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はいどうも先輩の宇宙人です

 ヒコザは走った。

 頭も下げず、足音も消さず、必死で走った。

 感じるのだ。異星の戦闘艦の驚異など小指で捻り潰してしまえる程の何かを。


「走れ!走れ!」


 戦闘部門の精霊が息をつこうと速度を緩めるその背中に、叫ぶ。

 そしてすぐに、小柄な宇宙服に追いつく。走るのが苦手なようだ。ヒコザはその背中を左手で抱え、強引に自分と一緒に走らせる。宇宙服の子は一瞬躓きそうになるが、ヒコザの様子から状況を感じ取り、なんとか走ろうとする。


 後方の空から巨大なヘリのような音が聞こえてきた。灰色の雲を裂き現れたのはビル並の大きさをした人型の昆虫だった。それは膨大な土煙を上げ地上へ降りたようだ。その直後にもう一体、今度は完全な機械と思われる同じくらいの大きさのロボットがスルスルと降りてきて巨大昆虫と同じあたりに降りて行った。


 ヒコザ達がもう精霊のキャンプ地に着こうとする頃、大きな影が空へ上がって暗雲に消えていくのが見えたが、それ以上は何もわからなかった。


 キャンプでは受け入れの手筈が整っており、ヒコザと戦闘艦乗組員の三人はほぼ誰とも話さず大きなテントへ案内された。中には既に明かりが灯っており、いくつかの家具と水と食料が用意されていた。


「ヒコザ?」


 テント越しにマヤの声が聞こえた。到着を聞きつけて来てくれたらしい。


「やぁ、済まないね。念の為僕も一緒に隔離されておくよ。船にも近付いたしね」

「仕方ないわ。すぐに別棟に移ってもらうけど。怪我は?」

「無い。精霊の戦士に怪我人が出たが現地で治療を受けて現在は軽傷だ。魔女が治してくれたんだ」

「桜扇が?なるほど了解。それで、彼ら三人の身柄だけど、異邦人保護局に移していいわね?」

「問題無いだろう。その為の組織だしね。責任者はどんな人?」

「宮内庁の役も兼任してる信頼できる人よ。貴方の飛行器を調べて特異能力と見破った人。今度紹介するわ」

「ふうん、わかった。君は休んで、明日聖都へ戻ってくれ。それで当局と交代だ」

「そうね。他には?」

「さっきの怪獣みたいなの、何?」

「あー、出たらしいわね。あたしは見てないんだけど、機械の方はキューブの工作機。もう一つはなんと恐れ多い、鎧蟲ツグツグ様よ」

「四天の?凄いのが来たな」

「蒼界の管理者を自称するフォースキューブエクステンデッドが応援を呼ぶなんて余っ程ね」

「そもそも戦闘艦の侵入を許す辺り、ひょっとすると”島”で何か起きてるのかもな」

「ここいらの夜が明けない事自体、おかしいのだけど」

「百年以上これじゃぁな。これさ、キューブは何と言っているんだ」

「わざとじゃないって。それだけ」

「へぇ。ま、回ってるだけましか」

「さて、次は聖都で、かな」

「ふむ。当局の判断次第だけど、そうなったら僕も彼らに随伴するよ。あー、済まないがジェガン師にしばらく休むと伝えてくれないかな。僕の下宿の戸締まりも頼む」

「了解。コロンさんが送ってくれるって言うから、こっちは心配しないで」


 振り向くとテントの中で宇宙服の三人は所在なさげにヒコザを見つめていた。

 三人の宇宙人。

 正直、今後の面倒を見ることもできないので、あまり依存されても困る、というのがヒコザの本音では有るが、同郷の者を邪険にすることはなかろう。


「はいこんばんは。改めましてヒコザです。少し前からここに来ています。皆さん銀河標準語は?」


 三人はおずおずと首を縦に振る。


「ええと、とりあえずここの人たちは皆さんを保護してくれます。その後は大きな街へ移動することになると思います。お名前を伺っても?」


 男性が口を開いた。

『エドモンドです。軍医をしていました。彼ら海賊とは関係がありません』

「海賊?なるほどあれは海賊船だったんですね。なぜ行動をともに?」

『三ヶ月ほど前に拉致されまして、そのまま医療を強制されていました』

「災難でしたね。船の他の乗組員はどうなりましたか?

『我々の他は全員その、何かの感染病で死んでしまいました』

「そうだったんですね。AIは何と言っていましたか」

『類似の該当なしと』

「わかりました。ではそちらの方は」


 背の高い方の女性が答える。

『私はリエン。ビエンの光号の乗員だ。地上要員と船を繋ぐ役目を持っている』

「つまり売却役ですね」

『その一人だ』

「それでその、ビエン、とは」

『知らないのか。ビエンドン、つまり南シナ海だ』


 南シナ海となるとベトナムかその付近を根城とする海賊なのだろうか。

 リエンはぷいとそっぽを向いてしまったので、ヒコザは残った一人に視線を投げる。


『ええと、パトリシアです。ずっと監禁されていて・・、その、一応サイキックです。すみません、私のせいであの船がここに入ってしまって、その・・』

「へぇ、それは凄い。あの結界を抜けたんですか。そんなサイキックが居たんですね。一体どちらから?」

『ルーマニアです』

「なるほど。噂に聞いたことがあります。大変でしたね」


 パトリシアは個室へ監禁されていて運良く感染から逃れたようだ。エドモンドは医療関係だからそれまでに接種した何かの抗体が効いたのだろう。リエンは地上から宇宙へ上がる際に空港でワクチン接種を受けることもあろう。他の船員は宇宙暮らしが長かったり、合法的に宇宙港から上がらなかったりしてワクチンを受けずにいて、こちらの世界の病気に対抗出来なかったのかもしれない。


 そうなるといずれこの三人はこの世界の何らかの病気で死んでしまう可能性が高い。特にパトリシアは抗体で防げたわけではなく隔離されていて助かったのだから、たった今、病気になってもおかしくはない。


「すぐにテントの外に出ましょう。外気であれば感染はし辛い筈です」


 ヒコザは見張りの精霊に声を掛けると全員を外へ連れ出した。

キューブ達は大きくて見つけやすく、性格も温和なツグツグ様を頼りにしています。

今回はキューブの一人も工作機で立ち会っています。神仙に数えられるツグツグ様を呼び出して自分達は遠隔操作で、と言う訳にはいかないからです。


異邦人の三人は宇宙服を着ていますが酸素が保つのは四十分程です。走ったりしたのでこの時点で切れてもおかしくありません。ヒコザが呼吸しているので外気導入に切り替えても大丈夫だと分かっていますが、彼ら三人でお互いに感染してはいけないので、テントの外に出しました。

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