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これは手品だ。超能力じゃない。いいね?

 どんどこどんど、どどどどん


 ヒコザは神隠しに遭ったことがある。ずっと小さな頃だ。

 記憶もおぼろで、太鼓の音を覚えているのだけど、それ以上何も説明できなかった。

 だが証拠がある。彼と入れ替わりにこっちの世界へ来ていた少女だ。写真も残っている。

 伏し目がちのお嬢様風で、たいそう可愛らしい。彼女はヒコザが消えていた間、彼の家で暮らしていたそうだ。


 神隠しが原因かは分からないが、ヒコザには奇妙な特技が有った。彼はコンパス、つまり方位磁針を自在に回すことが出来た。

 高等部でクラスメイトに披露したところ、教員に発覚し、軍の医療部に回された。いまいましい統合軍はこれを新種のサイキックと判定し、ヒコザは徴兵されてしまった。


 移送されたのは超神聖合衆国のネバーダ陸軍基地。砂漠の真ん中に建造された人口約三万人を擁する巨大な半地下施設だ。

 砂漠と言っても殆どは平坦な砂地で、地上施設の中央には川もある。最寄りの都市とリニアが通じていたし、何より航空機に不便していなかった。

 ヒコザの配属された研究班では休日の自由行動を許されたので、軍のスクールで普通科や技術科の講座を取り、社会復帰に備えた。

 研究班のコネで、軍の特殊訓練にも参加することが出来た。体力には自信があったので、色々と無茶をしていくつかの資格を得た。


 超能力の研究も怪しげな部屋に籠もって謎の計器に繋がれる、と言った事は稀で、大抵は屋外研修だった。

 陸軍の時速五百キロも出る二輪装甲車での戦術走行や、さすがに操縦はさせて貰えなかったが空軍機でのアクロバット飛行、宇宙軍の偵察機から高高度のスカイダイビング、北極まで行って軍用スノーモービルに乗ったりと、ヒコザには職員の娯楽に突き合わされている気がしてならなかった。


 研究班の数は公にされていなかったが、見たところ十は超えないようだった。

 その中で能力者同士が行き会うことは殆ど無いが、稀に合同研修と称した研究員達の社員旅行で顔を合わせる事もあった。


 南海に浮かぶリゾート地の遥か沖、ダイビングへ向かう甲板で水平線を眺めていたヒコザは彼女に声を掛けられた。


「キミがヒコザ? ボクは第八班のティファラ。発火能力者だよ~」


 フィリピン辺りの出身だろうか、くっきりとした顔立ちが印象的な娘だった。


「ああ。僕が第三班の手品師だよ」

「手品?超A級って聞いてるけど」

「発現率が百パーセントだからね。対象が限定されているから念動力じゃないんだ」

「百ってそんな、過去最強のサイキックだって三パーセントも無いのに」

「らしいね。ところで君は泳ぎが得意?」


 ヒコザは自分で少し驚いていた。彼は普段、こういう時はさっさと会話を終わらせて一人に戻りたかったからだ。


「もぉちろん!島育ちだもの~」

「それは心強いね。困っていたら助けて貰えるかな」

「お任せあれ~。ふふふー」


「あらあら。上位二名が結託して超能力者の反乱でも企てているのかしら?」


 二人が振り向くとそこには灰色掛かったブロンドの女性スタッフが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「ええ、テララを支配しようと思いまして」


 ヒコザが冗談を受ける。


「オスカルさんも手伝ってくれれば世界を半分上げますよ~」

「三分の一ではなくて?」

「ボクはヒコザのお嫁さんになるからいいの!」

「お妃様か。いいね」

「でしょう~」


 こういう流れに慣れていないヒコザは固まるしかなかった。


 そこでやはりというか、新第四惑星の話になった。

 ティファラがやや間延びした声で女性スタッフに尋ねる。


「セルンって今どうなってるんですかぁ?」

「だめね。先週の十六号無人機も撃墜。有人機は三号が離脱してそれっきり。降りるどころじゃないみたい。次は少し小さい船にするらしいよ」

「小さいと良いんですかぁ?」

「今度は日本製なの。すごく高いけど性能は良いから」

「水素炉の新型ですか?うわぁ~」

「よく知ってるね」

「自分が乗るかも知れないので~」

「優秀だね。ヒコザ君も他人事って顔してちゃダメだぞ」

「僕なんか候補の補欠ですら無いですよ」

「テララ最強のサイキックが何を言ってるんですかぁ」

「あんな芸で飯は食えないよ」

「ボクは、行くよ」


 ヒコザはティファラの見せた表情にぎくりとした。多分、特別な、鋭い目。


「そうか。応援するよ」

「一緒に行くんですよ。ヒコザさんも~」


 テララの反対側、太陽の向こうに発見された惑星セルンは極方向までも厚い隕石群に覆われていた。先進各国や有力団体は利権を求め、上陸の事実を作ろうと躍起になっていた。統合軍もその一つだ。

 軍用艦の機動力と高知能AIをもってすれば隕石を躱すことなど容易かったのだが、その圏内に突入すると、AIは機能を停止し、人員は原因不明の頭痛に襲われ昏倒してしまう。機能が停止した艦は隕石の衝突で圏外へはじき出されてしまうそうだ。

 よって軍の立てた作戦は以下の通り。


 ・手動操縦で突破

 ・それを操縦できるサイキックの育成


 原因不明の頭痛はテレパスが心を覗く作用に似ている事がわかり、軍はこれに対抗できる人材を探していた。統合軍には肝心のテレパスが居ないため、同じサイキックなら抵抗できるだろうと言う大雑把な推論の上、集められたのがヒコザ達だった。

統合軍は超神聖合衆国、EUKG、フランス、アジア極東連邦などの合資による軍隊です。

統合宇宙軍は九十一隻の圏外戦闘艇を主とする戦略ユニットで、通常は海賊の除去や廃棄された人工衛星等デブリの回収を行っています。戦闘艇の推進器はイオンエンジンで、これは電力で稼働します。

この時代は英語ではなく、それを簡略化した銀河標準語が共通語として主要です。もちろん人類は月以外への進出は果たしておらず、銀河とは名ばかりとなっています。

ヒコザが軍で取得した資格は簿記、情報処理、生産士、機械整備、溶接、器械体操、競泳、刈払い機、伐木、レンジャー、自動車、二輪車、フォーク、玉掛、幾つかの格闘技、油脂取り扱い等、割と現実味を帯びた内容となっています。


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