~そういう場所を聞くのと見るのと~
「なんであんたと組まなきゃいけないのよ…」
貴方はブツクサそう言われることに居心地の悪さを当然感じながら、その後ろを着いていく。少女の名はクルダといった。浮島に来たのはそこまで古くはないものの、入塔者としての実力は高い。と、マリーが言っていた。
彼女の持つ剣は思いの品であり、シンプルな作りをしているが、装飾は鍔に当たる部分に十字マークが刻まれている。華美ではないにせよ、装飾があるということから戦闘用というより、儀式的意味合いがある武器だったのではと考えられている。しかし、所有者のクルダはそれを覚えておらず、見た目の用途通りで使用しているというわけだった。
貴方がクルダを選んだのは、マリーに似た雰囲気を感じたからだったのだが、残念ながら彼女に比べると非常に気が強かった。ただ、そう言いながらもマリーのお願いでクルダが貴方と一緒にいてくれるのは、面倒見がいいのだろう。今も貴方がしっかりついてきているか、時折確認してくれている。そして目が合うと。
「ちゃんと着いてきなさいよ!」
とまた先を早歩きで進みだす。なぜそこまでピリピリするのか、貴方にはわからない。しかし、何もわからない貴方は入塔することを決めていた。それ以外に行くところはない浮島でそのままでいても、自分が何者であるかという感覚を引きずって生きていくことに耐えられない。そんな直感があったからだ。
しかし、貴方は1人で塔を登ってやっていける力は見受けられなかった。そうなると当然なことながら、力を借りなければいけない。その存在が、クルダ。貴方の自分を知るという目的の為、協力してもらえるのなら、彼女の機嫌はあまり損なわないようにしなければいけない。
巨大な塔の足元が近づいてくる。どんな危険な場所なのかと想像すると、貴方の体はこわばってきた。
「あららー。もう見つけたんだー。手が早いねー」
扉近くまで歩いても声がなかったこともあり、貴方はラクルは寝ていると思っていた。しかし、寝ぼけた様子はなく、非常に、とても悪い顔つきで笑ってこちらを見ている。
「何、何言いたいのよ。言いなさい!」
「あはは。何にも、だよー」
人はこんな簡単に激怒できるんだろうなと様子でクルダは噛みつくが、ラルクはそれを右へ左へ受け流している。それこそ悪い笑みのままでだ。
「でもまー、安心したかなー。クルダちゃんなら安全に塔の中を巡れるだろうからねー」
まだクルダは彼女に軽く噛みついているが、無視して貴方にそう言った。表情からして、そのことに嘘はないようだ。彼女を選んだことで不安を感じていたこともあり、少しだけ気持ちが落ち着いたのを、感じた。
「あんたねぇ、その性格直したらどうなの?」
「おあいにく様かなー。クルダちゃんもそのキツイ性格で、大体1人で探索してるじゃないのー」
なんとなく想像できることだったが、顔には出さないようにした。幸いにもそれを聞いた貴方がどう思っているのか確認するよう、クルダは睨みつけてこちらを見てきた。貴方は諭すように言うと、渋々ながらクルダは受付から離れて戻ってきた。
「クルダちゃんから離れないようにねー」
塔の中にいく貴方達に、ラルクは手を振って見送った。
中は明るいとは言えない。人2人が横に並べる広さしかない長い通路が続き、壁には等間隔で左右に松明が置かれている。最低限の視界があるというぐらいだ。ただ、奥の方は明るくそこが階段になっているのはわかる。
「第一階層なら、そんな心配はいらないと思うけど、ここからは、本当に気をつけて着いてきてよ」
そういって先に進むクルダに着いていく。警戒はしているものの、武器は構えていないことからこの通路自体は問題ないのだろうと、貴方は考える。と言っても、何が起きるかはわからない。少なくとも彼女に異変があれば、問題が起きたと一致する。その意味で貴方はクルダの動向を注視して歩く。
そのまま階段にたどり着き上がっていく。ここでもまだクルダは腰にある剣の柄に手をかけ、貴方は軽く生唾を呑んだ。そして、階段を登り切った後の光景にも驚くことになる。
綺麗な草原が広がっている。塔の中に入ってきたはずなのに、柱の一本すら見当たらない。当然、窓もないのだが、今いる場所はとても明るかった。それもそうだ、頭上には少し傾いたとはいえ、先ほど塔の外に居た時とほぼ同じ位置に太陽がある。
「ねぇ、聞いてる? もう、聞いてるの。ヴェル!」
ここでの名前を呼ばれて、貴方はようやっと驚きから戻ってくることができた。
そこにいる存在。
存在を示せ。