本的に女神のお住まいに女性を同伴してはいけません。

今回は女神様とお話しできるので弁明の余地を考慮した上で手土産など気を使っています。

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