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犬は好きだがデカすぎる

 翌朝、と言っても辺りは暗いままだが、彼らは町外れで合流すると、ヒコザは早々に荷馬車の荷台に潜り込み、毛布に包まってしまった。


「寒いのは苦手か?まぁそんなもんかもね」


 エンティは自分の馬を持っており、先に立ちゆっくりと歩を進ませた。後の二人は一頭立ての荷馬車の御者台で、今は女性が手綱を引いている。荷台には野菜や豆などが所狭しと積まれていた。ヒコザが誰ともなく尋ねる。


「ずいぶんたくさんの食料を積んでいくんだな。そんなに長く掛かるのかい」

「いいえ、それは向こうで売るの」


 御者台の彼女が振り向きながら答える。なるほど、探索者も戦うだけが能では無いのか。


「あたしはワンダ。水質と鉱物の研究をしてるんだ。ついでに探索者も」

「いいね。この世界は鉱物が少なすぎるから」

「少ないの?」

「いやあ、もっと有れば良いと思っただけさ」

「工場の人なんだっけ? そっか」

「武器は何か使えるのか?」


 ぶっきらぼうに割り込んできたのは彼女の隣に座っている小柄な少年だ。


「今は丸腰さ。そうだな、長剣なら使える。後は投げナイフと大ハンマー。ボウガンもいける」


 少年はヒコザにちょっとだけ賞賛の眼差しを向け、すぐに元の不機嫌な顔に戻した。


「ふん。まぁ当然だな。あいにく予備の武器はそこに転がってる銛しかない」

「魚を獲る道具だね」

「そうだ。難しいぞ」

「君は上手いのかい?」

「おうとも。よし、俺の名前はガルバンキングだ」

「よろしくね、キング。ヒコザと呼んでくれ」


 少年は歯茎を剥いて満面の笑みを見せた。


 +++


 マヤがとある高級官僚の私室にノックだけで入ると、部屋の主は状況を心得ていた。


「それで?」

「ご挨拶だこと。そうね、すごく勘のいい子よ」

「子?ヒコザは君と同じくらいの年じゃ無いのかね」


 官僚は白髪交じりの髪に手を入れる。癖になっているらしい。


「問題は私が保護局のプレートを提示しなかったのに消えた点よ」

「振興課の名刺を持っていったっけ。騎士団は無理だが、保護局は動いているのだろう?」

「うん」

「急用を思いついただけかもしれない。空を飛んで行くほどの、ね」

「あーあ。あれ絶対本物だよね」

「携帯型飛行器の製作事例が無い訳じゃないが、あれほど小型でしかも燃料を使わない設計は例が無い」

「押収したの? 部屋に残っていた? 試作品かな」

「全てイエスだ。魔術局の者は誰も扱えなかったよ。自力で浮遊できる者も、だ。彼は唯一能力である重力反転が出来ると考えていいだろう。あの機械はその増幅だけを行っているようだ」

「自分で神剣を作ろうとしたのかな。テクノロジーはどこ系?」

「不明だ。図面を見たが、規格が我が帝国の原初規格ときっちり同一だ。今の時代、あそこまで綺麗に製図できる工場は無いよ」

「原初規格ってまさか…テララ人?」

「否定するには材料が少ない。仮にそうなら外来者保護どころじゃあ無い」


 官僚が一呼吸置いてからポツリと呟いた。


「我らのルーツは環の向こう」

「テララの伝説ね。一万年以上探して見つかってないのよ」

「彼がそこの出身だとすれば、数年以内の旅で辿り着ける距離に有るって事だ」

「興味深いわ。テララと魔神がどう関わるのかしら。でも今は彼の身柄確保が優先。探索者と一緒に町を出たらしいの。あたしはしばらく休むから」

「やはり自力で追うのかね」

「そういう決まりだからね。皆には許可を取ってあるから大丈夫」

「騎士を誰か連れて行くんだよ。良い国に、ミロード」



 +++



「ヒコザが圏外なの!どうしよう!」


 朝食の準備をしていると戦術ゴーグルにチャットが入った。ティファラからだ。

 チャットは信号が単純なので音声より通信範囲が広い。

 オスカルは仮想キーボードを展開すると返答を入力した。


「探索者の馬車に乗せてもらうって言ってたじゃない。街から出たらゴーグル単体の電波じゃ届かないでしょう」

「そんなぁ」

「手紙くらいはくれるわよ」


 砦のお茶は緑色の煎茶で、慣れればこれもおいしい。


「あのね、ボク、一緒にいくよ」

「は?やめなさいよ。折角安全なんだし」

「デボネアさんも一緒に来てくれるって」

「あー、匿ってくれてる貴族の彼ね。でも虎が出るんでしょう。危ないわよ」

「大丈夫! 銃もあるし! ヒコザ強いしね」

「合流できるの?」

「やってみる!」


 そこで通信は途切れた。

 これはもしかしてあたしも行かなきゃいけない流れかしら?

 等と思いながらもインドア派は動かないのであった。



 +++



 ヒコザは自分の呑気さに腹を立てていた。街道を逸れた場合の危険を察知出来なかったからだ。

 野犬と呼ぶには大き過ぎるその猛獣は六頭で構成され、規律正しく彼らの馬車を追い立てていた。その統率は高い知能を感じさせる。

 激しく揺れる馬車の荷台でヒコザはアオリを掴み銛を構える。御者台のガルバンキングが小さな体に似つかわしくない大声で叫ぶ。


「突いてしまうなよ!」

「分かっている!」


 この道具の矛先には返しが付いているから、本気で野犬を突き刺してしまうと抜けなくなってしまう。

 小魚を取る道具で大型哺乳類を攻撃しても大したダメージにならないし、銛を失う危険を犯してまでする行為ではない。

 馬車が走っている間は取り立てて危険も無さそうだから、ヒコザの役割としては近付き過ぎた敵に種芋でも投げ付ければ事足りるだろう。勿体無いが。

 しかし、これだけ賢い獣だ。そしてここは彼らのテリトリーである。我々獲物が荒れた道に差し掛かってから仕掛けるなど手慣れた様子から、唯追いかけるだけではない可能性が高い。ふと、巨大狼の視線がヒコザをかすめ、後方へ流れるのに気づく。

 ヒコザが叫ぶ。


「エンティ!待ち伏せがあるぞ」

「そうなのか?分かった」


 唐突に猛獣の群れが走るのを止めた。

 続いて遠吠えを一つ。

 それに応じて断崖の上からも遠吠え。

 馬車はそのまま走り去った。

この世界で徒歩は左側通行です。概ね剣は左佩きなので、すれ違う時に鞘が当たるのを防ぐためにそうなっています。結果馬や馬車は右側通行です。

広い道では道路の中央に誰も歩かない通行帯が設けてある場合があります。所謂ゼブラゾーンですが、元来道の中央を歩いていいのは神様だけです。専用通行区分が設けられていたんですね。昔の名残です。現在では普通に通行して構いません。


剣以外の武器も多種存在し、これは想定する敵の種類によって決まります。

一番多いのは槍でしょうか。結構重いのですが大型の獣と相対した場合、敵に近付くことなく倒せるならこれ以上は有りません。安全第一です。又味方と並んで攻撃できるのも大きなメリットで、同士討ちを避けられます。槍は基本手で持って移動しますが、ちょっと肩に掛ける為のスリングを付ける場合もあります。これは戦闘時は柄に括り付ける紐が付いています。馬が有る場合は矛先を後ろに向け寝かして取り付けます。


戦斧とハンマーは頭を上にして腰に下げます。引き抜いた後持ち直す手間が生じますが、バランス上致し方ないのです。専用の鞘を用意して背中に装備する場合もあります。この場合は頭を下にして、重い部分を腰に据えます。歩き易くなりますが、背嚢が背負い辛くなります。


この世界のメイスは長く、両手で扱う仕様です。木の柄に金属のカバーが付いた打撃錘が付いています。移動時はそのまま手で持つか、先端側に付いているスリングで肩に掛けます。


弓は長弓、短弓、ボウガンが存在ます。それぞれソフトケースに入れて持ち運びしています。長弓と短弓は普段の持ち運び時には弦を張っていません(張りっぱなしにしておくと突然切れてびっくりする事が有ります)。ボウガンは弦を張るのが大変なので修理時以外は張っぱなしです。威力はボウガンが最も高く、射程距離は長弓が長いです。

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