9 洞窟
あらすじ
・ミーナとルベロス退治の依頼を受けて洞窟へ!
村の依頼を受けて入った洞窟は広かった。俺たち二人が横に手を伸ばしてもぶつからないくらいの幅があり、高さは二メートルくらいか。地面は平らで歩きやすい。そして日が当たらないことによってとても涼しく感じられる。とは言っても、外もそれほど熱くないのだが。
そして、壁には光を放つコケが生えていた。
「すげぇ、何これ、ヒカリゴケ?初めて見た」
思わず感嘆の声を上げる。
「灯草ね。周りの魔力を吸って栄養にしているんだけど、余分に吸った魔力をそうやって光に変えて放出してるの」
見た目はヒカリゴケと大差ないが、その光はそこそこに強い。
洞窟に入ってから一分程経った今、外の光は届いていない。にもかかわらず、ミーナの顔が見えるくらいには明るいのはこのコケのおかげらしい。
懐中電灯も、ランタンも、松明もいらない。ありがとう、灯草。
「にしても、じめじめしてるわね。どうせ洞窟だから使わないつもりだったけど、火魔法は使えないわね」
ミーナがあたりを見回しながらそう言った。
「なんで火魔法が使えないの?」
「火魔法ってのはね、使うのに三段階の手順が必要なの。まず、魔力で周りの酸素を集める。次に、魔力でその酸素に火をつける。最後に、魔力で火を増幅させる。この二つ目の酸素に火をつけるって手順は湿度が高いと物凄い時間がかかるのよ」
魔力の三段活用である。魔力有能。
「へー、もっとこう、念じるだけでボワッと火が出てくるのかと」
「そんな人並み外れたことできるとしたら転生者だけよ」
人並外れたって……。魔法使えるミーナも俺からしたら人並外れてるんだけどな。
「因みに、火魔法が使えない湿度の高いところだと、逆に水魔法が強くなるわ」
湿度が高いから水を集めやすいとかそんな感じだろうか。
ミーナから魔法についてのレクチャーを受けながら歩いていると、突如彼女が立ち止まる。
どうした。そう尋ねようとミーナの方を向くと、左人差し指を口に当てて、静かにというジェスチャーをしていた。慌てて、声を飲み込む。
ミーナは洞窟の奥の方を見ている。何かが見えているのだろうか。
それとも何か聞こえてくるのだろうか。そういえばミーナは地獄耳だった。何か聞こえてくるのかもしれない。
「来る、何か来るわ。戦闘準備を」
ミーナは掌を胸の前で天井の方に向ける。
すると、両手の上に緑色で透明の球体状の何かが現れる。
その球体状の何かはみるみる小さくなっていき、中に少量の水が現れた。
もしかして水魔法か。
火魔法もかなり順序だてられて使うようだったし、おそらく水魔法もそうなのだろう。
いけない。俺も準備しなければ。マモンから貰った短剣を取り出す。
馬車の中でこの短剣をミーナに見せたところ、かなりの上物らしい。
魔法が込められてないから、魔法剣には劣るが、通常の短剣の中でならトップクラスの物らしい。
因みに、「魔法使いなのに剣のことまで分かるとは、流石はBランク冒険者だな」と褒めたら凄く嬉しそうなのが可愛かった。
いかん、そんなことを思い出している場合ではない。集中しないと。
基本的には、冒険者の先輩であるミーナが敵を片付けることになっている。俺はミーナが殺し損ねた魔物を担当する。
前方の暗闇に気配を感じる。
闇の中から二匹のルベロが現れる。
それを見たミーナは透かさずに両手に溜めていた少量の水を放つ。それは手から離れる瞬間、その一瞬で量が増え、矢のような形に変形する。片手から三本ずつ、計六本の矢がルベロめがけて勢いよく飛ぶ。
そのあまりの速さにルベロは避けられず、全ての矢がそれぞれの頭に命中する。
ルベロは地面に倒れ、動かなくなる。絶命したようだ。
なーにこれ、本当に俺必要ないんじゃないか?
「すごいな。こんなにあっさり」
「何言ってんの、こんなの中級魔法よ。ちょちょいのちょいよ」
そう言いつつも胸を張る。やはり褒められると嬉しいようだ。
「とは言ってもこれ以上数が増えると少しまずいわね。少し待ってくれるかしら。その間に魔石を取っておいて」
そういわれて俺は倒れたルベロに近づく。頭に刺さって水矢は既に消えている。
ルベロの額の中央がキラキラと光っている。これが魔石だ。それを短剣で取り出すと、ルベロは忽ち霧散した。黒い霧となり、その霧も直ぐに消えてなくなる。魔物は頭の魔石を抜き取られると、このように霧散するらしい。逆に、取り出さないと魔物の死体は残ったままになるらしい。これをミーナから聞いたときは御都合主義過ぎないかと少し疑っていたが、どうやら本当らしい。魔石は魔物の種類ごとに異なっているが、ルベロは黒い三角錐だ。もう一匹のルベロからも魔石を取り出す。
そしてそのミーナはというと、水魔法を使って先ほどと同じ少量の水を作り出していた。そして今度はそれを手から離して、身体の周りに漂わせている。そしてまた少量の水を作り、身体の周りに漂わせる。それを繰り返し、十個の水がミーナの周りを漂ている。
水が灯草の光に照らされて幻想的だ。凄いな、これが魔法か……。
「よし、これでストック完成。複数に襲われても大丈夫。さ、行きましょう」
そういってミーナは恐れることなく進んでいく。何度か数匹のルベロが現れたが、ミーナがストックしていた水魔法で文字通り瞬殺してしまう。使ってしまった漂う水は再び作ってストックする。
その間に俺は魔石を回収する。
そうして暫く進むと洞窟が急に広くなった。幅は十メートル以上ある。高さは……暗くて天井が見えない。
地面は相変わらず平らだが、所々で岩が突き出している。その岩はとても大きく、余裕で体が隠せてしまう。
「これだけ広いとかなりの数の魔物がいてもおかしくないわね」
まじか。俺は何も出来ないんだけど。大した戦力にはならないんだけど。不安だ。
思わずため息をつく。
「大丈夫よ。私がいるから」
俺の不安そうな顔をみてミーナがそういう。
何この子!かっこいいんですけど!
ミーナの横顔がすごくカッコよく見える。たくましく見える。頼りがいのある顔に見える。
そう思いながらミーナの後ろをついていく。
洞窟が広くなってから数十メートル歩いた、その時、
「やっと出たわね」と、ミーナ。
目の前に、二匹のルベロスと五匹のルベロが現れた。
ルベロスは聞いていた通りの見た目だが、実物を前にするとより大きく感じる。
あんなのを倒せるのか……?
こちらの不安を他所に、二匹のルベロがこちらに突進してくる。