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そよ風よ君に届け

 そのまま数日を宮殿の離れで過ごしたが魔法剣の情報は全く掴めなかった。

 例の薄い本によると妖魔には魔法が効かないという訳でもないらしいが、通常と比べ極端に効果が少ないという。ヒコザがフルパワーで魔法を使えばそれなりに倒せるとは思うが、実際に本気で重力魔法を使うと敵を倒す前に床が抜けてしまう。ダメージ効率が悪いと言うか、そもそも重力魔法は戦闘用では無いのだ。

 エレメンタルデバイスを使って別系統の魔法に変換して攻撃するのも手だが、この場合変換ロスが多すぎて倒し切れない可能性がある。こういった場合に魔法剣というマジックアイテムを使って強大な魔力を一点に集中させ濃密なインパクトを与えるのは理に適っている。


 鍛錬を兼ね裏庭で剣を振るう。何かヒントは無いものか。

 宮殿には研究員扱いの魔法使いがたくさん勤めていて、その内何人かとは知己を得ることが出来た。その内の一人に風魔法の達人が居て、教わった通りにしたらヒコザでも微弱ながら風魔法を使えるようになった。

 彼曰く、ヒコザと空気爆弾は相性が悪いから疾風系が良いとのこと。

 空気爆弾は掌で点状に空気を圧縮し、敵のそばへ置き、開放すると言う手順を踏むのだが、圧縮も射出も顕在していないヒコザには使えない。なんというか、例えばファイアボールと唱えて火の玉を生成出来ても、それは自分では飛んで行かないのだ。

 それよりも射程距離は捨て、手から線状に疾風を発現し剪断を狙ったほうが実用的だ。

 剪断はとにかく高速で何かを振ったその先端に発生しやすい。発生が認められるなら素手より棒でも持った方が先端速度が高く条件は有利だ。

 これなら手順がシンプルなためヒコザでも扱いやすい。実際にはその棒に魔力を通すにはそういった系統の才能も要るのだが、魔法の指輪を作れるヒコザには問題なく使用できた。


 今は剣の振りに疾風を纏わせる練習をしている。攻撃力は皆無だが、重力魔法以外でエレメンタルデバイスを経由せずヒコザ自身の力で発現した初めての攻撃魔法である。線状に超圧縮し剪断の効果が現れるまで繰り返すつもりだ。自分の剣を簡易的な魔法剣として使えるよう鍛錬中と言うわけだ。


「おいおい、まさかその、そよ風が魔神の魔法なのかい」


 母屋へ繋がる通路から声が掛かった。若い男性の声だ。この離れに来るには幾重もの警備を潜り抜けなければならない。すると彼は高位貴族かその従者か、または食客か。


「どちら様で?」

「大した者じゃない。それよりも重力魔法が使える筈の魔神候補が何故風魔法の練習をしているのか説明してくれないか」

「物理も魔法も効き辛い敵がいる」

「重力魔法でやっつければ良いだろう。使えるなら、な」

「効き辛いと言った」

「なるほど、パワー不足か。分かる話だ」

「分かったら帰ってくれ」


 ヒコザが背を向けると男は斬り掛かってきた。実はそんな気がしていたのでわざと隙を見せたのだが、男の剣は意外に重かった。余裕だと思って片手で受けたのだが、ヒコザの剣は押されている。しかも剣と剣とが火花を散らしていた。一瞬の火花ではなく、あろうことか刃と刃が絶え間なく火花を吹き出しているのだ。剣を両手で持ち直し、弾いて距離を取る。チラと見るとヒコザの剣に深々と亀裂が入っていた。


「おい、なんてことをするんだ」

「舐めた態度を取るからそういうことになるのさ」

「ふん」


 ニ合、三合と切り結ぶ。強い。剣士として非常な手練だ。剣を合わせる度にヒコザの剣はボロボロになっていく。

 相手の獲物は騎士等が持つ重い柄の付いた両刃の長剣だ。ヒコザの剣より刃は薄いが全く欠けていない。


「斬鉄剣か」

「いいや」

「では魔法剣か」


 相手は答えず斬り掛かってくる。

 これ以上受けると剣が保たない。何かで剣を守る必要が有る。もしあの剣戟に魔法が乗っているならこちらも剣に魔法を掛ければ防げるかもしれない。苦し紛れにそよ風を剣に纏わせる。ヒコザの剣も両刃だが、ふと両方の刃が欠けているのが目に入る。相手の剣技が思ったより高く、いつものように刃を引いた側だけでは防御出来なかったのだ。両側に風を一本ずつ、など器用な事は出来なかったので、纏わせた風を先端から折り返し、チェーンソーのようにくるっと一周回した。すると人差し指から出た魔力が剣先を周り親指の付け根へ戻ってくる。エコである。戻ってきた勢いを乗せて風に更なる加速を与えて行く。効率が高まったのか風は勢いを増し、見事相手の剣を受け止めた。

 相手の男が狼狽える。


「なんだと!」


 ヒコザはどんどん回転を早めて行く。なんだか楽しくなってきた。

 剣が纏った風は唸りを上げ、異常な速度で回りだす。変な音もしてきた。


「はっはっは!さぁこの渾身のそよ風をその身に受けよ」


 そよ風は異常な発達を見せ、周り中のホコリや砂を巻き込んでちょっとした竜巻みたいになっている。


「ほーらほら切れちゃうぞう」

「止さないか!」


 男は既に逃げ腰だ。

 回転はさらに増し、もう風圧だけで近付く物を切断できそうだ。


「いっくぞーぉ覚悟せよ~♪」

「そこまでだ。両者止めい!」


 しわがれた男性の声が響く。


「ふう。やっと出てきましたね剣聖様」

止めろと言われてはいそうですかとは行かぬものですが、実はちらっと見えていたので剣聖の顔を立てて剣を収めました。


剣聖は称号なので様を付けるとおかしいのですが、この場合付けないとゴロが悪く発音しづらいので嫌味も兼ねて様付で呼んでいます。

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