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回収班が来るのは三時間後ね

「仮説は有効なようだ。今の所ね」

「そうだな。しかし思ったより強い」

「死体も残る、か。こちらで作った肉体だから当然か。結合次第では霧散するかもしれないが。次はチャンドラに任せるよ。いけるだろう?」

「ああ」

「もしもーし」

「どうしたマヤ」

「こーらー。だめじゃんヒコザ」

「何がさ。綺麗に勝っただろう」

「そこ。検証がまだなのに倒しちゃダメでしょう」

「おや?」

「魔法の掛かっていない武器が通じるか調べなさい」

「あっハイ」

「一般的な攻撃魔法の通りとか」

「あーうん」

「普通に殴ってみるとか、罠とか、穴とか」

「加熱と風圧も試したいな」

「であれば次は?」

「チャンドラさんお願いします」

「この中で普通の魔法が使えるのチャンドラ君だけだしね。いけるだろう?」

「マネスンナ」



 上階へ続く階段には古い絨毯が残っていた。深い緑に黄色の縁取りが施され歩き易い。良く見るとずれないように銅の鋲で固定してあった。階段自体も花崗岩のままではなく漆喰で整えてある。階層が上がる毎に豪華な雰囲気になって行くようだ。とはいえ省庁の建物としての話で、貴族の屋敷とは異なり、上等なオフィスと呼べる程度。しかし天井は高く、ガス灯の光は届いていない。


 四人には広過ぎる階段は踊り場で左右に分かれ、上で又合流している。踊り場の壁にレリーフは無く、真っ平らな石面に幾つかの鋲の跡が残っているだけだ。戦争でこの城を明け渡す時に協定で、撤去に猶予期間を与えられたと聞いている。壁に有ったのが掲示物か絵画か知らないが、その際に回収したのだろう。途中までのオフィスらしい空間もそうだが、多くの家具は残っているが、城内の備品や書類、そしてゴミまでも綺麗に片付いているのはそういった事なのだろう。もちろんその後接収したデイスカー達も片づけをしたのだろうとは思う。怪物達が現れるまでは。


 階段は長かった。頭上からの攻撃に備え盾持ちのチャンドラの後ろにスターシャ、ヒコザの後ろにマヤが着き、無言で上がっていく。懸念は無駄に終わり、四人はあっさり上階へ辿り着いた。

 階段の上はホールになっており、少し進んだ先に受付カウンターが設置されていた。階段と受付を離すのは良い設計で、階段で乱れた息を整える間を客に与える事が出来るし、お互いいきなり話すのではなく、相手を見定めてから落ち着いて話しかける事が出来る。又、受付に用が無い場合の気まずさも回避できる。古代に建築された岩窟城に対してヒコザは狭苦しい印象を持っていたのだが、随分と違うようだ。


 チャンドラがふっと息を吐いてから口を開いた。


「このフロアは建築と、あとお金関係の省庁が多かったかな。あと池も」

「池?」


 スターシャが不思議そうな声を上げる。


「川からポンプで汲み上げた水を、ここで一旦貯めるんだ。その先だったはず」


 デイスカーの協力でこのフロアもガス灯は灯っている。警戒しつつ貯水池エリアまで進んだ。

 空気の流れを強く感じる。湿気が籠るからか、他の場所より風通しの良い設計になっているようだ。恐らくポンプ室だろう小さな小屋が湖面に張り出しており、それを囲うように高くもない木々が根を張っていた。はて、ここは岩をくりぬいた空間の筈だが。なるほど、数千年も溜まっているから色々と堆積する訳か。そもそも水源は下の川である。水以外に葉っぱや砂利、小さな魚とかも汲み上げてしまう事もあるだろう。


「きれい」


 スターシャは眼前に広がる湖畔の夜景に想いを零してしまう。


「休憩に良さそうだ。警戒プローブを刺してくる。僕が戻るまで気を抜かないで」


 言うなりヒコザは姿を消す。残った三人は壁を背に小さくなっておく。

 数分でヒコザが戻ってきた。


「未知の敵に宇宙軍の装備が役立つか不明だけどね。獣とかそういったものなら警報が鳴るから、食事をして少し休もう」

「火を使っても?」

「構いませんよ」

「池の水は…、水質検査機の出番ですね」

「ええ。でも念の為飲むのは控えましょう」


 備えられた石のベンチへ移動するとスターシャはバックパックから宇宙軍謹製ストーブ(携帯コンロの事)を取り出し、チタン製鍋を乗せる。異界の機材に何やら納得の表情で鍋を取り上げ池から水を汲み火に掛ける。実はそれ自体発熱する鍋もチトセには有るのだが、流石にテクノロジーが進み過ぎているので持ち出しを控えた。ヒコザがかつて所属していた統合陸軍は比較的レトロな装備を好む所があり、そこではこの鍋やストーブも現役で使用されていたので、一応船には積まれていたのだ。


 鍋にレトルトのパウチを突っ込むとスターシャはふと悲しい目をして呟く。


「これ欲しかったなぁ」

「ストーブですか?」

「ええ、はい」


 彼女らに渡した宇宙軍の装備品は貸与となっている。つまり作戦が終了したらヒコザに返さなくてはならない。


「そのストーブはバッテリー式なので電力が切れると充電が必要です。ひと月くらいは使えますが」

「そうですか」

「昔はガス式のものが有ったそうです。帰ったらガス灯の燃料が使えないか調べてみますね」

「それって」

「出来るか分かりませんが、持ち歩ける大きさで設計してみます」

「お願いします。ありがとうございます」


 もしくは、バッテリーの充電方法が必要だ。工業地帯の電力を変圧する充電器を作るのは難しい事ではない。デイスカー本国は陽が当たるらしいからソーラーでいけるのだろうか。正直、ちょっと明るいくらいでソーラーが働くとは思えない。いずれにせよデイスカーの電力事情を探っていると勘ぐられたらまずいので、ガス式が無難だ。ちなみにかつてのテララでは白ガス式ストーブも普及していて、これも趣が深い道具なのだが、こちらの世界にガソリンは存在しない。アルコールは存在するが燃料用途に使用できるほどの量が無いので、これも却下だ。


 食事を済ますとヒコザは食器を洗い、パッケージを整えて端に置くと立ち上がった。


「皆はまだ休んでいていいよ。僕は少し調べる事が有る」

「あたしも行くわ」


 マヤも立ち上がる。

 ヒコザは自分の髪に手を入れると五センチ程の小さい妖精メカを取り出し、チャンドラに着いているよう命じた。


「念の為だけど。無線が通じない時はこの子が僕の所へ飛んでくる」

「わかった」


 チャンドラとスターシャは歩き辛そうなほどくっついて歩く二人を見送った。


「仲いいなぁ」

「そうですね」


 意外と素直なチャンドラの返答に、スターシャは少し驚く。


「あのお二人は、その、将来のお話とかされているんでしょうか?」

「聞いていないよ。まぁ、見ての通りさ」

「ですかー。チャンドラさんは?」

「無いね。僕ら男性は扱いが悪くてね。その上剣聖の補佐をしているもんだからさ、ほとんど王宮には居ないんだ。だから社交界には顔が売れていないし、良いお話も来ないよ」

「へー基本お見合いなんですねぇ」

「そっちは?モテるだろうに」

「うん、まぁ、軍は女性が少ないのでそう思われちゃいますよね。でもウチは父の顔が怖いのでなかなか」

「はは。でも家族は関係ないだろう」

「その筈です」


 木立からヒバリの鳴き声が響いた。ほぼ夜でかつ室内で妙な感じもするが、ここは空調窓も大きいのだろう。小鳥くらい入り込んでいてもおかしくは無い。


 しばらく無言で湖面を見つめていると、再びヒバリの声が響いた。

ストーブの燃料として検討しているのはプロパンや都市ガスの類です。


昔は灯油や赤ガス、白ガスのストーブが主流でした。

灯油は匂うのであまり人気が有りません。

白ガスがベストなのですが燃料代が高く、入手も難しいです。

赤ガスはノズルが詰まりやすく、少し使うと皆さん使用を諦めていました。

もっと昔はカーバイトも流行っていました。これはランプしか見たことが有りません。

ロウソクのストーブもありますが、鍋の底が煤で真っ黒になり、洗うのに水を多く消費します。

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