寝坊して午前休になりました①
開け放した窓から笑い声が混じった会話がとぎれとぎれに聞こえ徐々に近づいてくる。
「…今日永井先生の講義休講だってさ~! ラッキー! 暑いけど、行くチャンスじゃん?」
「…えっ! ほんとに~っ! それじゃあ、午後休だから食べに行こっか、いいねー」
女子学生二人の弾むような会話。
「…はいよ~おまえ午後から出るのー? 俺、今日はもう帰るわ~暑くてだるくてやってられねーから…。…えっ? …そう、夕方からバイト。だからそれまで暑いから寝るわ。おうっ…。じゃあまた明日な~…。へい、へ~い!! 永井先生の講義今日ないぞー!! 今日午後休だぞ~…分かっているのか~!? …いないか~…」
男子学生の一人の声はとんでもなく大きく聞こえ、思わずビクッとなり顔をしかめた。誰かに相当な大声で呼びかけたのか、まるで自分に呼びかけられたような大きな声で部屋の中に響き渡るようだった。
その後も男女学生たちの色々な会話の声がしきりに聞こえてきた。窓を開け放しているので、どんどん外の声が室内に入ってくる。
篤郎は先ほどの大きな声に驚き、体を大の字にして顔をしかめ、ぼーっとした頭でそれを聞いていたが、次第に学生たちの開放感に満ちた声が聞こえる時間が一体何時頃なのかということにようやく気がついた。
「…このみんながどんどん出てきて会話がとぎれない感じは…。…昼なのかっ!」
篤郎はようやくそう気がつくと一気に飛び起きた。ソファに寝ていると思っていたが、暑さでゴロゴロと動き回り気づかずにどうやらソファの下に落ちてしまっていたらしい。これは午前中の講義を終えて、午後休の人たちを中心に帰っていく声だ。
外から聞こえる声は講義を終え、みなリラックスした感じの声だったが、篤郎は焦燥感に駆られ始めていた。セミの鳴き声が聞こえてきている。部屋の中はすでにかなり暑い。閉められたカーテンの隙間から強い日差しが入ってきていた。外は晴天のようで今日もかなり気温が上がりそうな気配だ。
篤郎は慌てて時計を確認した。午前中の講義が終わる時間からすでに5分が経過している。
「…ああっ、12時15分。午前中の講義が…もうあと1回も休めくなってしまった、くそっ」
篤郎は悔しさを抑えきれなかった。講義を3回を超えて休んでしまうと単位を落とすことになるが、逆を言えばあと1回休んでも何とかなったのだ。その1回分の時間を私用に使う計画が台無しになってしまった。