~いつも通りにいつもあるように~
貴方は守衛から借りたランタンと短剣を持って洞窟の中を、当然クルダと一緒に歩いている。それなりの広さがある空間だが、足場がいいとは言えない。整備した道を歩くわけではないのだから当然だが、その中をクルダはひょいひょいと歩いていくのを見て、貴方は彼女はこういうところも慣れたものなのだと実感する。なぜなら、自分は移動することにすらやや苦労しているのだから。
「はぁー。置いていけばよかったわよ」
どんなに善人だろうと、足手まといになる存在は必要ない。それが回避できるのであれば、なおのこと。彼女の肩を掴んだ貴方が、どういう訳か1人でいくべきではないと強く説得し、今までにない態度に気圧されたクルダは折れた形でこうなっている。そのことに彼女は強い後悔を覚えている。
狭い空間に、不慣れでしかも奇襲を仕掛けられるような場所。更にプラスされた仲間というより護衛対象が1人。あえてのメリットを考えるのであれば、自分が明かりを持たなくて済んでいること、ぐらいだろうか。クルダはそこまで考えてから、盛大にため息を吐いた。
「ヴェル。ほんっとーに。離れないでよ?」
クルダは仕方なくある程度は楽観的に考えることした。今の状況は、敵を討伐に向かった村長の後援。当然ながら敵も最初に気づくのは村長であって、自分達ではない。だから、危険度は今は低いと。
とはいえ、今後ろについてきている人物に、武術的な訓練を受けた所作もなければ、魔術的素養――実のところクルダにもそのセンスはない――も見受けられない。戦闘になったら物陰に居てもらうのが一番なのは間違いなかった。
そういうことを考えているクルダをよそに、貴方は助けに行く村長がどんな人物なのか聞いた。
「んー、ボーッとしてるわね」
貴方がキョトンとするのを見て、彼女はそうとしか言えないと繰り返す。村長に関する印象は、畑をしていつもお茶を飲んでぼーっとしている好々爺、それが彼女の印象だ。
「あ、ちゃんと戦えるからそれは大丈夫よ」
その言葉は、とりあえず付け足したとか言えない態度に、貴方は少しだけ不安を感じた。もちろん、この場における一番の不安材料は、貴方自身であることをわかっている上で。
しばらく、一本道の通路を歩いていくと争う音が聞こえる。何かしらの姿は見えず、奥側は右に曲がり先は見えない状態なので、その先なのは確かだ。当然、その音は戦いが起こっていることと、目的の相手がその場所にいることを示していた。クルダは素早く火を消すように貴方へ指示して、彼女が身を低くして急ぎ移動する。貴方もそれに倣って移動し、なんとか離れないようにするので精いっぱいだ。
一足先にクルダは奥へたどり着き、姿が見えなくなる。少し置いてから、彼女の気合が入った声も聞こえ、貴方は急ぐ。通路の奥は開けた場所になっており、そこにはクルダ以外に、老人と村へ向かう途中に遭遇した敵が数体を確認できた。
「おー、クルダ。すまんのぉ」
「そんなのいいわ。とっとと出たいから、終わらせるわよ!」
彼女は自分の側に居ろと貴方は言われたが、そうすると戦闘の邪魔でしかないのは、目の前で行われている光景でわかる。飛びかかりざまに振り下ろされる爪を避けて、剣で敵を断ち切るクルダ。貴方は、この塔で活動をしていくのなら、彼女のような技術を持たなければいけないことを実感していた。
それに、彼女を補佐する形で戦う村長もまた、かなりの実力を持っていることがわかる。持っている杖は護身のためと、メインの攻撃としている魔術を使う為のようだ。ただ、はたから見ると杖を振ると、遠くにいる敵がその杖を振った位置に合わせて切り傷を負ったとしか、理解できないものだった。
瞬く間に敵は姿を消していく。貴方は2人の活躍を見て先ほどよりも緊張感が薄まり、それが終わるまで通路内で待つことにした。
「いやいや、助かったわい。どうしてもワシの攻撃は決定打に欠けてのう」
「何言ってんだか、見えない刃なんて相手にしたくもないわよ」
2人も軽口を言う余裕が出てきている。貴方はもうそろそろ終わるだろうかと、中に入ろうとした時、物陰にいた敵が貴方に向かって襲い掛かってくる。何とか、右足を後ろに回す。わずかだが回避行動は取れたものの、左頬を爪がかすった。
貴方は、持っていた短剣を振り回す。運よくわき腹を斬りつけることができ、敵はそのまま後退。すでに助けへこちらに来ていたクルダが、気合の声をあげて首を刎ねると、敵はそのまま膝から崩れ落ちた。
「運が良かっただけだからね。忘れないでよ」
その顔は、怒ってはいない。どこかそう、冷酷さという言葉が合う冷たさがあった。戦いというものは、考えているほど甘くはないのだと、入塔者として教える先輩の姿。貴方は、敬いを込めてありがとうとお礼を言った。
「はっは、生きてるだけで儲けものじゃからな。若いの。してクルダ、この者は新しい入塔者かの?」
気づけば全ての敵はいなくなっていた。2人からも周囲を警戒している様子はないことから、危険は去ったのだと貴方は安堵する。
「そんなところよ。マリーに頼まれて、お守りってとこ」
そして貴方は気づく。マリーが先ほど倒した敵は、消えずに揺らめくような光を帯び始めたことを。
「それは大変じゃのう。見たところ……、なんじゃ?」
光はそのまま貴方に近づいてくる。しかし、それを貴方はなぜか受け入れて、光に包まれた。
あるべき姿。
あるべき帰結。