一瞬の笑顔
「…そうだったのか…。しかし、そうだとしてもなんで君なんだ…。あいつの運は一体どうなってるんだ…。
あいつと同じ学部の連中が渡村の誕生日祝いをあいつの家で今日するらしい…それに渡村と同じ学年、学部の、ああ、君も名前くらいはもう聞いたことがあるだろうが里村彩、宮越あおい、あと、君と同じ1年の鈴置彩芽さんというとてつもなく可愛い子も駆けつけるらしい…更には君まであいつを探しているとは…。ほんとに渡村は運を今日で使い果たしているに違いない…そう思いたい…」
男子学生たちはく~っと悔しそうに嘆いていた。
「あの、渡村さん…どちらに行かれました? もしかして…お一人でしたか?」
竹岡咲留は男子学生たちの嘆きっぷりに少し同情しながらも、話を進めた。
「…ああっ、一人だったよ…。…午後から講義でその前に購買で買った昼食を取るつもりなんじゃないか…。次の講義室を調べていけばそこで食べているかもしれない…。5分も立たない前に、ここの連絡通路から校舎に入って行ったよ…今なら追えばすぐに捕まえられるかもしれないよ…」
それを聞いて竹岡咲留は緊張した面持ちになったが少し微笑んだ。渡村篤郎がどうやらすぐ近くに一人でいるらしい。
男子学生たちはその竹岡咲留の緊張感のある嬉しそうな笑顔をわずかな瞬間だったが、はっきりと見ることができた。
男子学生たちは嘆くのをすっかりやめていた。
「…先輩たち、ありがとうございます…。それじゃあ…。スマホもありがとうございました…。…あの…、これから学食か購買に行くつもりですか? あのですね…もう学食は満杯であの感じだと席に着くのにそうですね…あの調子だと相当な時間並ぶことになりそうですね…。午後から講義なら間に合わないと思います。購買はパンもおにぎりももうありませんでした…。…それでは…」
竹岡咲留は少し頭を下げると通廊に向かっていそいそと歩いて行った。
「…おい…見たか…」
「…ああ…見た…」
「…今…少し笑ってたよな…」
「…うむっ…たしかに…」
「…あいつのおかげか…俺たちも今日、何か、めちゃくちゃついているな…。…しかし学食、購買はそのためかもうダメみたいだ…でも…今日はそれでも構わないよな…学内でトップを争っている人気の女子学生とこの数分間だけで4連続で会えるなんて…。しかも4人とかなり話せたし…」
男子学生たちは渡村篤郎を羨ましがるような気持ちは一切吹き飛び、ただただ、竹岡咲留の涼しげな姿と一瞬見せた笑顔にやられていた。




