みさいるってなんですかポチ
岩山の如く聳える旧ミレニア城の麓を流れる川を使って女性用陸戦装備一式を屋島姫に届けて貰い、スターシャに運用方法を学んで貰った。火器は無しだ。メットに上着、アンダーウェア、ブーツ、ザック、それと陸戦ゴーグル。対刃、耐薬品、耐火性能は飛躍的に上がり、短距離通信と位置参照が行える。メットは耳の出る軽量形で、通常型の整音機能はチャンドラによって却下されていた。驚くべきことに現代最高の技術で作られた電子整音機はタイムラグによって使用に耐えないそうだ。実弾の発砲をしないなら整音機の必要性は薄いが、ヒコザも銃の使用をそれなりに控える必要が出てくる。上着は夏服を選び鎧下として金属鎧と併用する。ポケットが大きいと好評だ。
「ゴーグルのマイコンは音声指令もできるが作戦中は発声出来ない場合も多い。その時使うのがこれだ」
ヒコザは白いケースの蓋を開けてスターシャに渡す。
「その義歯のような物を奥歯に被せてゴーグルの中に示された矢印を操作するんだ。素早く二回歯を打ち合わせるとイエス、左へ擦るとノーだ。どの歯でも良い。先ずは左上の受話器のアイコン、ええと小さい落花生の絵をクリック、じゃない、押下して、メニューを選択する」
スターシャは恐る恐るコントローラを装着し、ゴーグルの操作に挑んだ。
「通信相手の一覧と、一番上は一斉送信だ。作戦中は一斉送信で構わない」
「こちらの文字なんですね。ヒコザさんとチャンドラさん、それともうお一人、マヤさん?」
「合流する僕の巫女だ。まだ距離があるから話せなくて、グレーアウトしている。で、音声通話かソフトキーボードを選択」
「なるほど。地形図、武装制御、隊員残弾数、損耗率、救援要請、音響、表示、設定、なるほど」
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マヤから連絡が届いたのでヒコザが街外れまで迎えに出た。
二人はのんびり街を歩きながら情報を交わし、晩御飯の時間に宿屋で他のメンバーと合流した。
「東方支援軍第二騎兵隊ですって?」
テーブルを供にするスターシャにマヤは溜息を隠そうともしなかった。
「特級のエリート部隊じゃない。割と最近の活動記録も有るわよ。しかも軍団長の娘って」
んもー、と良くわからない唸り声。
「チャンドラ。あなたの正体をばらすと良いのだわ。この気持ちが伝わる筈よ」
「剣聖に稽古を付けて貰っている話はもうしたよ。彼女は称賛してくれたが」
「なんてこと」
マヤは数多の問題を脇に除けて食事に専念することにしたようだ。
今度はスターシャが手を止めて口を開く。
「あの、マヤさん、すみません私なんかがお邪魔してしまって。必ずお役に立ちますので、どうか同道をお許し下さい」
「あ、いいのよ貴方が悪い事なんて何一つ無いの。ちょっと驚いただけで。お互いに不利益も無いし良いんじゃない。責任は全てヒコが取るわ」
「僕か」
「うん」
「そうだな」
「リーダーですしね」
「いいけどさ。これ剣が取れなかった場合の事、考えたくないな」
「がんばれひこにゃん」
「おま!それ!」
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ヒコザは二カ月間の予定を立て、女幹部改め上級士官、リノリナ・フィノリスに提出した。下層進行と拠点の設置で一日、それ以降は二日の進行と一日の休みを繰り返し上層の攻略だ。祝祭日は休み。念の為この二カ月とは仮の設定で、延長も有り得ると予定表に書いておいた。旧城の間取りはマヤが知っており、主な部屋や広い空間は把握している。それぞれに二日ずつ掛けても左程長くは掛からないと考えていた。
日程を知った領主が作戦の記念式典を行いたいと申し出たが、これは丁重に断った。妖魔にこちらの動きを察知されたくないので全ては極秘だと説明し諦めて貰ったが、同時に成功式典への出席を約束させられてしまった。
そもそもこの一件は旧城を武力支配するデイスカー軍と強行突破するミレニア帝国戦闘部隊が武力衝突する事件になる筈だった。国家間の申し合わせもそうなっている。しかしヒコザの交渉により事情は変わった。デイスカーは魔神顕現の恩恵に目を向け、帝国も帝都奪還をこの件とは絡めて来なかった。失敗したらヒコザの責任、成功したらみんな嬉しい。そんな簡単で単純な目論見がその通りのカタチとして成り立ってしまっていた。あまりにもあっさり。ヒコザには自分の交渉がどうとか、女幹部の顔利きがどうとかいうレベルではなく、元々そうなる基盤が築かれていた気がしてならない。罠か。誰の。しかし何のために。
貸与したバッグには基本的な装備も含まれています。
救急、保存食、サバイバルキット等です。
銃やミサイルパッド、灼熱手榴弾、電磁ワイヤ等危ない物は外しました。




