Spectacular
『あ』
『戻ったのかな』
『(皆は…
どこ行っちゃったんだろう)』
『よし、エル達と合流しよう』
『……』
『動けない……』
?
なんだか騒がしいな
沢山の人の声がする。
〖〖乾杯!!!〗〗
〖いやぁー!〗
〖今年で此処が成立してから
___年!___周年だ!めでてぇな!〗
〖あぁ!たらふく食って飲もう!〗
〖祝いだ、今日くらいは
羽目を外しても問題ない〗
〖お前の鬼嫁も許してくれるだろうさ〗
〖なんせ祝祭だからな〗
祝い?
どうやら
あちこちに飾りが施してあったり 人が多いのは
めでたいから らしい。
〖おぅい〗
〖こっちまだまだ足りねぇぞー〗
〖はいよー!〗
〖さぁさ、そこの君
人手が足りないんだ〗
〖あっちの方に
これを持ってってくれるかい?〗
「?」
「分かりました」
その場の勢いで任せられた。
街一帯を調べたかったのだが
向こうにこれを届けてからでいいか。
〖おっありがとよ〗
「じゃあこれで」
〖待て待て〗
〖あっちに雑用にされてんのか?〗
「?」
〖せっかくの祭なのに〗
〖そんなばっかりしてないで 君も飲もう!!〗
「いや、あの」
差し出されたものは 変な色の水。
〖おいおい〗
〖まだ飲むような歳じゃないだろ?〗
〖あ、わりぃわりぃ〗
〖ジュースだ、ジュース持ってきてくれ〗
〖今こっちにはないよ〗
〖なんだぁ?そうか、じゃあ
とりあえず水だ、水ならあるだろ?〗
「僕はいいですから」
「ちょっと用事があるので」
〖こんな日に用事ぃ?〗
〖大体のやつは此処に集まってるぜ?〗
〖家の方には 誰も居ねぇんじゃねぇかな〗
〖用事なんざ明日で良いだろう?〗
〖この日は皆同じ気持ちで
楽しく祝おうじゃないか〗
〖よし、乾杯!!〗
〖乾杯!!〗
「か、乾杯……」
〖さ、遠慮せずに飲め飲め〗
〖といっても水だがな!ガハハ!!〗
「……」
透明な液体が手元で揺れる。
液体を顔に近付ける。
……
待て、
此処に水なんてあっただろうか?
僕は博士がエヌの町から
必要なだけ
水を持ってきていたのを見ている。
その後、街に水道があるかを
調べていたような。
…
急に確認したくなった。
一通り見たと思っていたが
そんなところは
普段気にしていなかったのだろう。
あまり記憶がない。
「すみません、行かないといけないので」
〖お、おう〗
声が集まる場所から離れる。
そういえばエヌ達を見ていないな。
近くに居るだろうか?
街ごと戻したのだから
パズルで移動した時のようにはならない筈だ。
それかエヌの町に居るのか?
そこまで戻っているのだとしたら
迎えに行くべきか?
…ひとまず僕の家に行こう。
僕の家。
この街を知らない人にとっては
見分けがつかない家の一つだ。
何度も行き来を繰り返せば、
自然と見分けがついてくる。
家に入る。
水道を確認する。
博士が見ていたと思われる場所を調べてみる。
蛇口を捻る。
水は出ない。
出なかった。
とすると
彼方で飲んでいた水は
何処かから持ってきた物なのか?
それとも僕の家から出ないだけで
他の場所では出るのだろうか?
水のことは今まで一度も
見てこなかったのだろうか?
癖のように
部屋の中をうろうろする。
?
机の上に何か置いてある。
これは?
…
紙とペン。それと
機械。
パーツ等ではないが
四角いことは確かだな。
紙には
水を飲んで
と書かれている。
僕は水も食料も要らない体だ。
飲まなくていい。
それか何かあるのだろうか?
この紙に従うことで?
……
今 そんなことはいいか。
紙と機械を持っていこう。
エヌ達と話がしたい。
『うーん…』
『なんでこんなに』
『足が重いのかなあ…』
『……』
『運動不足?』
『それはあるかも…』
『瞬間移動が使えるようになってから
運動らしい運動はやってないな…』
『いやいや』
『さっきの今で動かなくなるわけないし』
『太った?』
『いや普通…いつも通り』
『何処か縛られてて動けない~』
『…って訳でもない』
『……』
『あと今の現在地だよ』
『街のどの辺に居るの、僕!?』
『見渡せないから本当に分からない!!』
『壁が多いんだよなあ…』
『エルが通りかかるまで待つしかないか』
また人の集まる場所へ戻る。
料理などを人に運ばせている辺りで
水が出ているのだろうか?
「すみません」
〖何だい?〗
「水をください」
〖ちょっと待ってね〗
人が多いな
料理を作る人達が忙しそうにしている。
何処かで入れている様だが
あまり見えなかった。
水を入れられるということは
出ているということなのか?
それとも…
〖はいよ〗
「ありがとうございます」
受け取った水は透明だ。
水を持ったまま歩く。
〖そうだとも〗
〖この節目を
あと何回迎えられるかが大事なのさ〗
「?」
「あの」
〖?〗
「節目って…?」
〖若いのには分からんか〗
〖今日で此処が
____周年ってぇ節目だから
こうして祝っているんだ〗
〖_____年も平和に維持出来ているのは
ある種の奇跡かもしれねぇな〗
そんなに長く此処が存在しているのか。
知らなかった
〖君が俺らの歳になった時には
またこうやって盛大に祝ってくれよ?〗
それだけ歴史があるんだな
〖せっかくなら君も乾杯しよう!〗
〖乾杯!!〗
「…乾杯」
何も考えずに口をつけた。
……
周りが静かになった