『心酔と作戦会議(独り)』
滝藤を、自分の担任を始末した日の夜。
「クククッ、フフ、フハハハハハハハハ……ッ!」
弘明は机の上にノートを広げ、滝藤のページとその顔写真に大きく、力任せにバツ印を書き入れ、笑っていた。
「この優越感……ッ!ククッ……こ、この爽快感……フハッ!さらにこの身体中から溢れ出る愉悦はッ!」
まるで、乾ききった植物が、数日ぶりの雨に歓喜するかの如く。
「誰が『復讐なんて何も産まない』なんて言ったァ!産んでいるじゃあないか!この俺に!こんなにまで楽しく!愉快な気持ちをよォ!」
本当に愉快そうに。
人ひとりの人生を、未来を、無茶苦茶に踏みつけ、踏むつぶし、踏むにじったことに対して。
「フフフ、俺はこの感情を味わうために、今日今日まで我慢してきたんだ。ああ、最高だ」
自分と同じ、もしくはそれ以下に堕ちた相手に対して。
「フフッ、アハハ、癖になりそうだ……!」
笑っていた。嗤っていた。
その声には、どこまでも響いていくような獰猛さが滲み出ていた。
小一時間笑い続けた後。
弘明は、次の標的を選ぶ事に血眼になり、没頭していた。
彼の頭の中は、もっと復讐をしたい、もっとこの快感を味わいたい、味わい続けたいといった欲求に満たされ、支配されていた。
「次は、と。教師を潰したから、生徒だな。」
自らの努力の証。
文字通り血と汗と涙の結晶を、貼ってある写真、裏でやっている事等を流し読みしたり、時々注意深く読み込んだりしながらパラパラとめくっていた。
「それにしても、いっぱいいるな〜、いやぁ楽しみ、実に愉しみだ」
と言い口角を吊り上げた。
そして、集中し直そうと伸びをした時、ふと。後ろにある、ソファー、その上に積み重ねてある、雑誌類が目に付いた。
「おっと。ハハッ、これは?神がこいつを次の獲物にしろっていうお告げか何かか?」
弘明はニヤニヤとした笑みを浮かべながら立ち上がり、雑誌類、その一番上にある、第三者から見れば実に清らかそうで、白い服を着た可愛らしい少女が表紙に載っているものを手に取り、自身の作戦企画所へと舞い戻った。
彼女の名は雨宮純。
読者モデルをしている。
長髪でタレ目、胸についた脂肪塊も大きい。
名前と姿形が相まってとても純粋そうで、その笑顔が何とも庇護欲をそそる少女だが……。
弘明はそれにとてつもない気持ち悪さ、嘔吐感と違和感を覚えている。
これまた彼は、ノートの当該者のページを開け、
「こいつ……裏でこんなにやることやっててよくでかでかと表紙飾れるよな。しかも、笑顔で、白のワンピース……ッハハハ!
まっっっ黒じゃねーか!」
その対比の面白さにひとしきり笑った所で、ヒーヒー言っている彼の、その心は決まったらしい。
「……。
次はこいつに決まりだな。
待ってろよ、俺が、必ず、お前らが俺に対して仕出かしてきた事の重大さを。その罪を。俺と同じように社会から弾き出されることによって思い知らせてやる!」
彼はそう言い、今から行うことに、膨れ上がる妄想に思いを巡らせ。
ケタケタと笑い続けていた。