男子学生たちの疑惑①
これで安心してさっき食べたおいしい学食を胃の中で消化させられます…篤郎さんの昼食の動向が分かるまで、実は消化を止めておいたんです。いや~やっと安心できました! 消化開始です!」
彩芽はホッとした表情でお腹をさすりながら、お腹にぶつぶつとなにやら指示を出している。
「…それで…これから一旦家に食べに帰るんですか?」
「…いや…いつも使ってる空き教室で食べてから午後の講義に出ようと思ってるよ」
「…そうですか、これから魅惑のランチタイムなわけですか。私もこれから講義なんで途中までご一緒したかったんですけどね。あの通り友を待たせているもので…すみません…。…ではまた会う日まで、ということです、はい」
彩芽は『ビッグ焼きそばパン』と『フキおにぎり』の入った袋を羨ましそうにじっと顔を袋にこれでもかと寄せて見つめていただきたかったな、ちっと残念そうなリアクションを取っていた。
笑顔でしばらくはこちらを向きながら手を振ってくるっと方向転換し、友達の所へと戻っていった。戻る途中でこちらを振り返り、また笑顔で手を振っている。
篤郎は彩芽があまりにも眩しいような笑顔で周囲の目を一切気にせずに手を振ってくるので、少し恥ずかしかったが、軽く手を上げて笑顔でそれに答えた。
視線が痛い。横をチラッと見ると男子学生たちが睨みをきかせている。
「…あのー、仲直りですか? …鈴置さんとは…。どういうご関係で…?」
どうやら彩芽に篤郎が痴話喧嘩で責められ、誤解が解けて仲直りというようなストーリを想定しているらしい。男子学生の一人が神妙な面持ちで聞いてきた。
「ああっ、あのですね…さっきここを通った里村彩…いますよね…? 俺…、里村と同じ学部で同じ学年なんですよ…。それでまぁあいつとほんとに軽い友達なんです…。あのとんぼメガネの…。
鈴置さんはあいつの仲の良い後輩で…それでちょっとした知り合いなんです…。はい…。いや、ほんとに軽い軽い知り合いなんですよ。なんか出会い頭に、いま対面で肩を抱きかかえて熱く揺さぶるのが流行ってると言っていました…。おふざけみたいですね…はい…。いや~びっくりしたなほんとに…」
「…あっ! 篤朗さーんっ! 今、あおいさんからラインが…講義の席良い場所が取れたそうで~す♪ 午後の講義頑張ってくださ~いねっ♪」
彩芽がスマホを頭上に振り上げそれを指さしながら大きな声でこちらに呼びかけている。
篤郎はまた笑顔で手を小さく上げてありがとうと頷いて合図した。




