表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

~フルムーンライト~


「ねぇ」


 宿に戻り、自室にいた貴方の下にクルダはやってきていた。会話はない、彼女が持ってきたランタンは備え付けの机に置かれ、彼女はぼんやりと窓から月をしばらく眺めていた。


 ベッドに座っていた貴方は、呼び掛けに顔を向けて反応した。彼女はこちらはまだ見ていない。視線の先にあるのは相変わらず満月。気づいているかわからないと思い、貴方はどうしたか聞き返した。


「本当に、何も覚えてないの?」


 ようやっとこちらに向けた顔は、一緒に疑惑を持っていると伝えてくる。しかし、疑われても貴方は自身のことを、それこそ欠片さえ思い出せない。ここに来た時の記憶が、自身とおぼろげに感じられるもの。不確かで、頼りない、それでも、人と接触することで貴方であると認識できる浮島ここでの記憶が、全て。


 せめて、クルダのように思いの品でもあればと思ったことは、貴方は当然あった。ただそれは、今気づいている貴方という自身を否定しているようで、あまり考えないようになっていた。


 自傷気味にクルダは静かに笑う。自分の問いが意味を持っていないことを、貴方の様子で気づいてしまったからだ。それから、鞘に入れた状態で思いの品である剣を、腰から彼女は引き抜いた。


「言ってたっけ? これのこと、クロスって呼んでるのよ。うん、それはいいか。ヴェルと違ってあたしは少し、記憶があるというか、まぁ、クロス(これ)を見てると思うの。誰か助けなきゃっていう思いと…、渦巻く憎悪をってやつをね」


 少し驚いた貴方は、理由を聞こうと口を開いて、止めた。思いの品が、何も善い感情のものとは限らない。言うなればそのものに対して、その人間がいかに執着しているのか。それがこの世界に現れる際、一緒に引き寄せて持ってきていると浮島の人間達は考えている。


 言うなれば、クルダはその剣に愛憎のようなものを抱いている。そして、全てを覚えていない彼女にその理由はわからない。


「なんとなく気づいてたかもしれないけど、夜が嫌いというより、暗闇だったり閉鎖した空間が嫌なの。記憶の中のあたしは、牢の中にいる。誰も、あたしの言葉なんて聞いてくれない」


 首を振る。共に塔へ登る仲間になったとは言っても、会って数日しか経っていない関係なのに、クルダはどうしてあなたには話す気になったのかわからない。でも、貴方が真剣な眼差しで自分を見てくれることに、彼女はホッとした。


「いいの? あたしもそこにいた理由はわからないけど、善人じゃないからかもよ?」


 それはないと、貴方は断定して、クルダは笑う。心底おかしかった、貴方は何も知らないはずなのに、何がわかるのかという気持ちはある。けれど、その言葉に嘘があると考えられなかった。自分を信じてくれることが、ここまで嬉しいことだったことを思い出していた。


 おかしな奴、貴方に対して浮かべた彼女の素直な気持ちだった。


「あーあ。なんであんたなんかにこんなこと話しちゃったんだか」


 飲んだこともない酒を呑みたい気分になる。いろいろな感情が沸き出て、酔いに任せて全部吐き出せたら楽になる気がした。


「…、内緒よ。そういうのもいいでしょ」


 貴方は頷いて、そのまま窓を見る、まだそこに満月はあった。

忘れるべきか。


失うべきか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ