Smart, paralyzed
「……」
「(さて、どうしたものか)」
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‘すいませーん’
「?」
「(人が走ってくる。何だ?)」
‘すいません、ちょっと聞きたいんですが’
「…はい」
‘私、道に迷ってしまって、
さっきまで居た所に戻れないんです’
‘ここら辺の道、ご存知ですか?’
「…いえ」
‘そうですか…’
「……」
「(これは幻のはずだが。
まさか人が出現するとは)」
「(だが、本当にこの人は幻覚なのだろうか)」
「(確かめる必要があるな)」
「私は此処の事をよく知らないが、
それでも良いなら同行しよう」
‘わっ本当ですか!助かります!’
「……」
“(そのまま、此方に迷いながら
来てもらって下さい)”
‘(分かりました!)’
『……』
『高度だね、それ』
“そうでもしなければ、怪しまれてしまいます”
『まぁ…そうだけど』
『それでも、来てくださいって言えば時間は短縮…』
“ここは慎重にしておくべきです”
『…うん』
『さっきまで居た所って無理ない?』
“嘘はついていません。
実際先程まで此処に居たのですから”
『……』
『(勘が鋭くない人であってほしいね)』
「貴方の名を聞いてもいいか」
‘アイです’
「(アイか…戻ったら調べるとしよう)」
「(架空の人物という可能性も十分にあり得る)」
「(容姿、声……覚えておこう)」
「(だが、もし私と同じく幻覚を見ていたり、
又は迷いこんだのであれば、
お互いに助け合うしかない)」
「(同じ空間に居る唯一の仲間かもしれない)」
「(なんとかしてこの状態から戻るためには…)」
「(まずはアイの用件を済ませてからだ)」
「今まで通ってきた道は覚えているか」
‘いえ…ちょっと前までは少し覚えていたんですが、
今は混乱しててぐちゃぐちゃで…’
「(混乱。急いでいたのか?)」
「何か目的があったのか」
‘えっと、道の事を考えてたら忘れてしまって……’
「……」
「(一つに集中する人なのか)」
「何か目印はなかったか。その目的地の」
‘うーん……’
“(家があった、それも周りより少し大きく、
白い家があったと言って下さい)”
‘家がありました’
「…遠目から見ても、家は沢山建っている」
‘周りよりも少し大きくて、白い家があったような’
「……」
「(皆、ほぼ均一だ。それに、白い家しかない)」
「(と言ってしまえば、
アイの言うことを否定しかねない)」
「…実際にその家を
見つけに行けばいいのではないか」
‘そっ、そうですね!でも…’
「…?」
‘あの道、複雑で…’
「…その道を知らない私が先頭に立って歩こう」
「何か思い出したら言ってくれ」
‘はい、ありがとうございます!’
『なんて優しいんだ…』
“そうですね”
『(なんか騙してるようで悪いな)』
『きっと、今エルになってる人は
元居た所でも頼りに…』
『あっ、《アイ、その人の名前聞いて》』
‘はい’
「?」
‘あっいえ!’
‘あの、名前を聞いても?’
「エムだ」
‘エムさんっていうんですね、覚えました’
「(大丈夫か?名前まで忘れないだろうな)」
『(心配されてる……)』
“………”
『そこまでアイは頭悪くないと思うけど、
何で道聞かせたの?』
“あの無邪気さが、
それを隠す事が可能と予測したからです”
『そうなんだ』
『(Aが凄くて、
アイもそれを共有しているから、少しは…)』
『(いや、僕より頭良いし。
普通に知能は町人を超えてるけど)』
『(屈辱に思わないかな、アイ)』
『(馬鹿なふりしてストレスかからないかな)』
“その辺は抜けていて、
それが子供要素になっています”
『えっ』
“加えて、アイ様はアイ様で
私と共有することは滅多にありません”
“透聴による意志疎通くらいしかしていませんよ”
『いやそれ、それ……』
『常人には出来ないって』
“そうですか”
『(能力持ち過ぎて麻痺してるね)』