男子学生たちの疑惑⑤
「…い、いえ! そうではなくてですね…。実は昨日俺…。誕生日だったんですが…。さっきも言いましたが…。ええっと、それでですね、学部の人たちが、なんでこんなしがない一男子学生のために、そうなったのかは分からないんですが、今日そのお祝いをしてくれるということになりましてですね、それで…講義が終わったら、なにやら、うちに来てみんなでケーキを食べながらお祝いしてくれる、ということになりまして…。
ああっ、うち、大学のすぐそこなんですが…。けっこうというか相当に広いから、かなりの人数くるんじゃないかな…。
それで、あの、鈴置さんはですね…。里村さんと、宮越さんと仲良しなので、どうやら、二人から鈴置さんも来たらいいんじゃないの? …ということになったみたいですね…いや~…まさかあの鈴置さんまでうちの汚ったない部屋に来るとは…。こんなことも人生あるんですね…。…今日で運を使い果たしているんじゃないだろうか…」
篤郎はちょっと自分に訪れている幸運がまだ信じられないという感じで目を見開き、すぐにしんみりした表情でさらになで肩となり、男子学生たちをさびれた表情で弱々しく見つめ返した。
「…おぉっ! そんな、そんな幸運があるのかっ! あっていいのか…。他のむさっ苦しい奴もたくさん来るのではあろうが…。
それにしても、まさかあの3人が君の誕生日のために君の家を訪問し、ケーキを食べてお祝いするっていうのか!? そんな幸運があるとは…他のむさっ苦しい奴らの穢れなどすべてあの3人の浄化作用で吹き飛びそうな幸運だ…。…しかし、お前、昨日誕生日だよな…。…この差は一体…。前世の報いか何かなのだろうか」
喋っていた男子学生がもう一人の今日が誕生日であるという男子学生に向かって再び言った。
その男子学生は先程よりもさらに見ていられない状態になり、斜め前の地面を魂が抜けたような雰囲気で見つめている。
男子学生たちは、里村彩、宮越あおい、鈴置彩芽と道ですれ違っただけでざわめき喜んでいた自分たちの幸運を果たして幸運と呼んで良いのか否かと疑問を持ち出しているようだった。
ただ、ただ、目の前の運が良すぎて自分の行く末が不安になっている一人の男を可哀想な感じで、しかし羨ましげに眺めていた。
「…そうか…君の誕生日で…。里村も宮越さんも仲間のためにと…やっぱり優しいのだな…。鈴置さんも誕生日だからと一男子学生にあれほどの笑顔を向けるなんて…。俺たちも今日は運が良すぎると思っていたが…。どうやら君のおすそ分けらしいな…。いや、何か…ありがとう…。…おめでとう…」