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7 馬車にて

ベノージ村までは馬車で五時間ほどらしい。

昼には村に着いて、村の人に洞窟まで案内してもらってルベロスを討伐。時間が遅いようなら村に泊まり、翌朝街に帰るという予定だ。


そして今は馬車に揺られながらドブの森を通過中。

ミーナによるとあと一時間もかからないらしい。

馬車に乗ったのは初めてだが、中々に尻が痛くなる。途中何度か休憩を挟んだのだが……。

この世界には車のような乗り物はない。材料がないのだろうか。想像をしたものを生み出すチート転生者とかいそうなものだけど。


目の前では、ミーナが外を眺めている。

その横顔を改めて見る。以前は中の上か、上の下という評価をしたが、落ち着いてみると中々に可愛い。目がぱっちりしていて……。ていうか、今まであんまり意識してなかったけど、俺かなり女の子と仲良くしている気がする。地球にいた頃の俺なら……。


「なにジロジロ見てんのよ」


ミーナが俺の視線に気づいたのか不快そうな顔で言う。

仲良くやっているというのは俺の誤解なのかもしれない。


「え、いや。えーと、ルベロスってどれくらいの強さなの?」


慌てて質問を捻り出す。


「ルベロスはそんなに強くないわよ。大きさは二、三メートルくらいかしら。初めて見る時はその大きさと見た目にビビるかもしれないけど、ルベロを殺れるハルなら問題ないわ」


その言い方だとまるで最初からこのクエストを受けるのを決めていたようだな。だからルベロの魔石を売っていた俺に目星をつけたのか?まぁ今となっては関係ないことか。

そんなことを考えていると、ミーナが続けて喋る。


「物理耐性も高くないわ。あなたのダガーでも問題ないでしょう。ルベロスは魔法耐性を少し持ってるけど、私の使う魔法ならそんなの問題ないわね」


「ミーナってどんな魔法使うの?」


その言葉を聞いてミーナが立ち上がって胸を張る。

……ミーナの胸は地球での平均くらいの大きさか。


「ふふふ、よくぞ聞いてくれたわね!私!このミーナは!火と水の最上級魔法を操れるのよ!」


「へー凄いな」


取り敢えず凄いと言っておくが、どうしても棒読みになってしまう。転移してきたばかりの俺には最上級魔法の凄さなんて分からない。ただ、最上級って付いてるから凄いことに違いはないだろう。


「何!その反応!これだから転生者は。俺の方がすごい魔法使えるし、とか思ってるんでしょ!確かに瞬間移動は凄いけど、私だってまだ誰にも見せてない切札があるのよ!」


俺の反応が気に入らなかったのか、ミーナが怒り出す。


「いや、最上級魔法ってのがどれくらいの凄さなのか分からなくて」


さっきまで怒っていたミーナが唖然とする。

表情がよく変わる子だな。


「あんたホントになんなの?最上級魔法も知らないって……」


「えーと、まぁ色々と理由があってね、そう言った常識?のようなものは殆どないと思ってくれ」


ミーナは納得出来ない顔をしている。


「まぁいいわ。最上級魔法ってのは文字通り、一番上の最強の魔法よ。使える人はそうそういないわ。いくら努力しても使えない人も少なくないのよ。それをこの歳でマスターしてる私!凄いでしょ!機会があればあんたにも見せてあげるわ。まぁルベロス程度に使うことはないでしょうね。最上級魔法を使うならケルベロスくらいじゃないと!でもまぁケルベロスっていうのは……」


と、ミーナは早口で語っている。オタクかな?魔法オタクかな?

どうやらミーナはかなりの魔法使いらしいな。俺は何もしなくてもいいかもしれない。今回はただの社会見学になりそうだ。


まだ何かを語り続けているミーナに質問する。


「そんなに強いなら一人でクエスト受ければよかったんじゃないの?」


「何言ってるの?一人なんて危ないじゃない」


ミーナが再び「何言ってんだこいつ」という顔をする。


「いい?パーティを組むって言うのはね、戦力の足し算じゃないの。掛け算なのよ」


「ふむ」


「例えばね、あなたと私が組むとするでしょ?それは1+1で2の戦闘力にしかならない訳じゃないの。1×1で……」


「1だな。さっきより小さくなってるぞ。足の引っ張り合いかな?」


「……。例えばね、あなたと私が組むとするでしょ?それは2+2で4の戦闘力にしからならない訳じゃないの。2×2で……」


「4だな。さっきと変わりませんが?ミーナさん」


からかってやるとミーナが顔を赤くして怒る。


「うるさいわね!とにかくたった一人増えるだけですごく強くなるってことよ!戦略の幅も一気に広がるの!いくら私といえど、命の取り合いをする場所で慢心なんてしないわ!」


「はいはい、分かりました分かりました」


「ほんとに分かってるの!?」


下手な例えでイマイチ説得力にかけるが、言いたいことは分かる。一人から二人になることには大きな意味があるだろう。互いを背にして立てば、真上以外の死角は無くなる。それはミーナが言う命の取り合いをする場所では大きな意味を持つ。


「それで、あなたの能力を教えてくださるかしら、転生者様?瞬間移動が出来るっていう能力でいいのかしら?」


ミーナが質問してくる。ミーナが答えてくれた以上、俺も答えなければならないのだが。全て言ってしまっていいのか。今の俺の武器はこの能力しかない。その能力を正直に言ってしまうというのは手の内を全て明かすことになる。

ミーナがもし俺の能力を誰かに言って広まったりしたらと考えると……正直に言うべきではないな。


「そうだよ。瞬間移動だよ」


「それだけ?」


ミーナは疑っているようだ。


「それだけ」


ミーナの目を見て答える。その大きな紅い瞳がとても綺麗だ。


「そう。でもすごい能力よね。どこにでも行けるの?」


「一応どこにでも行けるかな。でも、遠い場所に移動すると頭が痛くなるかも」


最初にこの能力を使った(ルベロに襲われていた男の前に移動した)時と、昨日の夜ミーナに襲われた時では頭痛の程度に差があった。この二つの違いは止めていた時間の長さと移動距離だ。

止めいてた時間が長かったから頭痛が酷かったのか、もしくは移動距離が長かったから頭痛が酷かったのか。俺の勘では後者だ。


「回数制限は?」と、ミーナが次の質問をしてくる。


「無いよ。多分だけど」


それに答える。


更にミーナが質問する。


「触れている物とか人も一緒に移動できるの?」


「それは出来ないかも。ただ、服とか身につけてるものは一緒に移動できるみたい。多分だけど、能力が『装着』していると判断したものは一緒に移動するんじゃないかと思う」


と、昨晩寝ながら考えたことを言う。

まだ数回しか能力を使っていないので、予想の域からは出ないのだが。


「へー。器用な能力ね。流石は転生者様」


「そうかな。実際は頭痛が酷いからそんなに便利なものじゃないよ」


本当に酷い。あんな副作用があるならこの能力を選ばなかった。

と、マモンにまだ文句を言ってないことを思い出したところで、ベノージ村が見えてきた。


***


「あ、ミーナ、俺の能力のことは秘密にしておいてくれよ」


「なんで?そんなにすごい能力なのに自慢しないの?」


「なんででもだ。転生者ってばれると色々と面倒くさいんだよ」


と、ミーナに釘を指しておく。

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