表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/61

戦闘艦を引っこ抜け

 翌日、個別に与えられたテントから這い出し身繕いを済ませると、ヒコザは広場に立てられたタープのテーブルに陣取って幾つかの書類を作成した。取り敢えずの報告書は村長に預け、複製を聖都と白石砦に送付するよう頼んだ。船員達にサインして貰う誓約書も準備したが、果たしてすんなり話はまとまるだろうか。


「おはようございます」


 顔をあげると小柄な女の子がこちらの様子を伺っている。多分パトリシアだろう。


「おはよう。暗いけど良い朝だね。宇宙服は脱いでも大丈夫だった?」

「ええ。座っても?」

「散らかっていますがどうぞ」

「お手紙ですか?」

「いいや、誓約書を作っている。君達の」

「たくさん有るんですね。大変だ」

「当面の物だけさ。今後の事は当局の差配次第になる」

「担当御当局ですか」

「うん。ざっくり言うとここら辺の国はとある帝国に属していてね。特殊な省庁はその帝国が一括管理しているんだ。一つあれば十分だって言うマイナーなお役所もその内でね。今後君達の面倒を見る異邦人保護局もその内の一つだ」

「国がある?ここに?」

「そう。人口も少ないし科学も発展していないけど、きちんとした法治国家がある」

「精霊さんの国ですか?」

「ああ、いいや、精霊族は少数民族だ。街で暮らしていれば、出会うことはまず無いだろう。検疫期間が明けて僕らが向かうのは僕らと同じ種族の町だ。有難いことにこの大陸で一二を争う程人口が多く栄えている」

「そうなんですね。検疫は一ヶ月でしたっけ。行き先の国は近いんですか?」

「最も近い町が歩いて数時間だ。そこから馬車に乗って保護局の有る帝国聖都へは三週間位で着くだろう」

「馬車!なんというかノスタルジックな世界なんですね」

「そうだね。馬車に帆船、あとは徒歩だ」

「歴史が浅いんですか?」

「いいや、一万年以上続く文明だ」

「ええと、それで繁栄していないのは何故なんでしょう」

「石油が無いんだ。化石燃料全てがとても少ない」

「あ、使い果たしたとか」

「いいや、元々無いんだ。地質的にね」

「へぇー」

「さて、残る二人を起こして君達の船を見に行こう」

「はい。声を掛けてきますね」


 しばらくしてエドモンドとリエンもタープのテーブルに集まった。二人共宇宙服を着ている。慎重なのは良いことだ。重そうだが。しかしここは是非自分の目で確かめて貰いたい。自分達の乗って来た船がどうなったのかを。でなければ納得出来ない筈なのだ。ヒコザの考えでは、戦闘艦はヒコザが埋めたままの状態では無い。


 今回は地面から音がすると言って集まった時に会った護衛官のアールシュと部下の精霊が二名同行してくれた。彼らは控えめに付き添い、案内してくれた。彼らの同行にリエンはあからさまに嫌な顔をしていたが、どちらかというと彼らが一緒にいることで我々の外出が認可されている、有り体に言えば脱走している訳ではないと周りに示している。


 戦闘艦が浮上した空き地には篝火が幾つも置かれていて明るかった。だがそれ故に見たくなかった事実が浮き彫りになる。


 無い。

 戦闘艦が無いのだ。


 エドモンドは縁まで近寄り、真っ暗な穴を覗き込む。

『AIが操船して逃走したのか?』

 リエンはまるで周りに誰もいないように抑揚を失った声で答えた。

『それなら宇宙服に報告の通信が入る筈だ。そんなものは無かった。通信は一切無かった』


 もし飛行したなら監視の目にバーナーの光が見えた筈だ。

 船の後方に落とした巨岩はその場所に有り、地中へ潜ったとは考えづらい。

 精霊が隠したか?いや精霊は船を厄介な物と考えており、早々に帝国と不干渉及び譲渡の契約を交わしている。

 他に思い当たるのは桜扇の魔女だが、彼女にどんな魔法が使えるのか分からないが、昨夜は「借りは返したからね!あたしゃここで消えるよ!」的な態度だった。除外して良いだろう。


 一番考えたくない結論。戦闘艦は未知の勢力、昨夜見た巨大な何かに持ち去られたのだ。

 我々汎人とキューブ、もちろん四天とは基本的に接点が無い。キューブは完全に別次元の科学力を誇りこの惑星の管理を行っている神の如き謎の存在だ。船を返してくれ、などと交渉できる相手ではない。四天である鎧蟲ツグツグ様に於いては、これはもう伝説上の存在であり、もはや無感情に成り行きを眺めるしか無い。

 そんな話を乗員の三人にすると、彼らはその場で座り込み、しばらく動かなかった。


『我々はどうやって帰れば良いのだ』


 エドモンドの言葉が全員に重く伸し掛かる。


『わ、私は嫌だ。私掠船は失ったが、まだ、我々には仲間が居る。港の、地上基地の連中が私を探しに来てくれるかもしれないし。それまで待てば良いよな?帰りさえすれば、そ、そうだこの世界の情報を持って帰れば』


 リエンはそこでハッと我に返り、周りの者を見回した。


『何だ一体。私の言うことがおかしいのか』

「少し冷静になりましょう。結論を出すのはこの世界を知ってからでも良いのではないでしょうか」


 ヒコザははっきり帰れませんと言いたかったが、そんな事をすれば彼女が何を仕出かすか分からない。もう少しここを知って分別が付いてから改めて話した方がが良さそうだ。この様子では、今朝ヒコザが用意した誓約書は彼らに多大なショックを与えるだろう。しばらくお蔵入りとなりそうだ。

戦闘艦のAIに好戦的な気配を感じたツグツグ様は槍で貫き、そのまま引っこ抜いて銀の島に運びました。

島では遺体を運び出し、検死の後弔ってくれています。

船体は他に生存者が居ない事を確認すると丸ごとパックし保管庫行きとなりました。

資源として使用しても良かったのですが、今後テララと折衝が有った場合、返還したいと考えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ