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2 能力

突如、顔に冷たいものを感じて目を覚ます。


黒い世界にいた。暗闇に目が慣れてくると洞窟の中に放り出されたことに気が付く。

どうしてこんな所にいるんだっけ……。



***



「必要最低限の物は差し上げますね。最初は近くの町を目指して情報を集めるといいでしょう」


「あなた方悪魔と連絡を取る方法はあるんですか?」


「あなたが心から私たちを信仰して祈りを捧げれば、少なからず寵愛を与えることができるでしょう」


「あ、はい」


なんだこの悪魔。天使の真似かな?


これが最後にマモンとした会話だった。



***



「あぁ、転移したのか」


上から水滴が垂れてくる。

先ほどからこの冷たい水滴によって何度か身体が濡らされている。

これ以上濡れるのはごめんなので外に出る。


そこは森だった。

近くに危険はなさそうなので、マモンから貰ったらしい袋を開く。


さてさて、初期装備は……と。

短剣。以上。


「なんだよこれぇ!」


短剣を投げ捨てる。


あいつは人をおちょくってんのか?それとも馬鹿なのか?

こういう時は普通、武器の他にもお金とか食べ物とか地図とかそこら辺の物を入れるだろ!

あいつにとっての必要最低限のものは短剣オンリーらしい。

と文句を言っても、短剣も大切な武器なので大切にしまう。


「次は……」


超能力を使ってみよう。


……どうやって使うんだ?

うーむ。


「時よ、止まれ!」


バッと右手を前に出して叫ぶ。声が響き渡り、遠くで鳥が飛ぶ。時間は止まらない。なんか恥ずかしいな。


うーん、どうすればいいんだ。今度は、意識を集中してみる。この世の全てが停止する。ありとあらゆるものが息を止める。、森羅万象が時間の概念を忘れる。

そんな世界を創造する。


次の瞬間、時間が止まった。


(すごいな。)


声を出そうとして出ないことに気づく。空気も停止しているから音がしないのか?

そして自分が浮いていることに気づく。下には動きを止めた自分がいる。停止した世界を想像している自分だ。

なるほど。時間停止中は幽体離脱した感じになるのか。


自分の置かれた状況を理解する。すごいなこれ、自由に動き回れる。空を飛ぶとはこんな感じなのか。

地面から離れ高い所まで上ると、遠くに街が見える。あそこまで行ってみるか。そういえば、後で時間遡行も試さないとな。


***


……なんだあれ。


街に向かう途中、三匹の犬らしき動物に囲まれた一人の男と馬車が視界に入る。

もしかして襲われてる?少し降りてみるか。

近くまで行くと、犬らしき動物はやはり犬のような動物だったと分かる。犬と言っても骨格がそうなだけで、全身黒色で毛が生えていない。筋肉むき出しのようなやつ。

さらに犬と違うのは、背中から長さ1メートルの触覚のようなものが生えていることと目に瞳がなく眼球が真っ赤なところか。


どうやら男は犬に襲われているらしい。


そしてこの世界は魔獣もいるらしい。

神が転生者を送り込むくらいだから魔王とかいそう。あれ、この場合魔王は悪魔陣営になるのか?だとすると味方か。なんか複雑な気分だな。


それは置いといて、これは所謂チュートリアルですね。

自分の能力を把握するイベントですね。

それに、この男に恩を売ってお金をいくらか貰いましょう。そうしましょう。


そう思い、男を魔獣から庇うようにして立つ。

あとは時間停止を解除して、男を守るようにしながら能力を使って魔獣を倒していく。

よし、イメージは完璧だ。やるぞ。



――停止解除――



次の瞬間。頭を鈍器で殴られたような感覚がした。痛みはない。ただ脳が揺れる。揺れる、ひたすら揺れる。頭に血が上り、視界が歪む。平衡感覚が失われ、思わず膝をつく。


「は……え……?」


後ろから男の困惑した声が聞こえる。

当然だな。魔獣に襲われてたら、急に目の前に人が現れ、助けてくれるわけでもなくただふらついているだけ。


なんだよこの頭痛は……。

まだ脳の揺れが収まらない。立ち上がることすらままならない。

しゃがんでいるのが精一杯。気を抜けば失神してしまいそうだ。


魔獣の唸り声が聞こえる。


あ、やばい、このままだと襲われる。


そう思ったのと同時に三匹の魔獣が一斉に飛びかかってきた。

まずい、一旦時間を停止しないと!



――時間停止――



停止すると同時に頭の揺れは治まった。


俺の体は丁度犬の爪で引き裂かれる直前だった。


助かった。助かったけども……。


なんだよこの能力!副作用が半端ないんですけど!

何が原因だ。

停止中に移動しすぎたか?

それとも停止時間が長すぎ?

そもそも能力を使ったから?


というか、こんな事マモンから渡された紙には書いて――


そういえば、あの能力が書いた紙、下の方に破かれた跡があったな。

さてはあいつ、この副作用のこと隠してたな?

でも何故だ?もしかして少しからかったから?

だとしたらあいつ悪魔だな。いや、悪魔だけど。


それよりこの状況どうする。時間遡行するか?

いや、これ以上副作用が酷くなる可能性があるからダメだ。巻き戻すとその時間が経過するまで遡行できなくなる制約もあるし。

このまま戦うか?それとも逃げるか?

戦う場合、瞬殺されない限り死ぬことは無い。負けそうになれば時間を止めて遡行すればいい。それは最終手段だが。

じゃあ、逃げたら?この男は死ぬな。助ける義理もないけど、それは良心が咎める。


殺す(やる)か。


俺の体に襲いかかっている犬の後ろに立ち、あの副作用に備えて踏ん張る。



――停止解除――



目の前の魔獣が、襲いかかる目標を失って互いにぶつかった。

三匹の魔獣が崩れ落ちる。それと同時に副作用がくる。

しかし、来るとわかっていれば耐えられないほどでもない。


「ぐっ……!」


息を荒らげ、顔を歪めながらも短剣を取り出す。


地面に倒れている魔獣の頭に刃を振り下ろして抉る。

魔獣は呻き声を上げるが直ぐに動かなくなった。


一匹仕留めた。


頭から刃を抜く。

この間にも激しい頭痛が続く。


残りの魔獣は漸く体勢を立て直す。


――このままもう一匹仕留める!


右側の魔獣の横腹に刃を刺しこみ、尻に向かって引き裂く。

切り裂かれた横腹から大量の血が噴き出し、臓物が零れ落ちる。

腹を切り裂かれた魔獣は強烈な叫び声をあげる。


(頭が熱い、血が上る、気持ちが悪い)


――あと一匹。


残りの魔獣が走り込んでくる。短剣を構えようとするが、先程の魔獣に深く刺さりすぎたのか、なかなか抜けない。

目の前まで来た魔獣は俺に向かって飛びかかってくる。


やばい、避けないと!横に飛ぼうとするが、平衡感覚がないせいか上手く飛べずに地面に倒れる。


まずい!もう一度停止を……


ドスッ


魔獣の横腹に槍が突き刺さる。

魔獣は少しの間苦しんだ後、ピクリとも動かなくなった。


「だ、大丈夫ですか?」


槍を持った男が俺に手を伸ばす。


その手を借りようとするが、空間が歪んで見えるせいか上手く掴めない。意識も遠のいてきた。


「あ、あの……転……者さま……」


男の声も聞き取れなくなってきた。


はは、助けようとした男に助けられるとは。これ如何に。



俺は意識を失った。


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