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01:記憶を失って異世界に転移したら、化け物に襲われるコボルトを助けることになった、お話

ハッとして目が覚めた。


「あああああああああ!」


七転八倒しながら、叫んで顔にあるはずの土を払う。


息!

呼吸!


そこらじゅうを転がりまわっていた僕は、振り回していた手を固い何かにぶつけて、飛び起きた。


あいつ等だと思ったのだ!


けど、そこにあったのは弱弱しい木だった。

太さは僕の腕ぐらい。

高さも僕の身長よりも低い。

葉っぱも数枚しかない。


ホッとして警戒を解く。


そうして気がついた。


土のなかじゃないことに。

生きていることに。


僕は生き埋めにされたんじゃ?

土が体にかぶさる感触が思い出される。

ドサリ、ドサリ、という重い音が聞こえる。


「痛っ!」


ひどく頭が痛んだ。

脳味噌をかき混ぜられているかのようだ。


そういえば、あいつ等って?


誰かの顔が浮かびそうになると


「ぐぅ!」


頭痛に襲われた

それ以上に気分が悪くなった。


ハッ、ハハハ、ハッ


呼吸が乱れる。

嫌な汗が大量にでる。

ガクガクと冗談みたいに足が震える。


立っていられずに、僕はその場で大の字に寝転んで、呼吸を落ち着けることに集中した。


目を閉じて思うのは。

僕はどうやら記憶喪失になってしまたっという事実だ。


自分の名前すらも思い出せないのだ。


悪寒が引いたところで、目を開ける。


「え?」


僕は我が目を疑った。


「太陽が3つ?」


青い空に大中小の太陽が3つ浮かんでいるのだ。


「地球じゃないのか?」


僕は上体を起こすと、周囲を見回した。


ここは丘のような場所だった。

周囲は見渡す限りの森だ。


ずーと遠くの空に鳥のような蝙蝠のようなものが飛んでいる。


「ドラゴン…?」


季節は夏なのだろうか?

それとも太陽が3つもあるからなのか?

陽射しは暑いぐらいだ。


異世界、なんて言葉が浮かぶ。

誰だったか? 近しい間柄の女の子がよくネットの小説を見て口にしていた。


「異世界、転生」


と。


動揺する場面なのだろう。

けど、僕は逆に地球でないことに安心していた。


よっぽどに地球で嫌なことがあったのだろうか?


「よっこいしょ」


と僕は立ち上がった。


改めて自分を見る。


服はくたびれたスーツだ。

何故だか泥にまみれている。


そして、どうやら僕はおっさんらしかった。

泥だらけの肌には潤いがないし、お腹もぽっこり出ているのだ。

少なくとも少年とか青年ではないだろう。


もっとも若くないからといって動揺はない。

自分が相応の年齢だという自覚が深層意識であるんじゃないだろうか。


フッと。

本当になにげなく傍らに立つ貧相な木に目が留まった。


その瞬間だ。



**---------------------------------------**


世界樹


魔力マナが足りずに立ち枯れるのを待つばかりだったが、異世界人とパスが繋がったことによって魔力マナが大量に流れ込み、だいぶんに回復している。


**---------------------------------------**



そんな説明文が視界に浮かんだ。


「え?」


目をしばたたいても、説明文が消えない。


「どうなってるんだ?」


説明文に指を伸ばす。

すると、触れたところで説明文は掻き消えた。


「おう!」


思わず驚きの声が漏れてしまう。


もう1度、世界樹とやらに注目。

果たして、同じように説明文が表示された。



**---------------------------------------**


世界樹


魔力マナが足りずに立ち枯れるのを待つばかりだったが、異世界人とパスが繋がったことによって魔力マナが大量に流れ込み、だいぶんに回復している。


**---------------------------------------**



異世界人とパス?

まさか僕のことか?


よく分からない。


今度は指じゃなく、消えろと念じてみる。


「消えた…」


戸惑い。

思案し。

納得すると。


僕はニヤケてしまった。


「まるでテレビゲームだ」


テレビゲームで思い出す。

そういえば、某国民的RPGだと世界樹の葉は死人も生き返らせるほどの妙薬だった。


世界樹の葉を千切って、視線を集中する。



**---------------------------------------**


世界樹の葉


怪我どころか部位欠損をも癒やす神薬


**---------------------------------------**



「出た!」


説明文を読む。

さすがに死者を蘇生させることは不可能みたいだ。


感動しつつ、僕は世界樹の葉をポケットに入れた。


これで大怪我をしても安心だ。


「まぁ、怪我なんてしたくはないけど…」


大量に採らなかったのは、採り過ぎると光合成ができなくなって、世界樹が枯れてしまうと思ったのだ。

それほどに世界樹はヒョロヒョロだし、葉っぱも少なかった。


それに、あのRPGでも所持できるのは1枚だけだったはずだ。


「何はともあれ、水だな」


東のほうに蛇行するひと筋の川があるのは望見できていた。


僕は丘を降りると、川のある方向へと足を進めた。


森は鬱蒼としていた。

原生林というやつだろう、どう考えても人の手が入ってない。


苔むした地面を踏みしめて歩く。


苔ってのは滑るってのを初めて経験した。

しかも僕の履いているのは革靴だ。


油断するとズルリと大股開きになって転んでしまいそうになる。


おまけにココは十中八九で異世界。

どんな獣やモンスターが襲い掛かってくるかも分からない。

常に警戒を強いられた。


そんなだから、普通に歩くよりも遅々として進まない。


10分ほども歩いただろうか。


既に方向は狂ってしまっていた。

戻ろうにも、丘のある向きさえも覚束ない。


「というか…」


ゼハー、ゼハー、僕の呼吸はもう完璧に上がってしまっていた。


年齢もあるんだろうけど、なによりも運動不足が原因じゃなかろうか。

ポッコリお腹は運動をしている体じゃないからな。


座り込みたい欲望に駆られる。

けれど、1度でも腰を下ろしてしまったら、もう立ち上がれないという確信があった。


「まいった…」


ゼハー、ゼハー、息を荒げながらブー垂れる。


それでもへこたれずに1歩1歩と進んだおかげだ。

僕の耳に水の流れる涼やかな音が聞こえた。


「水! 水!」


喉がカラカラだった。


僕は最後の体力を振り絞って、小走りに音の聞こえる方向に向かった。


森から河原にまろび出る。

這うようにして川まで行くと、頭っから水の流れに突っ込んだ。


ゴクゴクと飲む。

途中で息継ぎを忘れて咳き込むほどに、僕は夢中で水を飲んだ。


「ぷはーー」


ひと息つけて、座り込む。


「これから、どうしようか?」


言葉にしてみるも、頭は真っ白だ。


そもそも僕にサバイバルの知識はない。

サバイバルどころか、キャンプもバーベキューもしたことがない…はずだ。

引きこもりというわけじゃなかったと思うけど、どうやら一緒に遊ぶ友達がいなかったみたいだ。


ボーとしていると。


ワォーーーー

グゥァァァ


2種類の獣の声が森から聞こえてきた。


ハッとして立ち上がる。


ワオーーーーン

グゥアアア


獣の声が近づいて来る。


「こっちに来てる…?」


僕は音をたてないようにソロソロと川へ後退した。

下半身を川の流れに浸けて、上半身だけを覗かせる。


ワオーーーーン!

グゥアアア!


唐突だった。

森から小さな塊が河原へと跳び出した。


犬? コリー?

僕ぐらいの年齢なら、世界名作劇場の名犬ラッシーでお馴染みだろう犬種だ。


そのコリーは服を着ていた。

そして驚いたことに剣を手にしていた。


そう! 剣を握っているのだ。


しかも2本足で立って、走っていた。



**---------------------------------------**


リーリ 【職業:亡国の姫】

種族:コボルト

性別:♀

年齢:15


レベル:  3

HP : 10/25

MP : 30


こうげき:20

ぼうぎょ: 5


ちから  :  3/ 5

すばやさ : 30/40

きようさ : 15/25

かしこさ : 20/25

せいしん : 30/30

こううん : 15

かっこよさ: 20/50


スキル:未来幻視


装備:なまくらの剣

   ボロの服


状態:飢え(HPおよび各ステータスの減少)

   疲労(HPおよび各ステータスの減少)

   怪我(HPおよび各ステータスの減少)


**---------------------------------------**



コボルト?

犬じゃないのか?


しかし、そんな驚きは次いで森から走り出た大きな塊を目にした途端に吹き飛んだ。


異様な生き物だった。

頭部は熊で体が蜘蛛なのだ。


全長は3メートルほどあるだろう。


「でかい…!」



**---------------------------------------**


アンノウン

種族:ラズゥ

性別:♀

年齢:45


レベル:   34

HP : 1080

MP :  160


こうげき:800

ぼうぎょ:600


ちから  : 650

すばやさ : 150

きようさ :  50

かしこさ :  80

せいしん : 120

こううん :  60

かっこよさ: 500


スキル:死の乱舞


**---------------------------------------**



その数値の高さは、コボルトと比べて圧倒的だった。


いいや、数値を見るまでもない。

僕は熊蜘蛛をみただけで震えが止まらなくなってしまっていた。


あれは。ハッキリと『死』が具現化した存在だった。


その熊蜘蛛はコリーを追いかけまわしていた。


熊蜘蛛が腕を振るってコリーを転がす。


コリーは面白いように河原をコロコロと転がった。


ところが熊蜘蛛はそれを見ているだけで追撃をしないのだ。


コリーが立ち上がって剣を向けたところで、再び腕を振るってコリーを空中たかく掬い投げた。


空高く飛ばされたコリーが落着して、痛みに「ギャン」と悲鳴を上げる。


熊蜘蛛は、その様子をジッと眺めている。


「もてあそんでるのか?」


捕食のための行動じゃない。


僕はいたぶられるコリーをただ見ているだけしかできなかった。


ふっと。

コリーと、見覚えのあるおぼろな少女の姿とが重なって見えた。


まどか…!」


僕の口をついて出たのは、人の名前だろうか?


パパ。


声が聞こえて、ズキンと頭がえぐられるみたいに痛んだ。


見る見るうちにコリーのHPが減っていく。

残りは2。


コリーはもはや立ち上がる気力すらないようだ。


熊蜘蛛がニイイイと笑う。

わらいやがった。


ゆっくりとコリーに近づいてゆく。


「わあああああああ!」


僕は我慢できずに立ち上がった。


熊蜘蛛が僕に注目する。


僕は石を拾って投げた。

山なりの軌道をえがいた石は、しかし熊蜘蛛に届くことなく落ちる。


腕力もそうだけど、野球をしたことがないんだろう。

体が思うように動かなかった。


ガアアアアアアアア!


邪魔をするなと言わんばかりに熊蜘蛛が吠えた。


立ちすくむ。

が。

漏らしはしない。


出すものは、川のなかでっくに出し尽くしてしるのだ。


「ん、の野郎!」


僕は駆けた。

コリーの落とした剣を拾って、構える。


熊蜘蛛との距離は5メートルほど。

目と鼻の距離だ。


熊蜘蛛が再び嗤った。

新しい玩具おもちゃを見つけたとでも思っているのだろう。


熊蜘蛛が腕を薙いだ。


距離はあったはずだ。

なのに、気づけば僕は吹き飛ばされていた。


剣で防げたのは、全くの偶然。


そうでなかれば、僕の上半身と下半身は泣き別れになっていたかもしれない。


河原を受け身もとれずに転がる。


それでも僕は剣を杖代わりにして立ち上がった。


頭の何処かが切れたらしい。

ひたいを伝ってポタポタと血がこぼれる。


「くっ」


気付けば、僕は笑ってしまっていた。


「くくくくくく」


転生して、記憶を失って。

こんなとこで死ぬのか。


「アハハハハハハハ!」


笑えるじゃないか!

こんな死に方を誰ができる!


ガアアアアアアアア!


熊蜘蛛が殺到する。


僕はなすすべもなく打ちのめされた。

まるっきりダンプに衝突されたようなものだ。


動けない。

手足が動かない。


そんな僕に向かって熊蜘蛛が大口を開けた。


夕焼けのような真っ赤な口腔こうこう

ズラリと並んだ黄色い歯と、野太い牙。


熊蜘蛛は僕の右脚に噛みついて。


ギャアアアアアアアア!


あられもない悲鳴をあげた。



**---------------------------------------**


アンノウン

種族:ラズゥ

性別:♀

年齢:45


レベル:   34

HP : 1050/1080

MP :  900/ 160


こうげき:800

ぼうぎょ:600


ちから  : 650

すばやさ : 150

きようさ :  50

かしこさ :  80

せいしん : 120

こううん :  60

かっこよさ: 500


スキル:死の乱舞


状態:魔力の摂取過多(魔力が平常値に戻るまで継続的にHPが減少)


**---------------------------------------**



熊蜘蛛のHPが減少している。


よく分からないが、僕の体なり血なりが毒になったんだろう。


「ざまぁ、みろ」


熊蜘蛛はタバスコでも飲んだみたいに口を抑えて、森のなかへとすっ飛んでいった。


とはいえ、助かったとは言えない。


僕もコリーも瀕死なのだ。


僕はコリーのもとへと這いずった。


コリーのHPは1。

このままだと死んでしまう。


だけど。


僕はポケットから世界樹の葉を取り出した。


コリーは気を失っていて、自力では咀嚼そしゃくできそうもない。

だから、まずは僕自らの口で噛んだ。


蜜のように甘かった。

ハーブ系のガムを噛んでいるような清涼感もある。


そのまま飲み込んでしまいたいという誘惑を断ち切って、僕は横たわるコリーに口づけすると、噛み砕いた世界樹の葉をコリーの口にふくませた。


世界樹の葉を噛んだからだろう、体がだいぶん楽になっている。


僕はコリーが世界樹の葉を吐き出さないように、鼻面をおさえた。


「んぐ」


とコリーが世界樹の葉を飲み込む。


すると、コボルトの体が淡く光った。



**---------------------------------------**


リーリ 【職業:亡国の姫】

種族:コボルト

性別:♀

年齢:15


レベル:  3

HP : 20/25

MP : 30


こうげき:20

ぼうぎょ: 5


ちから  :  3/ 5

すばやさ : 30/40

きようさ : 15/25

かしこさ : 20/25

せいしん : 30/30

こううん : 15

かっこよさ: 20/50


スキル:未来幻視


装備:ボロの服


状態:飢え(HPおよび各ステータスの減少)

   疲労(HPおよび各ステータスの減少)


**---------------------------------------**



HPが回復している。


効果はあったみたいだ。


それを確認すると。


「よか、った…」


ワァオオオオオン


という森からの声を耳にしながら、僕は気を失ったのだ。

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