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巨騎暗魔 vs バ剣忍巫?

 ヒコザの叔父は変わった人物で、近所の川べりで整体院を営み一人で住んでいた。

 昔は道場をしていたらしく、敷地の隅に畳敷きの平屋があり、ヒコザはそこの掃除をする代わりに格闘技を教わっていた。神隠しから戻ったヒコザは両親の微妙な反応を気に病みこの道場に入り浸っていたのだ。

 そんなヒコザを不憫に思った叔父は自身も触れていなかった先祖伝来の秘伝書を紐解き、自身の解釈を含めながらヒコザに伝えていった。

 秘伝書は粗末な和紙を紐で束ねただけのもので、古い長櫃に大量に仕舞われていた。書かれた年代も定かではなく、内容もお経じみた文字の羅列から、下手な落書きに一文を添えただけのものまで様々だった。

 とある書物を読み終えると叔父は道場の壁に歩み寄り、そのまま手をかけ天井までスルスルと登ってしまった。目を見開いて見つめるヒコザをちらっと見ると、叔父はそのまま天井に張り付き、反対側の壁まで伝うと、音もなく飛び降りた。


「どうだ、できそうか。これができたらニンジャだぞ」


 叔父は嬉しそうに笑った。


 +++


 夜の獣道を鬼たちは躊躇無く進んだ。マヤとマヤの荷物を預かったヒコザも遅れること無く進む。

 本人が言うようにマヤの身体能力が汎人のうちでは最強に類する事は理解していたが、こういった特殊な状況に対応できるのか、ヒコザは少し心配して居た。

 結果はというと、マヤは全く問題なかった。泥濘の後に踏んだ丸石にも滑らないし、無用に枝にひっかかり跳ねさせたりもしなかった。

 遠回しに褒めたヒコザに、嬉しそうにマヤが答えた。


「私もドージョーで修行をしたのよ!」


 なるほどマヤもテララに居た頃、叔父に格闘技を教わっていたようだ。マヤとは以前エンティ達と馬車で移動していた時に何度か剣術の手合わせをしたが、ヒコザが戯れに放つ初見殺しの必殺剣を躱した腕前は、そんな所に由来するらしい。しかし彼女自身はあの流儀の剣を使わなかったので、十分に会得しているわけでは無いようだ。叔父が秘伝書を紐解いたのはマヤがリング界に戻り、ヒコザがテララに帰った後だから、秘術の修行もしていない筈だ。

 ふと風向きが変わった。

 先頭のコロンが立ち止まり、身を低くする。


「待ち伏せですな」


 ナバロンとマヤは何も分からないまま、それでも身を伏せ、辺りに警戒する。

 ヒコザは闇間に、じっとりとした視線を感じていた。


「敵の見当は?」

「桜扇の魔女の手の者かと。数は四」

「もしやオウセンの四天王か」

「何なの?」

「マヤは知らないか。町の魔道士に聞いたんだが、北の山を根城にしている危険な魔女がいるんだ。その手下だな」

「客人はここでお待ちくだされ。様子を見て町まで戻られよ」

「分かりました。後ろはお任せ下さい」

「ナバロン、正面のやつを」


 ナバロンは無造作に立ち上がると正面に向かって歩き出した。そして一歩、二歩と歩を進めるごとに体格が膨れ上がっていく。その向かう先にはこれも巨大な人型の姿。間合いに入るとお互いが咆哮を上げ武器を振るった。壮絶な打撃音が森中に響き渡る。


「さて、わしの相手はこちらかな」


 地響きを立て剣戟を交わし合う巨人達に意も介さず小柄な鎧姿が近づいてくると、コロンを敵と定めて無言で剣を抜き盾を構えた。コロンはいつの間にか緩い布の衣を纏っており、剣も大振りな直刀に変わっていた。同時に伸びたのかボサボサの長髪を揺らし、独特な構えを見せる。


「ヒコザ殿、今のうちに脱出を」

「すまない、無理そうだ」


 ヒコザはちょっとだけ意地の悪い笑みを浮かべると手近な木の幹を蹴り、そのまま駆け上がる。勢いそのまま空中に躍り出ると、高枝の中から何か黒い布の塊のようなものを掴み出し、地面へと叩き付けた。落下時に踏みつけようとしたが、その黒い塊は素早く起き上がりナイフを投げつけてきた。ヒコザは肩に掛けていたクロークでナイフを振り払い、銃を抜くと立て続けに四発撃ち込んだ。暗殺者風の敵はうめき声を上げ吹き飛ぶ。非殺傷のナイロン弾を使ったが拳銃が大型のため口径が大きい。低速の弾頭は貫通力が低く、結果、体のどこに当たっても大きく跳ね飛ばされる。未知の敵を素早く排除するには良い選択だろう。


 後方で激しい破裂音が巻き起こる。離れたところから火球が飛来し、着弾して爆発しているのだ。四人目の敵は珍しい戦闘型の魔法使いのようだ。辺りの下草がに火が付き燃え広がっている。マヤが叫ぶ。


「ヒコザ火を消して! あいつ黙らせてくる!」

「おう」


 言うが早いか地面が弾けマヤが飛び出していく。まるでバルカン砲の着弾だ。

 目標に辿り着いたのか地面の音は止み、空中を布がはためく音が近づいてくる。マヤが敵を無力化し、捕まえて跳んで戻ってきたのだ。投げ捨てられた魔法使いを見ると、空中で枝避けに使われたらしく服がぼろぼろになっていた。お気の毒様。ヒコザがエレメンタルデバイスを操作し酸素を押しのけると森の火は収まった。続けて水を生成して撒く。ホースの水のように勢いよく掛けられると良かったのだが、出来なかったので空中から降らせることにした。どちらも軽い元素なのでヒコザにはうまく扱えなかったが、取り敢えず用は足せたので良しとする。いつか師匠に教わろうと思う。


 加勢しようとマヤが振り向くと、ナバロンが戻ってくる所だった。コロンは地面に倒れた鎧の戦士に剣を突きつけている。


「さて、と、だ」


 ヒコザが切り出す。


「ここは誰の土地だ?」

「既に我らの結界に侵入しておりますな」

「精霊様の土地である、と」

「いかにも」

「ならばこの騒動、精霊様の裁きにお任せして止めは刺さずに置きましょう。コロンさん、ナバロンさん、お怪我は?」

「掠り傷ですじゃ。移動に支障は無いですぞい」


 ナバロンも頷く。いつの間にか身長が元通りになっている。


「何故襲って来たのか聞きたい。話せるものは居るか」


 巨人は大の字で倒れている。鎧の戦士は元々口が訊けないタイプらしい。暗殺者は死んでは居ないが全く動こうとしない。魔法使いはヨダレを垂らして気を失っている。だめだこりゃ。放置して進むことにする。


「いいかおまえら、精霊様の土地で勝手は許さん。追って沙汰を待て」

差し出がましいようですが鬼達が早まって止めを刺さないように先手を取ってヒコザが仕切っています。

聞いた話では桜扇の魔女は汎人の筈なので、余り敵対したく無かったのです。

客人として招いているので鬼達も文句を言いません。

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