寝坊して午前休になりました④
彩が何かに舌鼓をうちながらとんぼメガネをかけ直し、機嫌は良さそうにまくし立てた。
「ああ、ベッドは俺の趣味で…。頑張ってバイトして買ったんだよ。大きな寝心地の良いベッドが好きなんだよ。それだけだよ」
篤郎はやはり午前中の講義に出られなかったことを悔やんでテンションが下がっていたが、怪しいベッドだ、と言われながらも、“寝心地最高”と褒められてすこし気分が良くなってきた。そうだろう、やっぱりみんなわかるんだな、過ぎたことはしょうがない、それにしても腹が減っているな…と思った。
「ねぇ、学食…混んでる? 席…取れそう…?」
篤郎はきっと無理だろうな、と思いながらも一応聞いてみた。
「…篤郎くん、あんたまだ夢の中なんじゃないの? 無理に決まってんじゃん。うちの学食はとんでもなくおいしいからみんな来る人は講義終わったらダッシュでしょ!? …うおーっ! すごいな今日もまだ入ってくるつもりのかっ! まるでもう満杯なのにあたしの口の中にまだ入ってこようとしているコロッケのようだ」
「それはあんたが自分で口に詰め込んでいるんでしょうが!(子供がまだラーメン食べているでしょうが風に~『北の国から』より~)」
「…お~、学食をゲットしようとひしめき合い、せめぎ合っているよ…。…みんな並んでいるよっ、今から来ても次の講義には絶対に間に合わないよー♪ …う~んっ…♫ それにしてもこのコロッケ~…素敵だ…♥ …あたしを一体これからどうするつもりなんだろうか~…♥ …あ~、わかった~、午後の講義に行かせないつもりだな~♥」
彩は学食の大好物である『コーンクリーミーコロッケ』に舌鼓を打っているらしく、機嫌良さそうにコロッケを賞賛し始めた。
そうだろうなぁ、と篤郎は思った。
「…分かった…。じゃあ、次の講義の席取って置いてー…いい?」
「はー、しょうがないな~、週初めの午前中から色々と可哀想な篤郎くんのために良い窓際、後ろ側最後尾の席をとって置いてあげよう…それじゃあ、私はいま忙しいからまた~はふっ、はふっ! …あぁ、たまらん…じゃっ!」
そう言うとあっという間に電話は切れてしまった。
「…あおい…篤朗くん、まだ家で寝てたみたいだ…。…ちょっとはしたなくもどうしても食事中にWCに行きたくなってきちゃった…これはどうにもなりそうもない、私としたことが…(鼻をすすり)本当に済まないと思っている…」
「…えっ!? そうだったの? それは篤郎君には結構な申し訳ないことをしてしまったね。でも、珍しいね、いつもは“料理の味に集中できず楽しめなくなると嫌だから”と絶対に食事の前にWCは済ませ、万全の状態で食事に望むのにね。でもね、彩、これしきのことで24(トゥエンティ―フォー)のジャック・バウアーみたいに謝らないで。飲食物を万が一、大混雑の学食という公衆の面前で大々的に笑って吹き出したら私の学内での地位と名誉も含めて取り返しのつかない大惨事になるからね」
彩とあおいはそう言いながら顔を見合わせ頷き合った。