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この空気なんとかしる

 夜明け前程度に明るい砂浜に面したバルコニーで、オスカルは三人のテラランを少し離れたテーブルから見つめていた。


 エドモンドの顔は絆創膏が貼られ、おでこの脇にはガーゼが貼られている。

 昨晩リエンが激昂して手近なものを片っ端から投げつけた成果がそれだ。

 何が原因でそんな口論になったのか、二人共話してくれない。

 オスカルと同席しているファラディーンの騎士……そう、自分達は今帝国の隣国ファラディーンに来ている……要は我々の接待に駆り出された騎士も所在なさげに茶を啜っている。そしてもう一人同席している、我らが白石砦のキンナリー司令官も無言だった。だが三人とも、口には出さなかったが意見は一致していたと思う。リエンがエドモンドに持ちかけたのは、恐らく脱走の計画だ。


 正直、辞書の代わりになるデバイスも持ち合わせず、現地の言語も覚束ない状態で離反するのは得策ではない。ここファラディーンの西部は比較的治安も良く、市街地に逃げ込めば足取りを消すのも容易だろうが、先立つ物もなく、頼る相手も居ない状態では、流石に無謀が過ぎると言うものだ。


 彼らがファラディーンに来ているのは、言うなれば就職面接の為だ。

 異邦人達が今後この世界で暮らしていくために、いずれかの地に落ち着く必要がある。

 ヒコザは幻想郷に居を構えているし、ティファラはデイスカーを選んだ。オスカルは白石砦に世話になっている。勢力的には帝国に一、辺境連合に一、敵対国家郡に一となっている。


 ファラディーンは国力としては近隣随一で支配する面積も広大だ。慣例的に帝国の属国ではあるが現在のところ最も力の有る国家と言って良い。そのファラデーンが、有り体に言えば、誰か一人くらいファラデーンに頂戴と、そういうことだ。我々の持つ異世界の知識や文化は、実の所手に入れたところで応用のし様が無い。例えばエドモンドが高度な外科治療の技術を持っていても、高度な医療スタッフや数々の薬品や器具、機器が無ければその価値を発揮することが出来ない。もちろん基礎的な知識は伝えることができるが、それは一通り聞き出してしまえばあとはレポートを回せば共有できる。それ故帝国は異邦人の独占を唱えず、それぞれの身の振り方は個人に委ねるとしている。


 諸勢力が期待しているのは異邦人の知識ではなく、その知識を持って立ち回る彼らの成果である。

 だから砦の奥深く書庫の端っこに必死で隠れていたオスカルの目の前に突然現れたあの帯剣した金髪の女性、ヒコザの知り合いらしい異邦人文化保護局の職員はオスカルを捕らえもせず、尋問もせず、何一つ約束させずにオスカルの自由を保証した。それで恙無く暮らせれば良し。白石砦が栄えれば尚良し。成果が出れば市民権も得られ、ひいては年金も付けてくれるそうだ。あざーっす。



 と、まぁそんな話を道すがら話してきたのだが、その結果リエンの出した結論が脱走計画とは、甚だ残念としか言いようがない。隣の騎士も司令官も、話の内容は知っているから、その表情は落胆の一文字だ。


 エドモンドは落ち着いており、テララへの帰還は諦めていないながらもこの世界での生活を模索しているようだ。空気を読んでファラディーンに落ち着くかもしれない。パトリシアはそもそも現状に困っておらず、ヒコザのアドバイスを元になにやら予定を立てているようだ。魔法使いになりたいとかなんとか。楽しそうで何よりである。

異邦人保護局として異邦人の処遇についてはその方針に則り、これまでの所は移民の受け入れ又は拒否として処理してきました。


今回の六人は数百年ぶりの特定異邦人の来訪であり、議論が分かれましたが前提として本人の自由意思を尊重するのが原則なので、保護局はそのお膳立てに奔走しています。これらを実現するため保護局は帝国傘下の国々に対し強い力を持って居ます。

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