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1 転移

突如、顔に冷たいものを感じて目を覚ます。


白い世界にいた。

地面は無いように見えるが浮遊感もない。そこに固定されている感じ。


「どこだここ」


意識がはっきりしてくると身体が濡れていることに気づく。

周りに薄黄色の水たまりができている。

さっきの冷たい感じは水でもかけられたのか。

でも黄色いし……


「あ、やっと起きました?」


声がしたほうに目をやると、そこに白い服を着た女が立っていた。あの服は古代ギリシアの人が着ていたキトンってやつだ。

艶のある長い髪は黒く、瞳は赤かった。


「ハルさん、起きるの遅いんですよー。それじゃ話を始めましょうか」


そういって手に持っていた某レモン炭酸飲料のペットボトルを投げ捨てた。この黄色い水たまりはどうやらジュースをかけられたものらしい。

なんだ、ただのジュースか。


その女は語り出す。


「あなたには今から異世界へ行ってもらいます。大丈夫、怖がらないで。突然のことで不安になっていることでしょう。しかしいつ何があろうとも私たち神はあなたの味方。我らを崇めなさい。特にこの私、マモンを崇拝しなs――」


「異世界転生ですね」


マモンと名乗った女の熱弁を遮る。横目で睨まれた。

ていうかマモンって悪魔じゃなかったっけ。

マモンはやれやれといった感じで話始める。


「さすが地球出身の方は話が早い。そうです。異世界転生です。そして今から特別な能力を選んでもらいます。正直なところ、この異世界転生する前のチート能力を得る件も見飽きたと思いますから、話が早いのは助かります」


「は、はぁ。それより聞きたいんですけど、マモンって悪魔ですよね?」


その言葉にマモンはピクッと反応したかと思うと、引きつった笑顔で答えた。


「……ちょっと何のことかわかりません。早くそこにある本からチート能力を一つ選んでください」


「いくら何でも悪魔は信仰出来ないんですが」


「チッ……」


あ、あいつ今舌打ちしやがった。やっぱり悪魔なのか。


「どっちにしてもあなたは今能力を得る他ないんですから、早く選んでくださぁい」


マモンは苛立っているようで、腕を組んで足の先を上下させている。これ以上怒らせるとやばそうなので能力を選ぶことにする。

何故このにいるのかという疑問は不思議と浮かんでこない。俺が今ここにいることは当然であり、使命であり、運命であるかのように思えた。


先程マモンが指さした本を手に取る。

辞書並みに分厚い本。パラパラめくると様々な能力が箇条書きで書かれている。

生産系、魔術系、武術系、超能力系、魔眼系、剣技、槍、斧…。

さらにそこから細分化されてこの厚い本一冊丸々チートスキルが載っている。各能力の使い方の説明も詳しく書かれているようで、この厚さになるのも納得する。


……。


「多すぎるわ!」


本を投げ捨てる。


「あ!投げましたね!?魔界でも超高級品の異能一覧辞典を!傷がついたらどうしてくれるんですか?!」


「おま、今魔界って言ったな!やっぱり悪魔じゃないか!」


マモンが手で口を隠し、しまったという顔をする。


「もうどれでもいいんで、オススメの能力でお願いします」


自分で選ぶのも面倒なので任せることにした。


「オススメって……。あ、そうだ」と、マモンがニヤっとする。


服の中から一枚の紙を出し、俺に渡してきた。


「あなたは私の正体が見破ることができましたから、特別にこの能力を上げましょう」





超能力系-時空間操作

・任意のタイミングで時間停止可能。

・時間停止中は空間を自由に移動可能。但し、自分以外の物には干渉不可。

・時間停止中は最大一日まで時間遡行が可能。未来への時間順行は不可。但し、時間停止を解除する前に限り、遡行した分の順行は可能。

・時間遡行を行った場合、遡行分の時間が過ぎるまでは時間遡行は行えない。

-------------------------------------------------



その下は不自然に破られた跡がある。


「これ、なんか破られてません?」


「あ、それは気にするほどのことではないですよ」


マモンが目を逸らす。

怪しい。何か隠してる気がするが、まあいいだろう。

次の質問をする。


「この上から四つめの文はどういう意味ですか?」


「例えば、十時間の時間遡行を行った場合、そこから十時間が経過するまでは時間遡行を行えません。この制約がないといくらでも時間を巻き戻せてしまいますからね」


「なるほど」


この能力、十分強い気がするし、いい気がする。他のを選ぶのも面倒だし。


「この能力でお願いします」


「ほんとですか!いやー助かります」


助かる?早めに能力が決まったことがだろうか。

これだけ選択肢があれば普通は決めるのに時間がかかるだろうな。


俺のテキトーな性格が珍しく幸いしたな。


「ところで、今から行く世界はどんな世界なんですか?目的とかは?そこで何をすればいいんですか」


「そうですよね。そこが気になるのは当然なことです。犬が歩けば棒に当たるくらい当然なことです。あれこれやろうと計画を立てていたのに、いざ休日になると一日中寝て過ごしてしまうくらい自然なことです」


マモンがうんうんと頷いている。


「いや、その諺の意味違いますし、その例えは分かりにくいです」


犬も歩けば棒に当たるは、余計なことはするなって意味だった気がする。

間違いを指摘されたマモンが顔を赤くしている。


「私たちの世界ではこれが正しい使い方なんですよ!」


マモンがブツブツと文句を言っている。


「世界については詳しくは自分で見てきてください。それと異世界『転生』じゃなくて、異世界『転移』なので悪しからず。そして、あなたには転生者を殺してもらいます」


今こいつ人殺しをしろっていった?


「この悪魔!」


さっきマモンが投げ捨てていたペットボトルを拾って投げつける。


「ちょ、止めて!最後まで聞いてください!」


マモンは投げつけられたペットボトルから顔を守るように、腕で顔を覆う。腕に隠されたその顔は涙目になっていたように見えた。この悪魔、感情がコロコロ変わるようだ。


そんなことより今は自分のことだ。


「その世界は人を殺しても犯罪にならない殺伐とした所なのか?殺すのは転生者なの?転移者じゃなくて?何で転生者を殺さないといけないんだ?」


マモンにありったけの質問を投げつける。


「ちょっと待ってください!いきなりそんなに質問されても困ります。順を追って説明していきましょう。まず、あなたが今から転移する世界について。その世界では、神と悪魔が世界の支配権を巡って間接的に争っているのです」


「直接争っている訳では無いのか?」


「えぇ。神の力は人間の神に対する信仰力に比例して増し、悪魔の力は人間の悪魔に対する恐怖心に比例して増します。我々悪魔はその姿と力を人間に見せつけるだけで恐怖心を植え付けることが出来ます。一方で神に対する信仰心は、神が人間の前に姿を現すだけでは増しません。人間は形が見えないものにこそ信仰をするのです。だから神は転生者を神の遣いとして遣わせ、我々悪魔を倒すことで人間の信仰を集めているのです」


なるほど。悪魔はその転生者と戦うから神と『間接的に』戦っているという事になるのか。


「それで?何で俺がその世界に転移しないといけないんだ?」


「最近は転生者が物凄く増えましてね。そして皆チート能力持ちときた。しかも、その世界の人間を仲間にしてチート能力を分け与える人までいるんですよ!そのせいで悪魔陣営はかなりピンチでして。だから、転生者をやっつけて欲しいんですよ」


「悪魔には転生者を倒すだけの力はないのか?」


「あるにはあるんですが、悪魔が転生者を殺したとなると目立ってしまうでしょ?そうなると転生者達が一致団結して悪魔を討伐しに来るんですよ。怖いですよー、アイツらの殺意に充ちた目付きは。実際、転生者たちに殺されかけた悪魔は現在ノイローゼで療養中です。だから、あなたに転生者討伐を任せたいのです。ただの人間であるならそこまで目立つことは無いでしょう。たぶん。」


「でも、人殺しはちょっと……」


「大丈夫です。転生者の中にも悪い奴らがたまーにいるんです。自分の持つチート能力で悪事を働く人が、そういう人を優先的にやって行きましょう!それなら罪悪感はないでしょ?」


「そうかもしれないけど……。俺以外の転移者は何やってんの?」


「いえ、今から送る世界はあなたが最初の転移者です」


「なるほど。転生者の見極め方は?」


「強くて目立っているので直ぐに分かります」


「テキトー過ぎませんか?」


「そんなことないですよ。行ってみれば直ぐに分かると思います」


「そんなもんですか」


「そんなもんですよ」


そういえば何故転移者として俺が選ばれたのか聞いてない。


「あの、なんで俺が最初の転移者として選ばれたんですか?」


「詳しくは言えませんが、悪魔のトップの方々が決められたとだけ」


マモンはニッコリと笑った。


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