6 クエスト
翌朝、朝一でギルドへと向かう。まだ日が昇り始めてすぐだというのに、ギルドには既に多くの人がいた。
そのほとんどは情報を収集している者や無駄話をしている者だった。
近頃、王都で物凄い能力をもった転生者が活躍しているだとか。
有名なSランク冒険者のパーティーが全滅したらいとか。
最近近くの森で冒険者が頻繁に行方不明になっているだとか。
俺の自慢の剣を見てくれよ。こいつをどう思う?と言って武器を自慢しているやつとか。
他にも朝食を食べている人はいるが、クエストを選んだりパーティメンバーを集めているような人はいなかった。
ミーナの言っていた通り期末だからなのだろう。
休みなら家でごろごろしとけばいいのに、わざわざここに集まるんだな。
ここで待ち合わせしているはずのミーナを探す。
「おーいハルー!こっちこっちー!」
ミーナが手を大きく振りながら俺を呼んでいる。
どうやら食事場で朝食を食べているようだ。
「おはよう、ハル」
「おはよう」
ミーナの向かいの席に座る。
彼女はハンバーグを食べている。
この世界の食事事情は地球のものとそこまで変わらないらしい。転生者が持ち込んだ知識が故なのだろうか。
「朝からハンバーグってきつくない?」
「何言ってんの?ちゃんと食べないと、クエストでいい働きができないわよ?」
「腹が減っては戦ができぬってやつだな」
「ん?何その言い方。ハルって変な人ね」
どうやらこの世界には諺は持ち込まれていないらしい。
「ほら、あんたも食べなさいよ。奢ってあげるわよ」
「まじ?ありがとう。でも、お金ないんじゃないの?」
「言ったでしょ。いざという時に動けないと意味がないの。それに、あなたに奢るくらいどうってことないわ」
この世界に来て、まともに食事をしていなかったので、嬉しい。
何を食べようか。味噌汁とかあるかな。俺は朝からガッツリは食べられないからな。
そう考えていると、ミーナが手を上げて店員を呼ぶ。
「すいませーん!この人にハンバーグ一つ!」
どうやら俺に選択権はなかったらしい。
***
「それで、どんなクエスト受けるの?俺まだEランクなんだけど、報酬がいいクエストとか受けられるの?」
熱々の鉄板に乗ったハンバーグが俺の前に置かれたところで、本題に入る。
「私がいれば受けられるわよ。どのランクまでのクエストを受けられるかは、パーティで最高ランクの人に依存してるわ。パーティにSランクがいればEランクの人でもSランククエストに行けるってわけね」
「それ危なくない?Eランクの人、死なない?」
「まぁ、死ぬでしょうね。実際はそんなことする人なんていないわよ。それに、もし低ランクの人が高ランククエストに着いて行って大怪我したら高ランクの人には罰があるのよ。だから普通は低ランクの人を連れていこうとしたりしないわ」
へー。そんな仕組みになってんだな。
地球のものと変わらない味のハンバーグを食べながら感心する。
うん、美味い。
「で、今回はBランクのルベロス狩りをやろうと思うの」
「ルベロスって?もしかしてルベロの強化版だったりする?」
転移初日に戦った犬型魔獣を思い出す。
「そうそう、ルベロより大きくて、頭と触手が二本ずつあるのよ」
「頭が二本って化け物みたいだな」
「みたいじゃなくて化け物よ。厳密には魔物って言うんだけど」
ミーナが二つ目のハンバーグを注文しながらそう答える。
こいつまだ食うのかよ。朝からハンバーグ二つはないわー。
「ね、ねぇ、魔物ってどこから湧いてんくるの?」
ミーナの食欲に引きつつも、気になっていたことをミーナに質問してみる。
「えっ、あんたそんなことも知らないの?いくら転生者と言えどこれくらいのことは子供の頃に習うでしょうに」
転生者はこの世界で零歳からやり直しているのだから、普通の人間と変わらないだけの知識がついているはずだ。ただ、前世の世界での常識や知識が混在するため、変なことをよく言うらしい。しかし俺は違う。ここに来てまだ数日なのだ。言わば、生まれたての赤ちゃんのようなもの。この世界のことを何も知らない。
「あー、俺の生まれた環境がちょっと特殊でね」
「ふーん。いいわ、後で色々教えたげる。先にクエストの話しね」
どうやらミーナが俺の親のようなものになってくれるらしい。
常識、ゲットだぜ!
「それで、正確なクエスト内容はこれを見て」
ミーナはそう言って一枚の紙を渡してくる。そこにはクエストの詳細が書かれていた。
依頼主は、ここから西に進んでドブの森を抜けた先にあるベノージ村の村長。
内容は、次のようなものだった。
最近村にルベロが出没するようになり、村人で原因を調査した。調査中、森の洞窟に入っていくルベロス数頭を目撃。これがルベロを生み出しており、村にまで溢れてきたと考えられる為、ルベロスを冒険者に退治して欲しいというものだ。正確には、ルベロス三頭以上の討伐が今回のクエストの達成条件だ。
報酬は5万zで、魔物が落とした魔石は冒険者が全て持ち帰ってよい。
「なるほどなるほど、確認したよ」
「このクエストでいい?質問は?」
「特にはないかな」
「よし、早く食べていくわよ」
そう言って、ミーナは残っていたハンバーグをぺろりと平らげた。
俺より後に食べ始めたのに、食べ終わるのは俺と同時だった。