『教師と社会のゴミ』
キーンコーンカーンコーン、と1日の終了を告げるチャイムが鳴る。
いつも通り弘明は誰よりも早く教室を出る。
まるで悪趣味な拷問器具のように悪意の棘が全て自分へと向かう気持ちの悪い空間から逃げるように。
だが心の中では違った。
───さて、誰からにしよう。
決して味方についてくれないクズみたいな教師か?表では認知してないように振る舞いながら裏では自分のことを嘲笑し、クスクスと笑う女子たちか?ガキみたいなイジメでそのちっぽけな自己顕示欲を満たし続ける男子か?劉輝に同調するばかりで自分の意思を持たない人形みたいだった中学生時代の男子か?
───それとも劉輝か?
幾度も夢想した。
奴らが苦しみ、もがき、どうにもならない恐怖を感じる瞬間を。
決して許さない、許しを請うことすらできないほどボロボロにしてやる。
静かな、そして燃えるような憎悪が弘明の頭の中を占めていた。
「おい!そこのお前!!」
突然響いた後ろからの声で弘明は心地の良い想像から顔を上げる。
声の主は担任の…ええと、滝藤、だったか。
「何ですか?」
弘明はどうでもいいといった感じで声にこたえる。
「少し話がある、ちょっと来い」
滝藤は生徒に話しかけるものとは思えない声音でそう言った。
───何かあるな。
そう思いながらも弘明は、はいと素直に言い、教師に従った。
滝藤は普通に職員室に行くのではなく、弘明を体育館の裏手へと連れて行った。
「話って一体なんなんですか?」
不審に思いながらも弘明は話を促す。
滝藤はニヤニヤ笑いながら言った。
「単刀直入に言う、お前学校をやめろ。」
……何言ってんだお前。
弘明は心の中でそう答えた。
そんな弘明の考えも知らずやつは続けて言った。
「お前という問題児がいるせいで、職員の中で俺は憐れみの目で見られて、イライラしてんだ。お前さえいなければこんなことはにはならなかったんだ。
今からでも遅くない、お前もクラスで虐められて嫌だろう?どちらにとっても利益になるいい提案だとは思わないか?」
こいつ本当に教師か?とち狂ってるんじゃなかろうか。
高校に通う理由というものを理解していないのでは?
弘明はこの人間の頭を疑った、疑いながらも彼ははっきりとした声で、
「嫌です」
そう答えた。
目に見えて滝藤の表情が変わった、下卑たニヤニヤ笑いから明らかな苛立ちを伴った怒りの表情へと。
「どうしてだ、そんなにクラスで虐められたいのか?」
冷めた声で奴は言った。
そんな滝藤を嘲るような目線で眺めながら確固たる意志で弘明は、
「まだやらなきゃいけないことが沢山あるんです」
と言い放った。
すると突然、弘明は背中に激しい痛みを感じた。
滝藤が彼の胸ぐらをつかんで体育館の壁面に叩きつけたのだ。
「いいか!お前みたいな犯罪者はなあ、俺のクラスにはいらねえんだよ。分かるか?お前のせいで評価を下げられる俺の気持ちが!?てめえさえ消えれば全部解決すんだよ!分かったらさっさと消えちまえ!この社会のゴミが!」
言うだけ言うと奴は校舎へと戻って言った。
弘明は咳き込みながら、ショルダーバックから一冊のノートを取り出した。
───決めた、あいつからだ。
そう考えながら弘明は苦しそうに、だが愉悦に染まった表情でノートを開いた。