~願いそして灰となれ~
訓練も一通り受けて、後は実践のみとなった貴方は、教会に向かっていた。集合場所としていた食堂でクルダが現れず、待ちぼうけしている貴方に、マリーが今時間ならそこにいるでしょうと教えられ、迎えに移動している。
向かう最中、この間の夜や最近収集している知識を統合すると、クルダは恐らく宗教に絡んでいた人間であったことは容易く想像できた。思いの品である剣を、クロスと呼ぶ。それは単なる十字ではなく、十字架を指しているのではないか。そもそも剣自体にもその刻印がされているも含めて、外してはいない。確信を貴方は抱いている。
宗教絡みは何かといさかいの要因となるが、貴方はそれに何らかの感情も抱かない。忘れた者であるからだろうが、心に引っかかることもない。彼女がそれに関わるのだろうという想像は、むしろ貴方にとってはクルダを知れたことに喜びを覚えていた。
教会にたどり着く。大きさは一軒家程度、木造でできていて、鐘が屋根のところについている。それ以外は民家のように貴方は見える。
扉を開けて中に入る。左右に三つずつ簡素な長椅子、その奥に恐らく聖書といった物を置くであろう台がある。左手奥に扉が1つ。質素と表現できるが、この浮島の標準とも言える。その左側にある長椅子の最前列の右側に、クルダは座っている。両手を組み、頭を下げ深く深く祈っていた。
近づいて、声をかけるべきか迷う貴方の背後から、意味はありませんよと逆に声をかけられてしまう。急いで振り返ると、そこにはフード付きの黒い服を着て、腰に紐を巻き、首から見たことのないシンボルが施されたペンダントを着けた修道士の姿があった。教会内に入った時には、クルダ以外の人影はなかった。
「おかけください。彼女は一度祈りに入ると長いのですよ」
まるで目を閉じているかのような細い目、そこに無表情を湛えている。動作は物静かでゆっくりとしていて、貴方を横切りクルダの真後ろの位置で座った。手のひらを出し、今度は言葉ではなく行動で座るようまた推奨してきたこともあり、貴方は座ることにした。
「そのままお待ちになりなさい。信心がございますなら、貴方も貴方の神に祈られるといい」
それだけ言い、修道士も静かに祈り始める。自身の神と言われても、貴方には何もピンと来ない。神であれ何であれ、何かを信じて生きてきたのか。結局、想像するのは自分のこと。
忘れた者である貴方に、興味があるものと言えば、それはつまるところ自分自身のこと。何かを受け止める自分無くして、他に興味を持ちようはない。なら、なぜ、貴方は彼女が笑うと、とても嬉しい気持ちになるのか―――。
「待たせたわね」
祈りの済ませたクルダは、貴方の左前に立っている。呆けた顔を見て、どうしたのと不思議そうにしていた。
何か気付けそうな、でも忘れてしまったこと。もう取り戻せないそれに、貴方はそこまで興味を持てなかった。何よりこれからクルダと塔を巡ることの方が重要。何も言わず、行こうという貴方に、クルダは少し納得できなさそうな顔をした。
それぞれの信仰
それぞれの不和




