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池木屋山十六  作者: 利田 満子
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足跡

小屋の外が明るくなった。壁が白い布製なのでよく分かる。靴を脱いだ土間の半分くらいには薄く雪が積もっていた。賢一と貴洋の二人はまだよく眠っていた。小屋の人たちもまだ起きてないようだったので私は再び目を閉じた。風は夜中ほど強くは吹いてはいない。収まりかけているようだ。天井も壁ももうそれほど喧しくはない。ただ、雪が小屋の中にまで入って来ているぐらいなので外にどの程度積もっているのかが気になった。雪の積もり具合によっては山を降りるのが難しくなる。道も分からないかも知れない。小屋の人たちはどれくらいまで道を教えてくれるのだろうか。途中まで教えてもらったとしてもそこから先が分かるだろうか。布製の軽登山靴で雪の中を歩けるだろうか。私は雪が止んでいることを祈った。雪の止んでいる隙にしか帰るチャンスが無いと思った。目を閉じたまま様々に考えを巡らせていたら、いつの間にかまた眠ってしまった。

「おい、起きなよ。飯ができてるぜ」

 私は若い人の声で目を覚ました。賢一と貴洋も目を覚ましたようだ。腕を力いっぱい伸ばしたりしている。私は額にかかった髪を掻き上げた。疲れてぐっすり眠っていたのか、くしゃくしゃだった。目を開けるのには瞼が重たかった。二人とも目をこすったりしてなかなか目を開けようとしなかった。

「おはよう、ござい、ます」私は寝ぼけた声で挨拶をすると炬燵から這い出た。台所から炊きたてのご飯のよい臭いが漂ってくる。

「昨夜は眠れたか」主任格の人の声がした。

「はい、おかげさまでよく眠れました。それに食事の用意までしていただいてどうもすみません」賢一が言った。

「何の、何の。それより、遠慮せんと食べなあかん。昨日と同じようなもんしかあらへんけど、食べな」

 私たちは靴をはくとテーブルに着いた。

「昨夜は雪が降ってたんですねえ」賢一が言った。

「そうや、外を見てみい。一面、真っ白や。今年もそろそろ山を降りやなあかんかも知れへん」

「毎年、これくらいの時期になると雪が降るんですか」

「年によってだいぶ違うわな。早い年は十月の末に降ることもあるけど、十二月になっても降らん年もある。まあ、そやけど、雪が降ったら仕事ができん。今年はこれから雪が続きそうじゃ」

「しかし、本当に感謝しています。昨日泊めてもらってなかったら、多分駄目だったような気がします。食べる物もほとんどなかったのですから」

「まあ、そんなに気にせんでもええが。運がよかったんやろう。さあ、遠慮せんとしっかり食べな」

「ありがとうございます」私たち三人は口をそろえて言った。

 朝食はご飯と味噌汁と玉子だった。昨日やったように玉子を割って中身をご飯に載せると醤油をかけて掻き混ぜた。昨日も空腹だったが、今朝もやっぱり空腹でたくさん食べることができた。

 朝食がすむと私は片づけを申し出た。男ばかりの流しは乱雑だったが、私はできるだけきれいにするように努めた。私が食器を洗っている間も賢一と貴洋の二人は主任格の人と話しをしていた。

「おまえさんら今日は帰るんじゃろう」

「はい、宮の谷へ降りる道を教えてほしいんですが、あの、宮の谷の出合の神社の前にテントを張ってあるものですから」

「どこまで行けばいいかのう」

「ええと、登って来た道は高滝を巻いて谷を遡ってくると二股になっている所があって、空っぽの小さな小屋がありました。そこらへんで池木屋山に登る道を捜したんですが、見付けられなくて、池木屋山とは方向が違うんですが、小屋の裏から急な坂道を登ったんです。そうしたらちょっと展望のいい尾根に出たんです。そこから稜線を進んだら奥の平峰に出ました、多分。ですから、そのあたりまでの道を教えていただいたら、何とか帰れると思います」

 賢一は持っていた地形図を広げて一生懸命に説明した。主任格の人は余り地形図を見ているようではなかったが、賢一の言葉で凡そのことは分かっているようだった。特に空っぽの小屋のことを言った時には大きく頷いていた。

「よっしゃ、わかった。今日は外が雪で仕事ができへん。分かる所まで送ったろう」

 私たちは出発の準備をすませるとお礼を言って小屋の戸を開けた。この小屋がなければ、あの若い人に出会わなければ、私たちの運命がどうなっていたか分からない。どれだけお礼を言っても言い足りなかった。小屋の人たちは私たち三人が今朝、風邪もひかないで元気なのを喜んでくれた。

 主任格の人が案内をしてくれるようだった。作業着の上にぶ厚いジャンパーをはおり、地下足袋を履いている。何のためか分からないが、手には大きな鉈を刃をむき出しのまま持っていた。小屋の外に出てみると見事に雪が積もっていた。雪が積もっているのは分かっていたが、空以外は見える物がすべて白くなっていたのには驚かされた。葉を落とした広葉樹の枝が、暗緑色の針葉樹の葉がそのままの形で白くなっている。褐色の地面と薄茶色の枯れた雑草のどれもが白い雪を被って清潔そうに見えた。空にはまだ雲があって雪がちらほら舞っていたが、もうすぐ止みそうな感じがした。とにかく小屋の外はすごく明るい。外に出た時、すぐに目を細めたくらいだ。

「鶏が死んどる」貴洋の声が聞こえた。賢一と私は入り口の横の箱を見た。

「ああ、こりゃあ、いかん。これは今晩のおかずやな」主任格の人はさほど驚いた様子もなく言った。

「鶏は、やっぱり食糧にするために飼っていたんですか」

「そうじゃ、そやけど、こんなに早う死なれるとは思わなんだわ。もうちっともってくれると思とったのに。やっぱあ、昨夜の雪がきつかったかのう」言い終わると主任格の人は歩き始めた。賢一と貴洋はすぐ後について行ったが、私はすぐには歩き出せなかった。鶏が自分たちの身代わりになって死んだのではないか。何故かそんな気がしたのだった。私はしばらく箱の中を見ていた。先に行った三人の姿が道の曲がっている所で視界から消えた。私は慌てて三人の後を追った。

 深い所では雪は踝のあたりの深さまで積もっていた。布製の軽登山靴なので冷たい雪が染みて来ないかと不安だった。だが、心配しても仕方がない。主任格の人はさっさと歩いて行く。私たち三人はとにかくついて行くしかなかった。

 時々吹く風が高い枝に積もった雪の塊を落とすことがある。それが低い枝に当たって砕け散る。雪の破片が顔に当たったりすると改めて山の寒さを感じさせられる。空を見上げると段々に雲が少なくなっていき、青空が広がっていく。吐く息は白く広がって消えていく、徐々に姿を消す雲よりも速く。

 私は雪を被った山々の景色に見蕩れていた。雪を被ると山の姿は一変してしまう。人を寄せ付けない急峻な尾根や深い谷でさえも穏やかな形状になってしまう。冷たいはずの雪が綿のような温もりを感じさせる。同じような形の山ばっかりだったのが、絵に描いたように白くなってさらに同じように見えてしまう。ただでさえ道の分かり難かった山なのでもうどこを歩いているのかさっぱり分からなかった。主任格の人の後をついて行くしかなかった。初めは風も冷たく感じたが、歩き出すと身体も暖まって逆に涼しくさえ感じられるようになった。私たちはほとんど言葉を交わすこともなしに歩いた。一時間くらいは歩いただろうか、道案内をしてくれた主任格の人が立ち止まって私たちの方を振り向いた。そして鉈で一本の木を指し示した。

「あっ」私たちは驚いた。その木は変な落書きが彫られてあった木なのだ。宮の谷から急な道を登って稜線に辿り着いて休んだ所にあった木だった。落書きの一部分は一昨日貴洋によって一部が削り取られている。主任格の人はそのことに気がついたのかちょっと妙な顔つきになった。削り取ったのは貴洋だが、賢一も貴洋もすぐに黙っていようという気持ちを目つきで表していた。

 ここから先の道は私たちにははっきりと分かっている。急な道を降りて行けばいいのだ。そうすれば登る時に休んだ小屋の裏へ出られる。その後は宮の谷の流れに沿って下るだけだ。これから先はまだ長かったが、テントの張ってある所までの見通しがついたのですごく気が楽になった。

「ここからなら分かります。この木には見覚えがあります。これを降りると無人の小屋の裏に出るんでしょう」賢一が言った。

「そうや。ここからはわかっとるな。そんならこれでわしは帰るけ、後、気いつけて行けや」

「はい、ありがとうございます。それから小屋に泊めていただいたり、食事までさせてもらってどうもありがとうございました」私たちは頭を下げてお礼を言った。

「なあに、気にすることはないさ。困った時はお互い様だって言うじゃねえか。まっ、気いつけてな」

 案内をしてくれた主任格の人は踵を返すとさっさと歩いてたちまち雪景色の中に消えてしまった。私たちの感謝の言葉に比べて主任格の人の態度はそっけない感じがした。厄介者がいなくなってせいせいしたのだろうか昨日小屋に飛び込んできた私たちはあの人たちにとって確かに厄介者だったのだろう。それにしても帰れるという安心感と同時に、主任格の人がいなくなると山の中での私たちの無力さも感じられた。結局自分たちの力だけでは山を降りることができなかったのだ。この時期にこんな山の中で作業をしている人たちがいるとは運がよかったと思わなければならないだろう。

「そんでも本当に助かったんやなあ」貴洋がほっとしたように言った。

「そうよね、あの小屋がなかったら、多分駄目だったでしょうね。すると最初に出会った若い山林労務者の人は私たちの命の恩人ということになるわね」続いて私が言った。

「ああ、ほんまにそうや」

「昨夜は雪まで降っていたし」

「この中の一人くらいは死んでたかも知れへんな」

「死ぬとしたら、それは私よ、きっと。だって本当にしんどかったんだもの。あの時は歩く気力もなくなっていたのよ。もうこのまま死ぬんじゃないかと思ったくらいだから。でも、貴洋、それにしてもよく私を負ぶってくれたわね。疲れていたのに」

「いやあ、まさか、置いていく訳にもいかへんしなあ。少しくらい重たても運んで行かにゃ。そやけど、やっぱり重たかったなあ。はっはっはっはっは」貴洋は笑いながら言った。「重いとは何よ。失礼ね。私、そんなに重くはないわよ」私はむっとして言った。

「そんなら何キロなんや。体重を言うてみい」

 私は黙っていた。

「六十キロくらいあるんと違うか」

「馬鹿ね、そんなにある訳ないでしょう」

「そんなら言うてみい」

「レディーに体重を聞くなんて失礼よ」

「まあまあ、二人とも醜い争いはそれくらいにしといたらどうだ。それよりもそろそろ歩いた方がいいんじゃないか。先はまだ結構あるからな」

 私たちは貴洋を先頭にして急なジグザグの坂道を下った。道の両側の木々にも枯れた草にも雪が積もっていた。雪が積もっていても道は分かった。枯れ草も何もなくてここを歩いてくださいと言わんばかりに雪が平に積もっているからだ。

「ありゃ、この足跡は何やろな」しばらく歩いていたら貴洋が突然立ち止まって大きな声を出した。賢一と私は貴洋の指差す方を見た。かなり大きな動物のものと思われる足跡が雪の上にはっきりといくつも残っていた。足跡はまだ新しい感じだ。夜についたものではない。夜は雪が激しく降っていたはずだから、雪が止んでからということになる。ほんのちょっと前に何かが歩いたのかも知れない。

「おいっ、これ、ひょっとして、熊の足跡と違うやろな」私が恐れていたことを貴洋が口にした。

「ううん、こんなに大きいのは熊ぐらいしか考えられないなあ。まだ本物の熊の足跡を見たことはないけれど。狐やウサギだったらもっと小さいだろう」賢一まで避けてほしいことを口にした。このあたりに熊がいることは小屋の人たちの話しから確実である。熊がこの近くにいるとしたら、どうしたらいいのだろう。私たちはこの道を降りるのが怖くなった。

「ちょっと、この道を降りるつもりなの」私は二人に確かめてみた。

「他にどんな道があるんだよ。このまま行くしかないだろう」

「だって、このまま降りたら熊に出会うかも知れないのよ。どうするつもりなの」

「熊は怖いけれど、テントを張った所へ帰るのはこの道しかないじゃないか」

「小屋に戻って別の道を教えてもらうとか、安全な場所まで一緒に降りてくださいとか、頼めないものかしら」

「アホな。いくら何でもそこまでずうずうしいことようせんわ。泊めてもろて、飯も食わしてもろて、小屋から道の分かる所まで案内してもろて、今度は別の道を教えてくださいとか安全な所までつれてってくださいとか、いくら何でも甘え過ぎやろ」

「でも、・・・」

「この道を行くしかあらへんのさ。そうや、賢一、鉈を貸したるわ。鉈を持って先頭を行けよ。熊が出てきたらそれでゴツンとやったったらええやんか。そう言うたら、あの途中まで案内してくれた人も鉈持っとったやんか。何で鉈持っとったかわかったわ」

「俺に先頭を行けと言うのか。それはないぜ。先頭はいつものお前でいいんじゃないか。鉈を持ってるから、貴洋、お前が先頭を行ってくれよ。本当に熊が出てきたら鉈くらいじゃ太刀打ちできないと思うけれど」

「俺も先頭を行くんは嫌や。熊と鉢合わせしたら、多分腰を抜かしてしもて何もようせんと思うわ。お前が先頭を行ってくれよ」

「先頭を歩くのは俺も嫌だな。熊に出くわしたら真っ先にやられるからな」

「いいや、やられへんのと違うか。熊は一番美味しそうな奴から襲うやろうで」

 二人の会話を聞いていると私は益々不安になった。

「それは熊に聞いてみやな分からへんけど、襲われるんは智子のような気がするわ」

「冗談でしょう。何で私なの」右手の拳に力を入れて私は叫んだ。

「そやかて俺らみたいに筋張って骨だらけと違うもんな」

「馬鹿みたいなこと言ってないで進むのか、戻って別の道を行くのか決めてよ」

「別の道を降りるんだとしてもそっちにも熊がいるだろう、多分。だから、もう、この道を降りるしかないよ」

「よっしゃ、ほんならこの道を行こう。遠回りしても熊がおるんやったら、この道を降りるしかないわな。熊に出くわすかどうかは運次第やな」

「だけど、誰が先頭を歩くの」

 賢一も貴洋もすぐには言葉が出なかった。

「待って。思い出したわ。私、こんなのを本で読んだことあるの。あのね、それは熊も人間を恐れているってことなの。小屋の人もそんなこと言ってたでしょう。人間に出会いたくないのよ。それで急に出会ったりすると熊もびっくりして死に物狂いで人間に襲いかかってくるってことなの」

「それは本州におるツキノワグマのことやろう」

「ええ、そう。北海道にいるヒグマは人間を餌だと思って襲ってくるらしいんだけど、本州にいるツキノワグマはヒグマよりも小さくて性質もおとなしいらしいの。だから、普段の山の中では聞くことのない金属性の音を出すとか、大きな声を出すとかしてこちらの存在を教えてあげるようにすればいいと思うのよ」

「なるほど、それは黙って歩くよりいいだろうな。俺もこんなのを思い出したよ。山の中で熊とばったり出会ったお爺さんが大声で叫んだら、熊の方がびっくりして逃げて行ったんだってさ」

「本当かな、それ。そんなことしたら逆に熊を興奮させるだけと違うか。その人は運がよかったんやろう」

「でも、何もしないよりはいいんじゃない。こちらの存在を知らせるんだから。できるだけ熊と出会う確率を減らすのよ」

「そやけど、何か金属性の音が出る物、持っとるか」

「鈴かベルがあればいいんだけどなあ。こんな時に限って何もないんだよなあ」

「歌でも歌ったらどう、なるべく大きな声で」

「ええっ、大きな声を出すんは疲れるわ」

「しかし、それしかないだろう。歌を歌うんだ。そして歌うんだったらなるべく元気な歌がいい」

「そんなんで大丈夫なんかあ」

「大丈夫よ。そうしましょ」

「よし、それで行こう」

「それでええけど、誰が先頭を歩くんや」

「私は除外してよ。か弱い乙女なんだから」

「この際例外はなしにしようぜ」

「薄情ね」

「怖いんは誰でも一緒やろ」

「嫌よ、先頭は」

「そんなこと言うとらんと、何とかして決めやなあかんわ」

「どうやって、決めよう」

「阿弥陀くじでも引こか」

「そんなもの作ってる暇はないだろう」

「ほんなら、手っ取り早くじゃんけんにしよか」

「俺もじゃんけんでいい」

「それって、もし私がじゃんけんに負けたら、やっぱり先頭じゃなくちゃいけないの」

「当たり前やろ」

「そういうことになるな」

「ええっ、嫌だ。絶対に嫌だ」

「まだじゃんけんしとらんし、先頭に決まっとらんのに」

「まあ、じゃんけんしようぜ」

 二人の圧力に押されてじゃんけんすをすることになった。先頭にならない確率が三分の二もあるから多分大丈夫だろうと私は思った。

「最初は、グー」三人で声をそろえて言った。

「じゃんけん、ポン」それぞれが手を出したが、三人ともチョキだった。

「あいこで、ポン」

「ええっ、嘘でしょ」私は大きな声で叫んでしまった。

結果は私だけがパーで二人はチョキのままだった。

 賢一と貴洋は先頭が決まったことにほっとしているようだったが、顔に出して喜んでいるようには見えなかった。しばらくためらったが、決めたことなので私は先頭になって歩き始めた。二人は後ろに続いている。二、三分歩いたが、三人とも歌を歌うことは忘れていた。

「ちょっと待てよ」後で貴洋の声がしたが、私は歩き続けた。

「ちょっと待てくれ。やっぱり、あかんわ」

 貴洋が何を待てと言ってるのか分からなかったが、私は立ち止まった。

「智子。俺が先頭行くわ」

 私はすぐには言葉の意味が理解できなかった。後にいた貴洋は早足で私の横をすり抜けると前に出た。そしてすぐに歩き始めた。

「ちょっと、どうしたの」私は後を追った。

「さあ、行くで。歌、歌ってくれよ。どんな歌を歌うんや」私の言葉を無視して貴洋は大きな声で言った。

「朝陽さし昇る東雲の・・・」

 最初の歌は何故か賢一の口から出た校歌だった。始業式や終業式で何度も歌っているので、すっと口から出てきたのだろう。違和感はない。

「声が小さい」貴洋は怒鳴った。そのまま歩いたので私は二番目で歩くことになった。

 怖さのためか、歌声は小さかったが、歌い続けていると段々調子が出てきて、谷にこだまするようにまでなった。道に積もった雪は滑りやすかったが、誰も転ぶこともなく、無事に登る時に昼食休憩をした奥の出合の小屋に着くことができた。


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