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06:ピストルを突きつけられたと思ったら、どうやら僕は対人恐怖症だということが判明した、お話

「やめて!」


北海道の田舎にあるさびれた牧場に似つかわしくない、ぴかぴかに磨かれた黒いセダンから、こっちは違和感のない強面こわもてな連中が降りてきた。


都合で3人。


連中は鍵をかけていたドアを蹴破ると、ズカズカと家に入って来て、寝ていたのを物音を聞きつけて何事かと起きて来たママとお姉ちゃんを羽交い絞めにしたのだ。


「ママとお姉ちゃんを放して!」


「そうはいかねぇな、あんた等は何千万という借金のかたなんだ」


「恨むなら、借金をして死んじまったお前の親父を恨みな」


「それと、運のなさをな」


まったく、連中の言う通りだった。

運がなかった。


何千万円という借金をして牝馬に種付けをしたのに、その牝馬が仔馬を孕んだまま死んでしまったのだ。


おかげで牧場に残ったのは借金だけだ。


牧場を潰したくなかったお父さんの気持ちは分かる。

起死回生の賭けに出てしまったのも仕方ないと思う。


けど。

けど!


借金をヤクザからするだなんて!


「このチビはどーします?」


連中の1人が舐めるみたいにわたしを見る。

ゾッとした。


「決まってる、逃がすな」


わたしは逃げようとしたのだけど、遅かった。

手首を掴まれてしまったのだ。


「放せ!」


暴れるけど


「うっとおしい!」


パン! と容赦なく頬をはたかれた。


衝撃に意識が飛ぶ。

膝から力が抜けて、掴まれた手首を持ち上げられたみたいな体勢になる。


もがが! と口許を塞がれたママとお姉ちゃんの悲鳴が聞こえて、わたしは飛びかけた意識を引き留めた。


「行くぞ!」


わたしは引きずられるようにして連れ出された。


「可哀そうにな、お前等はこれからロシアの変態野郎に売られる。これから地獄で、天国のような思いを味わうことになるだろうぜ」


ヘヘヘ、と嫌らしく男が笑う。


「こんなことして、警察が黙ってないわよ!」


頭を振って、口元を塞いでいた男の手の平を振り払ったお姉ちゃんが叫ぶけど、連中は薄ら笑うだけだった。


「ケーサツね」


「この国で行方不明の人間が幾らぐらい出ると思う? 年に10万人ちかくだぜ?」


「それを踏まえて、だ。北海道で牧場経営に失敗した家族が蒸発したところで、警察が本腰入れて捜索すると思うか?」


「そもそもケーサツは、俺らのお仲間だしな」


わたしは絶望した。


壊された玄関ドアから外へ連れ出されて、エンジンのかけられたままのセダンに乗せられ……そうになったところで


「わああああああああああ!」


そんな悲鳴が聞こえたのだ。


空から!



「わああああああああああ!」


墜落……もとい降下したペガが ドガン! と轟音をさせて黒塗りのセダンの屋根を蹴った。


「ブルヒン」

『目測誤っちゃった』


テヘペロといった感じでペガが言う。


ペガが地面に降り立って、僕は馬上からヘナヘナと転がり落ちた。

したたかに背中を打って、悶絶する。


そんな僕を見下ろす人影があった。


家から漏れる灯かりで、うっすらと相手の様子が分かる。

アジア人の男女が3人ずつだ。


僕は咳き込みながらも、どうにかこうにか立ち上がった。


車を壊してしまって、すみません。


そう謝ろうとしたのだけど。

あれ? どうしたのだろう、声が出なかった。喉に詰まったみたいに、声が出ないのだ。


加えて、相手の顔を見ることも出来ない。


何だコレ?


内心で動揺する。

ドキドキと心臓が痛いほどに脈打っていた。


汗がダラダラと垂れる。

それこそ頭から水をかぶったように。


「お前、なんなんだ?!」


きつい調子の声だった。


日本語。

だとすると、ココは日本なのか?


僕はおずおずと顔を上げて、相手を覗き見た。


「はぁ?」


と声に出さずに思った。


ピストルが見えたのだ。

警察がもってるような代物じゃなくて、自動拳銃とかいわれるような奴だ。


日本じゃないのか?


疑問に思ううちにも


「おい! この馬…」


「羽があるぞ?」


「空から降りてきたよな?」


男たちの話す日本語が聞こえる。


「マジかよ…」


「ペガサスって奴か?」


「おい、お前等。この馬、高く売れると思わねーか」


押し黙る。

声が聞こえなくなる。


「この男はどーするよ?」


っちまおーぜ」


不穏な遣り取りがされた直後だった。


「ヒヒーーーン!」


ペガがいなないて


ゲヘ! ゴハ! という男たちの息を詰めるような声が耳に届いた。


顔を伏せていたのでしかとは分からないけど、ペガが前脚と頭突きで攻撃したらしい。


「この!」


男が怒声をあげるのと


「銃を捨てなさい!」


女性の声がしたのがほとんど同時だった。


勇気を振り絞って目を上げる。


「!」


如何にもヤクザといった風体の男がペガにピストルを向けて、その男に女性がピストルを向けていた。


どーなってんだ?


女性の背後には、女の子が2人。それぞれ小学生の高学年と、高校生ぐらいだろうか?


「わかった」


男はピストルを放り捨てた。


「失神してる連中をつれて、さっさと出て行って!」


男は憎々し気に女性と僕を見たけど、言われるままに倒れた2人を天井が破壊されたセダンに引きずり込んで、去っていった。


そのあいだ、女性はピストルをずっと向けていたし。

僕はといえば、身じろぎもできずに突っ立っていた。


分かってしまったことがある。

僕はどうやら。


対人恐怖症みたいだ。


40歳、無職。

記憶喪失で、対人恐怖症。


なるほど。

詰んでるな、これ。


「ブヒン」


慰めるみたいにペガが鳴いた。

切りが良いので、ココまで

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