表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

へそを隠せ

 遂に祭壇の間に辿り着いたヒコザ達を待っていたのは強大な妖魔…では無かった。

 何者かの意思によってたった今塵になり消えてゆく妖魔。巨大な獣の姿だったようだが、正直今はそれ処では無い。祭壇の間の広さは凡そネバランド三個分、天井の高さは不明だ。何しろ彼らの頭上には()()()()()()()()()()()()()筈の星空が煌々と輝いているのだ。


「どうなっているんだ、ここは。城内、なのか」


 混乱を隠せないチャンドラが呻くような声を絞り出す。


「祭壇とか神殿とか、そんな物じゃないみたいです」


 視線をさ迷わすスターシャはチャンドラから離れない。

 妖魔を排除した存在に警戒しながら朧な明かりを頼りに進むと広々と続く紺色の床の向こうに一段高い部分が見えた。近付くとそれは丸いステージで、儀式的な舞台のように見えた。


「うん、ここね」


 マヤが舞台に上がる。


「仕事を済ませましょう、ヒコザ。グローブは外してね」


 舞台の中央でヒコザとマヤが向かい合う。

 お互いが伸ばした手を取り、円を作る。

 すると上空に輝く球体が発生し、徐々に質量を得た光は、一本の巨大な剣に姿を変える。始めそれは魔法使いの塔くらいの大きさに見えたが、ヒコザの面前まで降りてくると少し大振りな両手剣となっていた。ヒコザがそれに触れようとマヤの手を離した途端、剣は地に落ち舞台に突き刺さった。一旦引っ込めた手をもう一度伸ばすと…


「触れてはならん!」


 雷鳴のような怒声が降り注ぐ。

 チャンドラとスターシャは立ったまま気絶した。

 舞台の更に奥、巨大な丸い何かが顕現する。巨大な、親指?それは徐々に小さくなり男の足の親指と分かる。親指はどんどん小さくなり、脛が見え、腰下が見えるようになる。それはゆっくりと胡坐(あぐら)をかき、右こぶしを頬に突いてヒコザ達を見据えた。古代の中東風の鎧を身に着けた男の髪は、燃えるように逆立っている。

 地面が揺れるほどの巨大な声が轟く。


「それなるは真の我が神剣、ヴァジュラである。小さき龍よ、剣を我に捧げよ」

「御神名を伺っても?」

「許す。我が名はインドラ、お主の宿敵にして討伐者である。久しいな、魔龍ヴリトラ」

「ご本神に間違いありませんね。良いでしょう。ヴァジュラは元々貴方の物、お持ち下さい」


 マヤがヒコザに縋りつく。何も言わないが、魔神の証たる神剣を渡したくないのだろう。


「マヤ。前にも話したけど、ヴァジュラは昔、戦闘で奪った物だ。もう時が経ち過ぎてそれ自体に意味は無いんだ。折角ここに懐かしい品物が復元出来たんだ。持ち主に返すのが一番良い。そうすれば英雄神は、僕の身分を保証してくれるだろう。僕らの目的は達成される。違いますか、インドラ神」

「ふん、そんな面倒な事が出来るか。ちょっと寄越せ」


 インドラは剣を引き寄せると再び巨大化させ、しっかと両手で握る。そして気合と共に両手を広げた。するとインドラは両手に一本ずつヴァジュラを持っていた。


「ほれ、一本やる」

「あ、どうも」

「これで良かろう?」


 インドラは自分の右横に声を掛けた。


「はい」


 見ると、こちらは等身大の女性が近付いてくる。見事な金属製の冠を着けている。


「あなたは…、シャチー様」


 シャチ―はインドラの妻とされる強力な女神だ。ヒコザは剣を背に隠し頭を下げた。


「立場上謝辞は申せませんが、無事復活なされたようですね」

「あ、はい、お后様もお元気そうで何よりです」


 マヤはヒコザにしがみついたままだ。


「どうもすみません。神属は初めてみたいです」

「自分は違うみたいな言い方はお止しなさいな。貴方はもう剣を手にしているのですから」

「肝に銘じます」


 シャチーはヒコザとマヤをしげしげと見つめながら、その周りをゆっくり歩いた。


「見事に特性を受け継いで居られる。その力、まだ我らディーバ神属と戦うおつもりですか?」

「その必要が無い事を祈るばかりです」

「ずいぶん物分りが良くなりましたね。嬉しい事です。その娘のおかげね。ねぇヴリトラ、その子の事で何か気付いた事は無い?」

「私はフォースの技術と四千二百年を掛け最高の人類を作った筈でした。しかし彼女は魔法が使えません」


 シャチーはヒコザからそっとマヤを受け取り、やさしく胸に抱いた。


「そう。何か心当たりは?」

「我々アスラを敵視するものの介入」

「半分正解ね。でもまだ敵視はしていないわ」


 ヒコザの体の周りにゆっくりと陽炎が立ち上った。空気がずしりと重くなる。


「彼女に何をしたんです?話によっては…」


 シャチーは女神らしく抑えた笑顔を浮かべ、マヤを一度ぎゅっと抱いてから、彼女をくるりとヒコザに向けた。


「娘のディアドラを紹介するわ」

「はい?」


 女神は振り向き叫んだ。


「パパ!この剣の所有者を宣言して下さるかしら」

「よろしい。ヴリトラにしてエンドラ、そして小原彦左衛門。そのヴァジュラ、及びわしの右腕、今から貴様のものだ。さらば!」


 インドラ達は姿を消していた。彼と戦ったのはもう一万二千年も前だ。魔龍ヴリトラはその戦いで肉体を失い、魂の環に幽合され、だがしかしアスラ神族の特性をもって辛うじて個性を失わずに耐えてきた。環から逃れるのに八百年も掛かり、パワーを復活させるためにたまたま通りかかった他宇宙のフォースと呼ばれる精神体との融合まで果たした。故に今のヒコザはオリジナル・ヴリトラではない。ヴリトラは魔神エンドラに化身したのだ。しかし彼は運が良かったと考えていた。精神体族フォースの長となることで得られたものも多かったからだ。

 ヒコザの後ろで人が倒れる音がした。続いて金属音。チャンドラ達が倒れたのだ。金属音はスターシャの兜が床に当たった音のようだ。

ネバーランドではありません。

この時代のテララに東京ドームは存在しないので、広さの単位として某県某村に建設された超小さい遊園地を仮想しました。

実在しません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ