05:地球に死に戻ったら、創造魔法でペガサスをつくりだした、お話
「ぐぅああああああああ!」
七転八倒の苦しみで僕は目を覚ました。
「う、げえ」
四つん這いになって、吐く。
けれど胃の中には何もないのか、出るのはサラサラとした黄色い胃液ばかりだ。
目が回る。
全身の細胞が悲鳴を上がているかのように苦しい。
しばらくのあいだ、僕は動けなかった。
動けないままに、何があったのかを思い出す。
僕は……コボルトの小屋で眠っていた。
すると、夜中にチクリとした痛みがあって目を覚ましたのだ。
「蛇」
がいた。銀色の蛇が、僕の足首に噛みついていた。
それからはあっという間だった。
全身から力が抜けて、心臓が異常な速度で鼓動を打ち始めたのだ。
毒があったのだろう。
僕は呼吸が出来なくなって、もがき苦しんで死んだ。
死んだはず。
なら、ここにいる僕は何なんだ?
転生?
また生き返ったのか?
僕は座り込んで、呆然と夜空を見上げた。
月がひとつ、輝いている。
異世界には2つのお月様があった。
もしかして、ここは地球なのか?
「戻ってきた? それとも、またしても異世界なのか?」
ふと、何かに呼ばれたような気がして背後を振り返る。
そこには木があった。
見覚えのある貧相な木。
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世界樹
魔力が足りずに立ち枯れるのを待つばかりだったが、異世界人とパスが繋がったことによって魔力が大量に流れ込み、だいぶんに回復している。
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空中にそんな説明文が現れる。
「どうして世界樹が地球に?」
訳が分からない。
混乱しながらも僕は、世界樹の葉を千切ってスーツのポケットに入れた。
もしもの用心だ。
実際、異世界では世界樹の葉のおかげで助かっている。
立ち上がる。
僕はまたしても森の中にいた。
ここは小高い丘の上。
シチュエーションは前回と同じだ。
「さて、どうするか」
2回目ともなれば慣れたもので、慌てるようなこともない。
「とりあえず、朝になるまで寝るか」
僕は再び横になった。
森のなかで夜を過ごすだなんて、異世界に行く前の僕だったらまんじりとも出来やしなかったろう。
けど、僕は自分で言うのもなんだけどタフになった。
なんせラズゥとかいう化け物に殺されそうになっているのだ。
きっと熊がでてきたところで、あんまり驚かないと思う。
まぁ。驚かないというだけで、フツーに死んでしまうだろうけど…。
「いて座、いるか座、さそり座、夏の大三角」
夜空の星々を眺めながら、どうやら本当にここは地球だと確信する。
知識にある星座があるのだ。
寝るかと言いながらも、さっぱり眠れない。
死んで、黄泉返った直後なのだ。
興奮しているらしかった。
「そういえば僕はアレを試していないことを思いだした」
アレ、とは。つまりステータス。
僕は自分のステータスを見てないのだ。
向こうの世界では余裕がなくてそれどころじゃあなかった。
思いつくことさえなかった。
こうして地球に黄泉返って、心に余裕ができたからこそ思い立ったことだった。
「ステータス」
恥ずかしいのをこらえて、口に出せば
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ナーテンダ 【職業:無職】
種族:#@¥%
性別:♂
年齢:40
レベル: 1
HP : 35/45
MP : ∞
こうげき:10
ぼうぎょ: 2
ちから : 15
すばやさ : 5
きようさ : 10
かしこさ : 50
せいしん : 20
こううん : 1~∞
かっこよさ: 5
スキル:死に返り
鑑定
全属性魔法の才覚
創造魔法 ポイント:456
装備:ボロのスーツ
状態:
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「ほほぉ」
名前はあっちの世界でつけた通りか。
そして40歳。
まぁ、そんなものだろう。
そっちはさしてショックじゃない。
ショックだったのは
「無職か…」
40歳で無職。
地味に効く。
種族がバグっているのは今更だ。
死んでも生き返るのだから、吸血鬼かとも思ったのだけど、違うみたいだ。
そして、思うのは。
「弱いな」
ということだ。
MPが無限というのは凄そうだけど、今のところは魔法を使えないのだから無用の長物でしかない。
リーリのステータスはどれぐらいだったか?
おぼろげにしか憶えてないけど、あの小さなコボルトよりも僕は弱いんじゃなかろうか?
あの熊と蜘蛛をかけあわせた化け物を追い払えたのは全くの偶然だというのを改めて認識した。
おそらくステータスの『こううん』。1~∞とあるけど、これの値がたまたま高かったんだろう。
とはいえ40歳。中年のメタボ体型ならば、数値はこんなものかな?
だけど光明はある。
スキルに全属性魔法の才覚というのがあるじゃないか!
これはつまり、僕は魔法が使えるということだ。
「魔法、魔法…か。どうやって使うんだ?」
国民的RPGの炎系初級魔法を唱えてみるけど、まったく反応がない。
「こりゃ駄目だ」
ということで、僕は次なる希望である『創造魔法』を試してみることにした。
こっちはスキルにあるのだから、使うことも可能……だと思う。
ちなみに僕はショートケーキのイチゴは最後に食べる派。
楽しみは最後にとっておくタイプ……な感じがする。
「なにやらポイントとかあるけど、ま、とりあえず唱えてみるか」
え~と
「クリエーション」
=ようこそ、おいでくださいました。どのようなモノをおノゾみですか?=
淡々とした合成音声めいたものが頭の中に聞こえた。
「説明はしてもらえるのかな?」
しばらく待ったけど返事はない。
どうやら取説なしで手探りしなければならないみたいだ。
「う~ん」
僕は思案して
「足が欲しいな」
と口にした。
移動手段だ。
山のなかだから車は無理か。だとしたら…バイク? もしくは馬?
途端。
=リョウカイしました。ゲンザイのポイントでのセンタクカノウなコウホはツギのとおりになります=
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1ポイント : 馬・ポニー・ラクダ・象・キリン・サイ etc
自動車・バイク・自転車・飛行機・ヘリコプター etc
100ポイント: ペガサス・ユニコーン・ワイバーン・グルフォン・ケルベロス etc
ホバーボード・タケ〇プター etc
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空中にウィンドウが現れた。
「ペガサスだ?」
驚きの声が思わず口をついてしまう。
=リョウカイしました。ポイント100を使用してペガサスをソウゾウします=
「え?」
と思う間にも、表示が消えて、目の前にキラキラと光が集まった。
ゆっくりと光が形をつくる。
息を呑みながら見守る僕の前で、それは出来上がった。
「ペガサス…」
そう、それは物語に出てくるペガサスだった。
夜の中でほのかに輝くほどの白い馬体をした、しかし広やかな翼をもった、幻想生物。
カッポ、カッポ、とペガサスが近づく。
僕は後退ってしまった。
馬……というよりもペガサスは、存外に大きいのだ。
それでも歩幅の違いから距離を詰められてしまって
「ぶるる」
ペガサスが鼻面を僕の肩にこすりつけた。
瞬間のことだ。
『名前を付けて』
声が頭の中に聞こえた。
ペガサスの思っていることだと分かる。
「名前? ペガサスだから……ペガはどうかな?」
どうやら僕のネーミングセンスはゼロらしい。
『ペガ』
ペガサスが嬉し気に「ぶるる」と鳴いて
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ペガ
種族:天馬
性別:♀
年齢:1
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という表示が出た。
=ただイマをもって、ウツシヨにゲンソウセイブツをテイチャクしました=
創造魔法が途切れるのが感覚で分かった。
ペガが再び僕に鼻面をこすりつける。
『乗って、乗って! いっしょに走ろう!』
ペガの幼い声が伝わる。
「わかった、わかったから」
僕は苦笑して、ひざを折ったペガの背中に四苦八苦しながらよじ登った。
ペガが立ち上がる。
「おわ!」
高い!
恐怖でペガの首に縋りついてしまう。
「ちょ、ちょっと…」
待って!
という言葉は
「ヒヒーーーーーン」
ペガの興奮したいななきに掻き消えた。
パカパカとペガが走って、ふと揺れがなくなった。
代わりに風が吹きつける。
そーーーっと薄目を開けて
「!」
息を呑んだ。
空を飛んでいるのだ。
森が見下ろせるほどの高度を、ペガは滑るように飛んでいた。
風を切って、天馬が空を駆ける。
「すげえええ!」
僕は10代のようにはしゃいだ。
星空が手を伸ばせば届きそうなほどに近い。
とはいえ、落ちるのが恐いので実際には手を離したりはしないけども。
「いったいココは何処なんだ?」
見渡す限りの森と山なのだ。
と。
遥かな先に光が見えた。
人工の灯かりだ。
「ペガ」
以心伝心。僕がすべてを口にするまでもなく、伝わる。
「ヒヒーーーン」
『おまかせ!』
ペガが降下しながらスピードを増す。
「うわあああああ!」
まるで墜落しているような感覚だった。
落ちる落ちる、森が、地面が、グングンと近づく!
「ヒヒーーーン」
『最ッ高!』
高ぶったペガの思いが僕に伝わった。