~フライアウェイな悲喜こもごも~
早朝よりも早い、いうなら未明に村長に起こされて、寝ぼけた眼をこすりながら畑を耕していた。やや明るくなってきたとはいえ、夜における活動は危険と聞かされていたのにと、貴方はうまく動かない頭で考えている。村長の様子はというと、生き生きと土いじりをしていた。
「どうじゃ、楽しいじゃろう?」
満面の笑みを向けられて、そのことに不満がある場合、どういうのが一番正しいだろう。その正しい方法がわからない貴方は、とりあえず笑って頷くことにした。
そのまま作業を続けて、日が昇り早朝。作業がひと段落下ということで、近くの切り株に貴方は腰かける。寝不足と疲労が相まって、このまま二度寝することも出来そうだ。そんな貴方への差し入れとして、村長がお茶を持ってくる。そのまま、地面に直接座って、登ってきた陽を彼はぼんやりと眺め始めた。貴方も、それに倣って同じく陽を眺める。
体を動かしていたとはいえ、夜の間に冷えた外気が貴方の体温を奪っていた。温もりを感じられるお茶は、とてもありがたいものだった。
「なかなか悪くなかろう」
その光景を見たまま、村長は言う。横目で見るその顔は満ち足りた笑みがある。彼はお茶を飲み干した容器をそのまま地面に置き、野良道具を持って畑に歩いていく。貴方も急いでお茶を飲み干して、その後ろを追った。
解放されて村長の家に戻ったのはそれから日が昇って朝と言っていい時間だった。寝不足を感じるが、このまま寝ればきっと昼まで眠る自信が貴方にはある。朝には迎えに来るといっていたクルダが、寝ている貴方を見て怒るのは目に見えた。
ぼんやりした意識で、昨日、倒した敵が光になって包んだことを貴方は考えていた。村に来る道中と、洞窟でクルダと村長が別に倒した敵。それらはそうならなかった。あの敵だけ特別だったのかは、2人がそれを否定した。それ以外で、何か違ったことはなかった。
扉が開けられ思考が止まる。宣言通り迎えに来たクルダは、相変わらず怒ったような不満げな表情だ。
「ほら。ボケっとしてないでいくわよ」
彼女の催促で立ち上がり、村長の家を後にした。外は快晴、少し暑さを感じるが、柔らかく吹く風のおかげでそこまで気にならない。
歩いている最中、今回の件でマリーにも話をしておいたことを告げられる。貴方にそれを話す彼女は申し訳なさそうにしていて、特に気にしていないことを伝えると、少しだけ和らいだ。
「まぁ、また変なことあったら言わなきゃいけないから」
だから好き勝手しないでほしいということのようだが、今回の光は貴方によるものなのかもわからない。むしろ、第三者の視点から見てもらった方が、状況を冷静に分析できるのではと思う。貴方には光が迫ってきているように見えるだけで、詳しくわからないでいる。
「よっと、ちょうどいい場所ね。ちょっと砂利があるけど」
村の外れにある空き地のような場所、人目もあまり触れない。クルダはそういう場所を探していたようだ。何が目的かと聞くと、持っていた剣を投げ渡してきた。何とか受け取ったそれは、木製でできたもので、クルダは同じものをもう1つ持っている。貴方はぼんやりと歩いていたこともあって、手に持っているのは腰に差している剣だと思い込んでいた。
「訓練よ。ホントはマリーあたりとして欲しいんだけど、あの人は忙しいし、あたしだってとっとといろいろ回りたいからね」
クルダが構えるのを見て、貴方も彼女の持っている通りに構えてみる。とりあえず、クルダは真剣な面持ちだが、それでも洞窟内の敵と戦っている時より、言うなら圧のようなものは感じられない。彼女にとっては貴方は稽古をつける為の格下、本気になる要素もないということなのだろう。
胸を借りるつもりで、貴方は振りかぶってから飛び出して剣を振り落とす。わかりやすすぎるその動作に、あえて木製の剣で受けてから、初歩の初歩からかとため息をつかれた。何も知らないのだから、当然なのにと思ったことは、貴方は口に出さなかった。
クルダはまず、自分の剣を振る姿を見せて、貴方にそれを真似るよう指導してきた。最初はぎこちない動きから、徐々に剣を振るという動作に慣れてくる。まだまだ、細かい動きはできないが、それでも上から下に振り下ろす動作なら、ある程度剣の能力を発揮できるようになった。
「多少覚えがいいのかしらね。まぁ、あたしが教えてるからだろうけど」
少し面倒そうにしていたクルダだったが、貴方の上達の具合を見て満足そうに笑っている。その笑顔を見た貴方も、なぜか嬉しくなって笑う。
「さ、てと。ちょっと早いけど実地訓練よ。あたしの動きを見て、避けるか剣で受けるかでいいわ。まぁ、あの敵も何とか避けてたから、大丈夫だと思うけど」
彼女が構えるのを見て、貴方も構える。先ほどより彼女から、少しだが圧力を感じられた。そして貴方も、怪我をさせる意味合いでなくても、攻撃を仕掛けてくるということでの緊張感は先ほどより高まってくる。
しばらくの静寂の後、クルダは飛んできた。剣で受けようとも思ったが、あまりに早いそれに反応できないと悟り、瞬間足に力を込めて横に飛んだ。そして着地の際に、足元が丸いものを踏んだような感触がして滑り。
「あ!」
空が見え、自分の足が見え、そして後頭部を打ってから、貴方はしばらく意識を手放した。
暗転そして。
次にあるべきこと。