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~選択できることの幸福~


 貴方が食堂に訪れたのは2回目だ。あのナナシと名乗った何でも屋が、案内前に自分の腹ごしらえの為訪れて、簡単にこの浮島について話を聞いた。今にして思えば、かなり不真面目な人間だった、施設もこんなのがあると口で説明するだけで、そのまま王の家に向かい、そのまま待つよう言われたのだから。


 そんな事情もあり、貴方はマリーにナナシの総評を聞いた。簡単に言うなら、気まぐれでなければ優秀な人間というものだ。


「彼は、なんというか。風来坊というものなのでしょうか、不真面目ではないのです。風のように彷徨い、必要であればいる。長い付き合いではございますものの、私もわからないところが多々あります」


 最後に、塔もある程度は入れる実力はありますが、一緒に行ってはくれないでしょうと締めくくられた。貴方として、一緒に行くべきかは考える相手ではある。都合はいいのかもしれない。


 マリーの提案で、食事をとることにした。と言っても、貴方はほとんどを忘れた存在。最低限の常識や倫理観は持ち合わせているのだが、メニューを見てもピンと来ない。それこそわかるのは、ナナシが食べていた蕎麦といった麺類だけだ。仕方なく、マリーにオススメを聞く。


「オススメですか。ではこのパンケーキか、サンドイッチはいかがでしょう? あ、それが詳しくわからないのですね。パンケーキはバターが乗っていて、シロップと呼ばれる甘いものをかけて食べます。サンドイッチは日によって具材が変わりますが、パンという物の間に野菜などを挟んでいただくものです」


 貴方はその説明を受けて、どちらを食べたいか考えて、パンケーキを選んだ。理由は甘いものを食べたい、それぐらいの理由。マリーも偶然に同じものを食べるつもりだったようで、お揃いですねと可愛らしく微笑んだ。


 注文を終えて貴方は店内を見回す。少し人が少なく感じられて、マリーに尋ねる。お昼時ではないからでしょうと、返されて貴方はそういうものだと納得した。


「ただ、そう感じたということは、貴方はこういうところに人が多くいる環境で過ごした。ということなのでしょうね」


 納得のいく推察、というべきか。何もかも空白な貴方には、そういう考えもありがたいものだった。自分が何者であるか、その理解が深まって役に立つかはわからない。けれど、誰かわからない自分を生き続ける。想像するとかなり辛いものな気がしてならない。


 そういうやり取りの間にパンケーキが運ばれてきた。甘い匂いが漂い、これからの食事が楽しいものだと想像させた。皿の上に盛り付けられたものを見た時、なんとなくどういうものかはわかった。味を思い出せないのは、楽しみの意味で都合が良かった。


 パンケーキの上にのっている四角いバターを全体に塗り、それからシロップをかける。という動作をマリーがしているのを見て真似る。切り分けて食べるのと、置いてある道具も見ればわかる形状をしていたので、一口大の大きさにして口に運ぶ。


 甘さと一緒にシロップの香りが抜ける。パンケーキも柔らかい弾力もあって、美味しさというより幸福感を貴方を覚えている。マリーも食べようとしていた理由が、貴方にはわかった。


「クス、気に入っていただけたようで何よりです」


 貴方は知らず知らずのうちに、パンケーキをパクパクと口に運んでいるのを彼女は見て、喜んで言う。貴方は少し気恥ずかしくなって、今度は自分がマリーの食事をする様子を見た。ゆっくりとした優雅な動き、見られることを前提とした洗練な動作。この場所にどこか不釣り合いにも感じられた。


 食べ終わり、食後のお茶を楽しむ。ただ、本来の目的は塔を登るため、一緒に同行してもらえる仲間を探しに来た。貴方は周囲を見渡す。ちょうどマリーのように武器を持った人間が3人ほどいた。


「3人とも私と知り合いですから、安心して声をかけてみてください。多分、貴方の勘でお選びになった方が良いかと思います」


 何もわからない自分が、と思ったがそのことにマリーは確信を持っているようで、ニコニコと笑い貴方が声をかけるのを待っている。


 見える三人は、マリーよりは見た目は年上に映る少女、頬に傷があり仏頂面な男性、女店員の臀部でんぶを触り怒られている男。貴方は―――

選んでいるのか。


満たしているのか。

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