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10:異聞の2.ハグレの魔術師ボリス・ウスチノフ

俺の名前はボリス・ウスチノフ。

母親は日本人。

父親はロシア人だ。


といっても母親の顔を俺はもう思い出せない。


1990年。

俺が8つの時に、父親は俺だけを連れてロシアの地へと海を渡ったからだ。


戦争をするために。


当時の祖国は2つに別れて争っていた。

ロマノフ家を筆頭としたロシアと、赤どものソ連だ。


父親はロマノフ家に仕える貴族で、俺はロシア兵として戦った。


こう話すと、日本人どもは「ホラだ」と笑う。

8歳の子供を戦力にするはずないだろ、と。


先の大戦で、早々に大陸から撤退して、アメリカを散々に蹴散らした国とはとても思えない。

しょせんは本国に爆撃を受けてない、平和ぼけした国ということか。


だが、本当なのだ。

ロシアは追い詰められていた。それこそ10歳に満たない子供といえども兵士として用いらなければならないほどに。

そんな窮状だったからこそ、父親は日本に支援を求めて、彼の地にいたのだ。


増して俺は魔術師の『血』を引いていた。

父親はロシアでも名の知れた魔術師だったのだ。


徹底的にロシア式の魔術を叩き込まれた俺は、戦力として申し分がなかった。

むしろ子供特有の残忍さで、敵味方を問わずに恐れられたほどだ。


とはいえ、俺は半端者だった。父親こそ魔術師だったが、母親は一般人だったのだろう。


魔術師は血で決まると言われるように、俺の能力は魔術師としては低能で、惜しむほどの人材ではなく、死んだらそれまでと思われていたのに違いない。

なにかと無謀な作戦に投入された。


12歳の時だ。

父親が死んだ。

俺が殺したのだ。


相も変わらずにロシアは劣勢で、相も変わらずに俺は綱渡りのような危険な作戦に投入されていた。


もう嫌だったのだ。


だから赤い連中と通じて、父親を殺した。


しかし、これは早まった行為だった。

父親を殺して3日後のことだ。アメリカと日本のロシアへの肩入れが決まった。


見る間にソ連の赤どもは祖国から駆逐された。


俺は反逆者だった。

ロシアの追跡をかわすために、地下に潜伏せざるをえなかった。


生きるためには何でもやった。

盗み、殺し、ケツの穴だって売った。


そうやって生き延びて、生き続けて。

100人ほどを殺したあたりからだろうか?

気付けば俺は、ハグレの魔術師として、暗殺者として、裏の世界でちょっとした顔になっていた。


これが悪かった。

名が知れたということは、追って連中にも嗅ぎつけられるということだ。


ねぐらにしていたニジニ・ノヴゴロドを離れなければならなくなった。


またしても俺は全てを失ったのだ。


時に俺は30歳。

再出発してゼロから築き上げるにはしんどい年齢だ。


それでも俺は死にたくなかった。

逃げて、逃げ続けた。


31歳。俺はウラジオストクに隠れていた。


そこで図らずも、ロシア魔術協会とアメリカ魔術学会との抗争を目撃するのだ。


連中は、とある奇跡を求めて争っていた。


その奇跡を『賢者の石』。

おのが物としたのなら体内の魔力マナを極限まで高めることができるという、魔術師なら誰もが垂涎する奇跡だ。


そう奇跡なのだ。

実際には、この世にない。

伝説上の代物。


だが、その伝説に執着した男がいた。


アドルフ・ヒトラー。


奴は、賢者の石を発見したのだ。


が。


大戦でドイツは負けた。

賢者の石も失われたはずだった。


その失われたはずの奇跡を、ロシア魔術協会とアメリカ魔術学会が求め争っていた。


そして俺だ。


俺はまったくの偶然から、その奇跡…賢者の石を手にしてしまった。

ハッキリ言えば…。

ロシアとアメリカの魔術師どもが共倒れて、棚ぼたで賢者の石が転がり込んできたのだ。


目の前には戦場もかくやの光景が広がっている。

俺なんて及びもつかない魔術師どもが全開全力でぶっ放したのだ。

建物は勿論、電車も車も燃えていた。


「う、うぅ…」


横転した車のなかから呻き声がした。


日本人の子供だ。

ロシア人の運転手と、後部座席に同乗していた日本人の男女は息をしてない。おそらく、この男女は子供の両親なんだろう。


子供は虫の息だ。


俺は賢者の石を日本人の子供に押し付けた。


実験。

自分の体で試す勇気はなかったのだ。


ヌルリと賢者の石が子供の体に吸い込まれる。


「本物だったか」


子供の大怪我がえていく。

体内から放出される魔力マナが治癒魔術となっているのだろう。


「ふふ」


俺は満足した。


これで魔術師どもは賢者の石を見失った。

子供は、そのうちに日本へと帰るだろう。


俺は、ゆうゆうと子供を追って、折をみて賢者の石を取り戻せばいいのだ。


そんな俺の目論見は見事に図に当たった。


魔術師どもは見当違いの場所を探し、子供はしばらく入院したあとで、日本へと帰国した。


俺も後を追って、日本へと密入国する。


子供の素性は調べてあった。

祖父がギャングのボスで、そこに引き取られたらしい。


まったく好都合だった。

このままギャングの組織を俺のものとしてしまおう。


俺はまず医者として懐に入り込んだ。


医者。

この俺が、だ。


笑ってしまう。


だが老齢のボスは信じた。

賢者の石を埋め込んだ子供の具合が悪かったのだ。

膨大な魔力マナに、肉体が追っつかずに、圧倒されていたのだ。


俺はその弱みに付け込んだ。


1日に1回。

子供の魔力マナを払ってやった。

それで子供の調子は良くなった。


とはいえ、しょせんは対処療法。

だんだんと子供の体調は悪くなる。


俺は子供の様子を子細に診た。

何時かは賢者の石を俺が取り込むのだ。

その時に備えて、子供が弱っていく様子を観た。


そのあいだにも催眠魔術をつかってギャング……いいや、ヤクザか。組織を我が物とした。


ゆっくりと。

日本の陰陽師どもに気取られないように細心の注意を払いながら。


そんな時だ。

部下からペガサスを見たなどという報告が上がった。


馬鹿な。荒唐無稽な話だ。

ペガサスなんていうキメラは魔術統合協会が表に出ないように厳しく監督しているのだ。


「調べるだけ、調べてみるか…」


俺は部下に隠密裏に調査するよう命じた。

このあとでボリスは化け物に殺されちゃうのです

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