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髪型は色々試したいかな

 ガルバンキングは一抱えの薪を意外に几帳面に積み上げながら、火種に屈みこんでいる男達に話しかけた。


「どういう事なんだい?昼間のあれは」


 ヒコザは黙っていた。代わりにエンティが答える。


「あの野獣は人語を解したんだ、恐らくな」

「だからどういうことなんだ?」


 ガルバンキングは苛立ちを隠さない。


「ヒコザが待ち伏せに気づいたんだ。だから彼らの作戦は失敗、そして中止って事だ」

「そんな賢い奴らだったのか」

「そして誇り高い。ヒコザ君が居なければ今頃あたしたちは彼らの晩御飯ね」


 洗濯物を干し終わって戻ったワンダの賞賛を遮り、ヒコザがポツリと呟く。


「もう冬だ。非常食として埋めておくんじゃないかな」

「ヒコザ君物知りだねぇ。魔術院でも通ったのかな?」

 ワンダの眼は明るい茶色だが、光線の具合か時折黄金に光って見える。

「いや、何だいそれは」

「魔術を研究する機関の附属学校だよ。噂では密かに異邦の技術も研究してるらしいよ」

「異邦の…」

「そういえばどこの生まれなの? 細い割に逞しいし、髪も目も黒いなんて珍しい」

「遠いところさ。もう戻れない程ね。それよりキャンプの見張り順を決めるクジを引こうじゃないか。な、アミダクジって知ってるか?」



 +++



「相席宜しいか。マドモワゼル オスカル?」


 珍しく司令部の一般食堂に現れたキンナリー司令官は、昼食の乗ったトレイを手にテーブルの前に立った。


「どうぞ。私は食べ終わった所です」

「ああ、そういう意味ではないのだ、オスカル。少し話を聞きたくてね」

「私に? ご命令とあらば」


 するりと座った司令官は食事に手をつけず、オスカルを見つめると少し困った顔をした。


「そうか、君も軍属だったね。しかし私の部下ではないから、普通で良いんじゃないかな」

「かも知れません。しかし私の上司は貴方の部下ですし、こうして寝食を得ているわけですから、規律には従いたいと思います」

「あそう。で、お仲間は無事なの?」


 そこで司令官はスープに手を伸ばす。今日は根菜がメインだ。

 オスカルが聞いた話では司令官は帝国と距離を置き、辺境領主の組合に積極的だそうだ。異邦人狩りからオスカルを匿えば、帝国に反発感を持つ辺境組合での発言権を増すだろう。


「なんとも言えません。狙われた彼が探索者に紛れて砦を出ました。それをもう一人の子が追って行きました。どちらも距離的に連絡がつきません」

「へぇ。いいの?そこまで話しちゃって」

「事実ですから」

「なるほど」


 パンを二つに割ると司令官はその片方を見つめながらつぶやく。


「君たちは三人かそれ以上の人数で来ている。距離さえ近ければ連絡が取れる装備を持っている。物理的な危機は余り心配していないようだから、それなりの武装もしているんだろうね。でもそうやって事実を伝えてくるのだから、こちらの庇護は当てにしている。そんなところかな?」

「その通りです。あと、仲間は全部で三人です」

「了解した。砦に戻ったら保護しよう。追って行った方は一人で?」

「ティファラですね。砦の戦士が付いてくれたようです」

「男性?」

「ええ」

「なんだか悲しい結末を感じるねぇ」

「ええ、まぁ。なんでも無ければ追いかけたりはしないですよね」

「護衛に付いてくれた彼の方も相当な覚悟だな。我々の力では、魔獣はびこる砦の外なんて、なかなか出れるものでは無いんだよ」

「デボネアって家名ですか?名前かしら?」


 司令官はちょっとむせてお茶を口に含んだ。


「その彼は何歳ぐらい?」

「成人してすぐだそうですけど」

「あの彼か。クレアストール・デボネア。デボネア家の三男だ。この辺では名士の家だよ」

「お坊ちゃまなのかな」

「いや、砦の戦士に例外は無い。腕は確かだ。それに」

「それに?」

「貴族は魔法が使える可能性が高い」

「魔法、ですか」

「戦闘系魔術士なんて滅多にお目にかかれないが、もし居たらそりゃ強いよ」

「そうなんですね」

「おっと時間だ」


 司令官はすごい勢いで食事を平らげると、オスカルに失礼を詫て去って行った。



 +++



 彼女はプログラムするプログラムだった。

 最終目標は二つのデータを守ること。一つは強襲揚陸艦チトセの航行記録、もう一つはAIの嗜好性データだ。陽子コンピュータが彼女の本体ではない。その個性を決定づける嗜好性さえ再現できれば、AIは復元できる。入れ物は何でも良いのだ。

 この二つはごく小さなチップに保存されているから、それさえを安全な場所へ運べればいい。


 現状を鑑みるに、接続端子とケーブルだけではその役を全う出来ないだろう。敵を破壊する兵器を作れれば良かったが、今の材料ではコスト面で不可能だ。従って逃走するための機体を設計する。燃料が期待できないのでサイズ的にオーソドックスな光発電を装備するが、予備にペルチェ式熱発電を実装しておく。

 移動手段に車輪や無限軌道は却下だ。これもサイズ的な問題で、例えば人間の走行速度から逃れるには、かなりの負担が想像できる。何しろ、今の材料では全長五センチが限度となりそうなのだ。そこで飛行と、予備に歩行機能を実装する。障害物の撤去ができるようにマジックハンドも実装しよう。衝撃に耐えるよう軽く柔軟な機体とする。サイズの近いスパイボットを設計の参考にしたが、既存の生物をモチーフにすると誤認の恐れがある為、オリジナルのデザインとした。最後に個人的な好みで”髪型”を決めると、今度はその機体を製造する工場の設計に取り掛かった。

オスカルは砦にテララに関しての幾つかの資料を提出しています。

軍や政権についての話題は避けたかったので文化や言語についての内容に止めています。

その中にフランス語の資料もあり、それを読んだ司令官はオスカルをマドモワゼルと呼んでいます。

礼儀正しく接した風ですが単に独身か既婚か知りたかっただけかも知れません。

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